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第2章
君と僕、俺と君 24
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「待ってくれ!」
泣きそうな顔で走り去る君を追いかけようと、すぐに荷物を持って席を立った。
ところがエミリーが俺の腕にガシっとしがみついて、行かせまいと強く引っ張って来る。
「ちょっと! まさか追いかけるつもりなの? あんな子、放っておきなさいよ」
「何を言って……だいたい一体どうしてここが分かった? 偶然じゃないだろう?」
「そうよ! あなたを付けたのよ」
「何で、そんなことを?」
「決まっているじゃない。最近様子が怪しいからよ」
「なんてことを!!」
「あなた……男相手に何してんの? いくらなんでも、さっきの変よっ!」
高級ホテルの優雅なティールームで、大声をあげて罵り合う俺たちは、周りの客から冷ややかな視線を浴びていた。
でもそんな事、構わない。
君を失いたくないんだ!
「離せっ」
「あっ」
女性相手というのに渾身の力を込めて腕を振り払うと、彼女が大げさによろめいて、アフタヌーンティーの三段トレーが床に落ちてしまった。
ガシャンッ──!!
「痛っ!」
粉々に散った食器のかけらで彼女は指先を切ったようで、真っ青な顔で震えながら、泣き出した。
「あっ、すまない」
「アーサー、あなたって人は酷い! 酷いわ!」
「お客様! お静かになさって下さい。こちらに!」
ホテルのスタッフに取り押さえられるように、俺は控室に連れて行かれた。
「くそっ離せよ! お願いだっ」
今、追いかけないと、君を失ってしまう──
****
僕の願いは叶った。
ロンドンの霧も虚しいのか。
白い霧に紛れるように、僕は石畳の道をとぼとぼと歩いた。
霧は願い通り、僕の全身をすっぽりと包んで、この世界から消してくれた。
なのに、どうして──
こんなに寂しく、
もう君の声はしない。
君の足音もしない。
振り返っても、きっと誰もいない。
だから振り返らずに、何も考えずに歩き続けた。
すると突然視界が開け、荘厳な大聖堂に辿り着いた。
「あ、ここは確か英国を代表する聖堂だ」
ふらふらと誘われるようにドームの中に入り上を見上げると、大聖堂の巨大さを体感できた。
厳かな雰囲気に抱かれ、包まれる。
まるで母胎のような安心感に、思わず問いかけてしまう。
天上の母へ……
「母さん、僕はどうしたら……どうしたら、しあわせになれるの? それともこれ以上は望んではいけないの? やっぱり生まれながらの境遇を抜け出す事は、一生出来ないの? 母さん教えて、僕を導いて――」
上方を見つめると、長い階段が見えた。
「ドームに登れるのか、行ってみよう」
階段は500段以上はあった。途中からは鋼製の細い螺旋階段になり、下を見ると足が震えた。
「でも行ってみたい、霧の上の世界に」
最初の展望台はスペースも広く、ロンドン市内をゆっくり展望できるようだが、まだ霧が濃かった。
「坊や! そこからじゃ何も見えないよ。もっと上だよ!」
誰かに声を掛けられて、ハッとした。
そうか、もっと上があるのか。
そこからの石造りの階段はかなり狭くて、通り抜け出来るのか不安になった。
だが僕は、迷わずに上を目指した。
僕の背中を押すのは、僕の気持ちだった。
そこは人がすれ違うのもままならない、幅の狭い展望台だった。
霧が晴れたのか……
それとも霧の上に辿り着いたのか。
ロンドン市内を一望出来、眺望が素晴らしかった。
さっき冷ややかな視線を浴びた途端、どうしたらいいのか分からなくて逃げてしまった。
だがいつまでも霧の中に隠れているだけでは、何も掴めない事を悟った。
君に、また会えるだろうか。
さっきは、逃げたりしてごめん。
僕があんな風に途中で逃げ出してしまったことで、君が窮地に立たされていないか心配だ。
もっと強くなりたい。
もっと……もっと。
泣きそうな顔で走り去る君を追いかけようと、すぐに荷物を持って席を立った。
ところがエミリーが俺の腕にガシっとしがみついて、行かせまいと強く引っ張って来る。
「ちょっと! まさか追いかけるつもりなの? あんな子、放っておきなさいよ」
「何を言って……だいたい一体どうしてここが分かった? 偶然じゃないだろう?」
「そうよ! あなたを付けたのよ」
「何で、そんなことを?」
「決まっているじゃない。最近様子が怪しいからよ」
「なんてことを!!」
「あなた……男相手に何してんの? いくらなんでも、さっきの変よっ!」
高級ホテルの優雅なティールームで、大声をあげて罵り合う俺たちは、周りの客から冷ややかな視線を浴びていた。
でもそんな事、構わない。
君を失いたくないんだ!
「離せっ」
「あっ」
女性相手というのに渾身の力を込めて腕を振り払うと、彼女が大げさによろめいて、アフタヌーンティーの三段トレーが床に落ちてしまった。
ガシャンッ──!!
「痛っ!」
粉々に散った食器のかけらで彼女は指先を切ったようで、真っ青な顔で震えながら、泣き出した。
「あっ、すまない」
「アーサー、あなたって人は酷い! 酷いわ!」
「お客様! お静かになさって下さい。こちらに!」
ホテルのスタッフに取り押さえられるように、俺は控室に連れて行かれた。
「くそっ離せよ! お願いだっ」
今、追いかけないと、君を失ってしまう──
****
僕の願いは叶った。
ロンドンの霧も虚しいのか。
白い霧に紛れるように、僕は石畳の道をとぼとぼと歩いた。
霧は願い通り、僕の全身をすっぽりと包んで、この世界から消してくれた。
なのに、どうして──
こんなに寂しく、
もう君の声はしない。
君の足音もしない。
振り返っても、きっと誰もいない。
だから振り返らずに、何も考えずに歩き続けた。
すると突然視界が開け、荘厳な大聖堂に辿り着いた。
「あ、ここは確か英国を代表する聖堂だ」
ふらふらと誘われるようにドームの中に入り上を見上げると、大聖堂の巨大さを体感できた。
厳かな雰囲気に抱かれ、包まれる。
まるで母胎のような安心感に、思わず問いかけてしまう。
天上の母へ……
「母さん、僕はどうしたら……どうしたら、しあわせになれるの? それともこれ以上は望んではいけないの? やっぱり生まれながらの境遇を抜け出す事は、一生出来ないの? 母さん教えて、僕を導いて――」
上方を見つめると、長い階段が見えた。
「ドームに登れるのか、行ってみよう」
階段は500段以上はあった。途中からは鋼製の細い螺旋階段になり、下を見ると足が震えた。
「でも行ってみたい、霧の上の世界に」
最初の展望台はスペースも広く、ロンドン市内をゆっくり展望できるようだが、まだ霧が濃かった。
「坊や! そこからじゃ何も見えないよ。もっと上だよ!」
誰かに声を掛けられて、ハッとした。
そうか、もっと上があるのか。
そこからの石造りの階段はかなり狭くて、通り抜け出来るのか不安になった。
だが僕は、迷わずに上を目指した。
僕の背中を押すのは、僕の気持ちだった。
そこは人がすれ違うのもままならない、幅の狭い展望台だった。
霧が晴れたのか……
それとも霧の上に辿り着いたのか。
ロンドン市内を一望出来、眺望が素晴らしかった。
さっき冷ややかな視線を浴びた途端、どうしたらいいのか分からなくて逃げてしまった。
だがいつまでも霧の中に隠れているだけでは、何も掴めない事を悟った。
君に、また会えるだろうか。
さっきは、逃げたりしてごめん。
僕があんな風に途中で逃げ出してしまったことで、君が窮地に立たされていないか心配だ。
もっと強くなりたい。
もっと……もっと。
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