ランドマーク ~そこに君がいてくれるから~

志生帆 海

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第2章

君と僕、俺と君 19

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 全速力で走った。
 絶対に君を失いたくない。
 君を追いかければ追いかけるほど、膨らむ想いがあった。
 抱いてはいけないかもしれないが、育てたい想いだ。
 本で読んだことがある。
『恋い慕う』ことを、日本語で『懸想』と言うそうだ。
 まさにその言葉だ。
 俺が君に抱く感情は──

 「待ってくれ!」

 手を伸ばす。
 必死に伸ばすと、ようやく君の細い腕を掴むことができた。
 そのまま、俺たちは再び芝生に転がった。

「わっ!」
「あっ」

 君と出会った日のように、俺は君を抱きしめてゴロゴロと芝生を回転した。
 あの時は君の平らな胸に偶然手をついてしまったが、今日は意図的に君の心臓の上にそっと手を置いた。
 すると、とんでもない速さの鼓動を手の平に受け止めた。
 これは走ったからなのか。
 それとも俺が触れているからなのか。

「やっ……離せよっ」

 君は赤く染まった頬を見られたくないようで、腕を顔の前で交差させ隠してしまった。

「どうして逃げるんだ?」
「だって……今日は、約束の日じゃない……」
「……馬鹿だな。嬉しかったのに……俺は君に3週間も会えなくて、つまらなかったよ。君は?」
「……知らないっ」

 あれ? 少し君という人が分かってきたかも。

「そんなにやせ我慢するな。案外、天邪鬼なんだな」
「……君までっ……別にしてない!」

 優しくて大人しい印象の君に、こんなに激しい感情が潜んでいたなんて、意外だったが感動してしまった。

「ありがとうな」
「えっ……なんでお礼を?」
「言葉で言わなくても伝わってくる。俺に会いたいって思ってくれたのが嬉しくて」
「……君って人は。あ……くすっ」

 あっ、ここで笑うんだ。これも意外だ。
 笑うとやっぱりすごく可愛いな。

「くすくす、君、芝生の王冠を被っているみたいだよ」
「え?」
 
 自分の頭に手をやると、バサバサっと大量の芝が膝に落ちてきた。

「参ったなぁ」

 由緒正しき英国貴族の家に生まれた俺が、公園で転んで芝を頭につけるなんて、格好悪い。
 でも君とならいいか……

「はは、必死だったんだよ。笑うなよ」
「……逃げたりしてごめん。まさか君が今日、この道を通ると思わなくて、その、心の準備が出来ていなかった」
「偶然じゃないよ。君がいたらいいなと思って来たんだ」
「……僕も同じだよ」
「なんだ! 二人で同じこと考えていたなんて、俺たち気が合うな」
「本当に……いい……『友達』になれたね」
「あ……うん」


 ズキン──
 痛いな。その言葉……
 胸の奥に鈍く響くぞ。

 『友達』……
 しっくりこないな……

「あーあ」

 なんだか残念だ。
 まだ君にとって俺は友達止まりか。
 そのまま芝生に寝転んで、空を見つめた。

「あの、僕、何か余計な事を言った?」
「……いや。会えて嬉しいよ」
「僕もだよ。どこにも出かけなくていい。こうやって君が隣にいてくれたらいい」
「どこにも? 」

 こんなにも無欲な人に出逢ったことがないから、どう接したらいいのか分からない。俺が来週用意した豪華なホテルでのアフタヌーンティーや乗馬よりも、間もなく夏を迎える公園で、こうやって並んで話す方が幸せなのかもしれない。

 俺の事を名前も素性も良く知らないのに、心を許してくれる君。
 ならば、俺も君の背景なんて必要ない。
 今、俺の隣で優しく微笑む君だけを見つめていたい。

「今日はここでゆっくり話そうか」
「うん。よかったら……英語も教えてくれる?」
「もちろん!」

 学生らしい時間だ。
 今の俺たちにしか過ごせない時間だった。
 俺たち、もうすぐ大人にならないといけない。

 後から振り返れば、瞬きする程の短い時間かもしれないが、大切な時を君と一緒に過ごしたい。



 

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