35 / 37
第2章
君と僕、俺と君 15
しおりを挟む
君から僕へと真っすぐに差し出された手に、躊躇した。
この手を取っていいのか分からなくて。
暫しの沈黙は、僕の迷いだ。
でも決心した。
夢を見てみたい──束の間でも。
だから君の手を取った。
「行こう!」
「うん!」
メリーゴーラウンドとは、ポールに付属した馬の置物がぐるぐると回転していく不思議な乗り物で、中央に小さなパイプオルガンのようなものがあって、レトロな音楽が流れていた。
「やっぱり小さな子しかいないな。まぁいいか。どの馬がいい?」
「あっ、うん」
「ほら、おいで。この白馬にしよう。君に似合うよ。俺はその横の黒い馬にしよう」
見様見真似で跨ると、すぐに動きだした。
「わっ、怖い」
「ははっ、ポールにしっかり掴まって前を見て」
「う、うん」
こんな乗り物があるなんて!
ぐるぐる、ぐるぐる……
煌びやかな光と優雅な音楽の中、馬が上下して回転していく。
夢の世界に酔いそうになって、ギュッとポールにしがみ付くと、君が僕の背中を優しく撫でてくれた。
「大丈夫か。顔を上げてごらん。うつむいていると怖いだけだよ」
確かに俯いていると、足元しか見えない。
僕の人生だ。それは……
見上げてはいけないと思っていたから、俯いて命令されるままに淡々と生きてきた。
「そうだ。前もいいが、天井を見てご覧よ」
「上? あっ……綺麗だ」
天井には真っ青な青空に、気球や風船が浮かぶ明るい絵が描かれていた。
人工的な空の絵だけど、僕にはどこまでも眩しかった。
夢を抱くというのはこういう気持ちなのか……。
その絵を眺めていると次第に怖くはなくなった。
「面白かった?」
「うん、最初は怖かったけれど」
「本物の乗馬はもっと楽しいよ。今度はそれもしよう」
「乗馬なんて……とんでもないよ、やったことないし無理だよ」
「何でも初めてがあるから面白いんだ。何でもトライしてみようよ。一歩踏み込むのがいいのさ」
「……そうなのかな?」
僕とは違う考えに、感化されてしまう。
その後は、大きな滑り台を滑ったり電動ブランコのような遊具にも乗り、僕もだんだん遊園地に慣れてきた。
「いい顔になってきたな」
「ありがとう。今日はいい経験をさせてもらったよ」
「また来よう。もっともっと君とは行きたい所がたくさんあるよ。来週も会おうよ」
そんな風に言ってもらって良いのだろうか。でも僕はそんなにお金を持っていない。田村さんからもらったお小遣いは微々たるもので、こんな調子ではすぐに底をついてしまう。会いたい気持ちはやまやまだが……やはりセーブしていかないと。
「ごめん。その、毎週は無理そうだ」
「え、そうか……忙しいの?」
君はがっくりと肩を落とした。
「あの……ごめん。英語の勉強も大変で、日曜日は課題をこなすので忙しい時もあって」
「あーそうか、留学生だもんな」
納得したような、していないような、中途半端な表情を浮かべている。
罪悪感が募ってしまう。でも確かに浮ついていられない。
来年入学する執事養成学校ではオールイングリッシュなので、語学面で落ちこぼれたくない。
可もなく不可もなく……目立たないように生きていくためにも。
「うん、そうなんだ」
「仕方がないな。じゃあいつなら会える? 次はいつ?」
「……1ヶ月後でいいかな」
「来月? えええ……随分と先だな。あーすごく残念だよ」
もしかしてもう愛想を尽かされてしまうかなと、心配した。
「でも我慢するよ。絶対にまた会いたいから」
「本当にそう思ってくれるの?」
素直に嬉しかった。こんなにも純粋にまた会いたいと強く言ってもらえるなんて。
会うのは毎週でなくなるが、この先は君と過ごす1回1回を大切にしていこうと誓った。
「もちろんだ。君が行きたい所に今度こそ行くよ」
「分かった。じゃあスペシャルコースを考えておくよ」
「くすっ、普通でいいよ。何でもない日常が僕は好きだから」
「……君って……変わっているね」
「そうかな」
「でもそんな所がいい」
日が暮れていく。あっと言う間に別れの時間だ。
ふたりとも何となく名残惜しく、Funfair(移動式遊園地)の門から、外に出るのを躊躇っていた。
「絶対、絶対会おうな! 約束だぞ」
「うん! 絶対に会うよ」
「ごめん、最後に少しだけ」
別れ際に、君に突然ハグされた。
「えっ!」
「しばらく会えないから、こうしたかった。ごめん。イヤだった?」
「ううん……温かかった」
「はー やっぱり君って、可愛いな」
ふわりと愛情を込めて抱きしめられたような気がして、心臓が高鳴った。
次に会えるのは1ヶ月後だなんて、寂しいな。
もしかしたら自分で自分の首を絞めてしまったのかも。
でも、これが今の僕の精一杯。
寂しいが、あと1年間、夢を見るためには、こうするしか。
別れが寂しい気持ちと、胸が高鳴る気持ち。
両方を抱えながら、家路についた。
この手を取っていいのか分からなくて。
暫しの沈黙は、僕の迷いだ。
でも決心した。
夢を見てみたい──束の間でも。
だから君の手を取った。
「行こう!」
「うん!」
メリーゴーラウンドとは、ポールに付属した馬の置物がぐるぐると回転していく不思議な乗り物で、中央に小さなパイプオルガンのようなものがあって、レトロな音楽が流れていた。
「やっぱり小さな子しかいないな。まぁいいか。どの馬がいい?」
「あっ、うん」
「ほら、おいで。この白馬にしよう。君に似合うよ。俺はその横の黒い馬にしよう」
見様見真似で跨ると、すぐに動きだした。
「わっ、怖い」
「ははっ、ポールにしっかり掴まって前を見て」
「う、うん」
こんな乗り物があるなんて!
ぐるぐる、ぐるぐる……
煌びやかな光と優雅な音楽の中、馬が上下して回転していく。
夢の世界に酔いそうになって、ギュッとポールにしがみ付くと、君が僕の背中を優しく撫でてくれた。
「大丈夫か。顔を上げてごらん。うつむいていると怖いだけだよ」
確かに俯いていると、足元しか見えない。
僕の人生だ。それは……
見上げてはいけないと思っていたから、俯いて命令されるままに淡々と生きてきた。
「そうだ。前もいいが、天井を見てご覧よ」
「上? あっ……綺麗だ」
天井には真っ青な青空に、気球や風船が浮かぶ明るい絵が描かれていた。
人工的な空の絵だけど、僕にはどこまでも眩しかった。
夢を抱くというのはこういう気持ちなのか……。
その絵を眺めていると次第に怖くはなくなった。
「面白かった?」
「うん、最初は怖かったけれど」
「本物の乗馬はもっと楽しいよ。今度はそれもしよう」
「乗馬なんて……とんでもないよ、やったことないし無理だよ」
「何でも初めてがあるから面白いんだ。何でもトライしてみようよ。一歩踏み込むのがいいのさ」
「……そうなのかな?」
僕とは違う考えに、感化されてしまう。
その後は、大きな滑り台を滑ったり電動ブランコのような遊具にも乗り、僕もだんだん遊園地に慣れてきた。
「いい顔になってきたな」
「ありがとう。今日はいい経験をさせてもらったよ」
「また来よう。もっともっと君とは行きたい所がたくさんあるよ。来週も会おうよ」
そんな風に言ってもらって良いのだろうか。でも僕はそんなにお金を持っていない。田村さんからもらったお小遣いは微々たるもので、こんな調子ではすぐに底をついてしまう。会いたい気持ちはやまやまだが……やはりセーブしていかないと。
「ごめん。その、毎週は無理そうだ」
「え、そうか……忙しいの?」
君はがっくりと肩を落とした。
「あの……ごめん。英語の勉強も大変で、日曜日は課題をこなすので忙しい時もあって」
「あーそうか、留学生だもんな」
納得したような、していないような、中途半端な表情を浮かべている。
罪悪感が募ってしまう。でも確かに浮ついていられない。
来年入学する執事養成学校ではオールイングリッシュなので、語学面で落ちこぼれたくない。
可もなく不可もなく……目立たないように生きていくためにも。
「うん、そうなんだ」
「仕方がないな。じゃあいつなら会える? 次はいつ?」
「……1ヶ月後でいいかな」
「来月? えええ……随分と先だな。あーすごく残念だよ」
もしかしてもう愛想を尽かされてしまうかなと、心配した。
「でも我慢するよ。絶対にまた会いたいから」
「本当にそう思ってくれるの?」
素直に嬉しかった。こんなにも純粋にまた会いたいと強く言ってもらえるなんて。
会うのは毎週でなくなるが、この先は君と過ごす1回1回を大切にしていこうと誓った。
「もちろんだ。君が行きたい所に今度こそ行くよ」
「分かった。じゃあスペシャルコースを考えておくよ」
「くすっ、普通でいいよ。何でもない日常が僕は好きだから」
「……君って……変わっているね」
「そうかな」
「でもそんな所がいい」
日が暮れていく。あっと言う間に別れの時間だ。
ふたりとも何となく名残惜しく、Funfair(移動式遊園地)の門から、外に出るのを躊躇っていた。
「絶対、絶対会おうな! 約束だぞ」
「うん! 絶対に会うよ」
「ごめん、最後に少しだけ」
別れ際に、君に突然ハグされた。
「えっ!」
「しばらく会えないから、こうしたかった。ごめん。イヤだった?」
「ううん……温かかった」
「はー やっぱり君って、可愛いな」
ふわりと愛情を込めて抱きしめられたような気がして、心臓が高鳴った。
次に会えるのは1ヶ月後だなんて、寂しいな。
もしかしたら自分で自分の首を絞めてしまったのかも。
でも、これが今の僕の精一杯。
寂しいが、あと1年間、夢を見るためには、こうするしか。
別れが寂しい気持ちと、胸が高鳴る気持ち。
両方を抱えながら、家路についた。
12
あなたにおすすめの小説
こわがりオメガは溺愛アルファ様と毎日おいかけっこ♡
なお
BL
政略結婚(?)したアルファの旦那様をこわがってるオメガ。
あまり近付かないようにしようと逃げ回っている。発情期も結婚してから来ないし、番になってない。このままじゃ離婚になるかもしれない…。
♡♡♡
恐いけど、きっと旦那様のことは好いてるのかな?なオメガ受けちゃん。ちゃんとアルファ旦那攻め様に甘々どろどろに溺愛されて、たまに垣間見えるアルファの執着も楽しめるように書きたいところだけ書くみたいになるかもしれないのでストーリーは面白くないかもです!!!ごめんなさい!!!
借金のカタで二十歳上の実業家に嫁いだΩ。鳥かごで一年過ごすだけの契約だったのに、氷の帝王と呼ばれた彼に激しく愛され、唯一無二の番になる
水凪しおん
BL
名家の次男として生まれたΩ(オメガ)の青年、藍沢伊織。彼はある日突然、家の負債の肩代わりとして、二十歳も年上のα(アルファ)である実業家、久遠征四郎の屋敷へと送られる。事実上の政略結婚。しかし伊織を待ち受けていたのは、愛のない契約だった。
「一年間、俺の『鳥』としてこの屋敷で静かに暮らせ。そうすれば君の家族は救おう」
過去に愛する番を亡くし心を凍てつかせた「氷の帝王」こと征四郎。伊織はただ美しい置物として鳥かごの中で生きることを強いられる。しかしその瞳の奥に宿る深い孤独に触れるうち、伊織の心には反発とは違う感情が芽生え始める。
ひたむきな優しさは、氷の心を溶かす陽だまりとなるか。
孤独なαと健気なΩが、偽りの契約から真実の愛を見出すまでの、切なくも美しいシンデレラストーリー。
平凡ワンコ系が憧れの幼なじみにめちゃくちゃにされちゃう話(小説版)
優狗レエス
BL
Ultra∞maniacの続きです。短編連作になっています。
本編とちがってキャラクターそれぞれ一人称の小説です。
君に二度、恋をした。
春夜夢
BL
十年前、初恋の幼なじみ・堂本遥は、何も告げずに春翔の前から突然姿を消した。
あれ以来、恋をすることもなく、淡々と生きてきた春翔。
――もう二度と会うこともないと思っていたのに。
大手広告代理店で働く春翔の前に、遥は今度は“役員”として現れる。
変わらぬ笑顔。けれど、彼の瞳は、かつてよりずっと強く、熱を帯びていた。
「逃がさないよ、春翔。今度こそ、お前の全部を手に入れるまで」
初恋、すれ違い、再会、そして執着。
“好き”だけでは乗り越えられなかった過去を乗り越えて、ふたりは本当の恋に辿り着けるのか――
すれ違い×再会×俺様攻め
十年越しに交錯する、切なくも甘い溺愛ラブストーリー、開幕。
神様は僕に笑ってくれない
一片澪
BL
――高宮 恭一は手料理が食べられない。
それは、幸せだった頃の記憶と直結するからだ。
過去のトラウマから地元を切り捨て、一人で暮らしていた恭一はある日体調を崩し道端でしゃがみ込んだ所を喫茶店のオーナー李壱に助けられる。
その事をきっかけに二人は知り合い、李壱の持つ独特の空気感に恭一はゆっくりと自覚無く惹かれ優しく癒されていく。
初期愛情度は見せていないだけで攻め→→→(←?)受けです。
※元外資系エリート現喫茶店オーナーの口調だけオネェ攻め×過去のトラウマから手料理が食べられなくなったちょっと卑屈な受けの恋から愛になるお話。
※最初だけシリアスぶっていますが必ずハッピーエンドになります。
※基本的に穏やかな流れでゆっくりと進む平和なお話です。
よく効くお薬
高菜あやめ
BL
昼はフリーのプログラマー、夜は商社ビルの清掃員として働く千野。ある日、ひどい偏頭痛で倒れかけたところを、偶然その商社に勤める津和に助けられる。以来エリート社員の津和は、なぜか何かと世話を焼いてきて……偏頭痛男子が、エリート商社マンの不意打ちの優しさに癒される、頭痛よりもずっと厄介であたたかい癒し系恋物語。【マイペース美形商社マン × 偏頭痛持ちの清掃員】
◾️スピンオフ①:社交的イケメン営業 × 胃弱で塩対応なSE(千野の先輩・太田)
◾️スピンオフ②:元モデル実業家 × 低血圧な営業マン(営業担当・片瀬とその幼馴染)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる