ランドマーク ~そこに君がいてくれるから~

志生帆 海

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第2章

君と僕、俺と君 18

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「なんだよ、瑠衣、今日も家で勉強か」
「うん」
「お前さ、少し根を詰め過ぎじゃないか。顔色も悪いし」
「……そんな事ないよ。来週は出掛けるから、頑張って今のうちに課題を進めておきたくて」

 海里に心配そうに見つめられたが、虚勢を張ってしまった。

「ならいいけど……無理するなよ」
「分かってるって。さぁテニスに行っておいでよ。夕食に君が好きな日本食を作っておくから」
「瑠衣は日本食が好きだな」
「……やっぱり食べ慣れたものはホッとするよ」
「ありがとう。じゃあお礼に明日は俺がパスタを作るよ」
「楽しみだよ」

 楽しそうにラケットを背負い出掛ける海里を見送ってから、深いため息を一つ漏らした。
 今週も君に会えない……
 机の上に置いたカレンダーを恨めしげに見つめた。
 決めたのは僕自身なのに、残念に思うなんて変だろう。 
 課題に取り組むが、ちっとも捗らない。
 約束の日まであと1週間だ。
 来週にはちゃんと君に会えるのに今から待ち切れないなんて、僕は欲張りになってしまったのか。

 過分な欲は身の毒だ。
 それは知っているだろう。
 日本では欲なんて1度も抱かなかったのに、どうしてこんな事に……

 でも――
 一度知ってしまった自由で明るい世界は、僕にとって甘い蜜なんだ。
 今日行っても会えないと分かっているのに、僕は待ち合わせの場所にふらふらと足を運んでしまった。

 同じ場所、同じ時間……ここで来週、君と会える。
 そう思うだけで、さっきまでのザワついていた心がすっと凪いだ。
 なのに、まさか今日君に会えるなんて、思いもしなかった!

「君! どうして」
「えっ……」

 恥ずかしい。自分から会えないと言っておきながらノコノコ現れるなんて。
 
「こ、来ないでくれ」

 遠くから僕を見つけた君の声が響くと、僕は条件反射的に走り出してしまった。
 恥ずかしくて、気まずくて……君とは真逆の方向に。

「えっ、おい? ちょっと待ってくれよ!」
「ごめん……今日は会えないよ。だって約束は来週だから」

 君はすごい勢いで追いかけてくる。
 恥ずかしい! 恥ずかしい!
 僕、今どんな顔してる? 

 本当は嬉しいくせに、素直になれない天邪鬼な男が僕なんだ。

 霧の街、ロンドン……お願い! 僕を隠して。
 こんな顔、君には見せたくない!
 

****

「グレイ、どうしたんだ? さっきの試合、ぼんやりもいい所だ。もう、見ていられなかったぞ」
「あー モリミヤ悪い。今日は帰るわ」
「え? どうしたんだよ。具合でも悪いのか」
「これはだな……たぶん『恋煩い』だ!」
「はぁ?」

 俺は帰り支度を整えラケットを背負い、一目散に走り出した。
 君との約束は1週間後だ。
 だけど、待ちきれない。
 君は来ていないのに、待ち合わせの芝生広場に向かって走っていた。
 面影だけでいいから、君に会いたくて。

 あーもう、なんだよ? このふわふわした気持ちは!
 どうしたらいいんだ? このあふれる想い!
 許嫁がいるとか君が男とか国籍が違うとか、全部全部、俺を取り巻く鬱陶しい物を、切り捨てて……

 ただ会いたい。
 こんなにも誰かに会いたいと、衝動的に身体が動き出した事があったか。
 すべて相手が君だから!

 夢よ叶え!!

「え……まさか」

 あの日のように霧が出て、視界が悪くなってきている。
 だが、ちゃんと俺には見えた!
 今、とても会いたい人が、そこにいた。

 


 
 
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