ランドマーク ~そこに君がいてくれるから~

志生帆 海

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第2章

君と僕、俺と君 15

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 君から僕へと真っすぐに差し出された手に、躊躇した。
 この手を取っていいのか分からなくて。
 暫しの沈黙は、僕の迷いだ。
 でも決心した。

 夢を見てみたい──束の間でも。
 だから君の手を取った。

「行こう!」
「うん!」

 メリーゴーラウンドとは、ポールに付属した馬の置物がぐるぐると回転していく不思議な乗り物で、中央に小さなパイプオルガンのようなものがあって、レトロな音楽が流れていた。

「やっぱり小さな子しかいないな。まぁいいか。どの馬がいい?」
「あっ、うん」
「ほら、おいで。この白馬にしよう。君に似合うよ。俺はその横の黒い馬にしよう」

 見様見真似で跨ると、すぐに動きだした。

「わっ、怖い」
「ははっ、ポールにしっかり掴まって前を見て」
「う、うん」

 こんな乗り物があるなんて!
 ぐるぐる、ぐるぐる……

 煌びやかな光と優雅な音楽の中、馬が上下して回転していく。
 夢の世界に酔いそうになって、ギュッとポールにしがみ付くと、君が僕の背中を優しく撫でてくれた。

「大丈夫か。顔を上げてごらん。うつむいていると怖いだけだよ」

 確かに俯いていると、足元しか見えない。
 僕の人生だ。それは……
 見上げてはいけないと思っていたから、俯いて命令されるままに淡々と生きてきた。

「そうだ。前もいいが、天井を見てご覧よ」
「上? あっ……綺麗だ」

 天井には真っ青な青空に、気球や風船が浮かぶ明るい絵が描かれていた。
 人工的な空の絵だけど、僕にはどこまでも眩しかった。
 夢を抱くというのはこういう気持ちなのか……。
 その絵を眺めていると次第に怖くはなくなった。

「面白かった?」
「うん、最初は怖かったけれど」
「本物の乗馬はもっと楽しいよ。今度はそれもしよう」
「乗馬なんて……とんでもないよ、やったことないし無理だよ」
「何でも初めてがあるから面白いんだ。何でもトライしてみようよ。一歩踏み込むのがいいのさ」
「……そうなのかな?」

 僕とは違う考えに、感化されてしまう。
 その後は、大きな滑り台を滑ったり電動ブランコのような遊具にも乗り、僕もだんだん遊園地に慣れてきた。

「いい顔になってきたな」
「ありがとう。今日はいい経験をさせてもらったよ」
「また来よう。もっともっと君とは行きたい所がたくさんあるよ。来週も会おうよ」

 そんな風に言ってもらって良いのだろうか。でも僕はそんなにお金を持っていない。田村さんからもらったお小遣いは微々たるもので、こんな調子ではすぐに底をついてしまう。会いたい気持ちはやまやまだが……やはりセーブしていかないと。

「ごめん。その、毎週は無理そうだ」
「え、そうか……忙しいの?」

 君はがっくりと肩を落とした。

「あの……ごめん。英語の勉強も大変で、日曜日は課題をこなすので忙しい時もあって」
「あーそうか、留学生だもんな」

 納得したような、していないような、中途半端な表情を浮かべている。
 罪悪感が募ってしまう。でも確かに浮ついていられない。
 来年入学する執事養成学校ではオールイングリッシュなので、語学面で落ちこぼれたくない。
 可もなく不可もなく……目立たないように生きていくためにも。

「うん、そうなんだ」
「仕方がないな。じゃあいつなら会える? 次はいつ?」
「……1ヶ月後でいいかな」
「来月? えええ……随分と先だな。あーすごく残念だよ」

 もしかしてもう愛想を尽かされてしまうかなと、心配した。

「でも我慢するよ。絶対にまた会いたいから」
「本当にそう思ってくれるの?」

 素直に嬉しかった。こんなにも純粋にまた会いたいと強く言ってもらえるなんて。
 会うのは毎週でなくなるが、この先は君と過ごす1回1回を大切にしていこうと誓った。

「もちろんだ。君が行きたい所に今度こそ行くよ」
「分かった。じゃあスペシャルコースを考えておくよ」
「くすっ、普通でいいよ。何でもない日常が僕は好きだから」
「……君って……変わっているね」
「そうかな」
「でもそんな所がいい」



 日が暮れていく。あっと言う間に別れの時間だ。
 ふたりとも何となく名残惜しく、Funfairファンフェア(移動式遊園地)の門から、外に出るのを躊躇っていた。

「絶対、絶対会おうな! 約束だぞ」
「うん! 絶対に会うよ」
「ごめん、最後に少しだけ」

 別れ際に、君に突然ハグされた。

「えっ!」
「しばらく会えないから、こうしたかった。ごめん。イヤだった?」
「ううん……温かかった」
「はー やっぱり君って、可愛いな」

 ふわりと愛情を込めて抱きしめられたような気がして、心臓が高鳴った。
 次に会えるのは1ヶ月後だなんて、寂しいな。
 もしかしたら自分で自分の首を絞めてしまったのかも。
 でも、これが今の僕の精一杯。

 寂しいが、あと1年間、夢を見るためには、こうするしか。
 別れが寂しい気持ちと、胸が高鳴る気持ち。
 両方を抱えながら、家路についた。
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