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第2章
信じることから始めよう 12
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「それでは本日からルイがアーサー様のお部屋近くに待機しますので、何かご入り用でしたら、彼を呼び鈴でお呼び下さい」
「……分かった。後で部屋に紅茶を持ってきてくれ」
「畏まりました。早速、ルイに運ばせます」
「そうしてくれ」
父の執務室から自室に戻った。
扉に背中を預け、深く息を吐いた。
驚いた!
信じられない事が起きた!
それより……
俺は平静を保てただろうか。
その場で騒ぎ立てなかった自分を褒め称えたい気分だ。
あんなに探していた君が、突然目の前に現れた。
その場で抱きしめたい気持ちで、制御不能になりそうだった。
だが興奮する心を抑えつけて、必死に耐えて、我慢した。
以前、エミリーに告げ口された時の相手は君だった。
彼女は君の顔を知っている。
気をつけないと。
当時は父も執事も相手について言及して来なかったが……俺が父や執事の前で動揺し騒いでは、怪しまれ、何もかも台無しにしてしまう可能性があった。
もう同じ轍は踏まない。
しかし……そうか、そういう理由だったのか。
君が消えた理由を、漸く少し理解できたよ。
でも『生まれながらの使用人』という、父の言葉は腑に落ちない。
だって君は日本からはるばるロンドンまでやって来た留学生だった。
確かにロンドンの高校に通っていたし、着ている物だって最初は質素だったが、次に会った時からはいつも上質なものを着ていた。
あの冬のコートや手袋だって、とても使用人が身につける品物ではなかった。
それに何といっても、君自身には生まれながらの品があった。
君はいつも落ち着いた中に可憐な面も持ち合わせていて、とにかく素敵だった。
そうか……君は大学には行かず、執事になるのか。
君はいつも高校を卒業したらどうするかの問いかけに、寂しく微笑むだけだった。俺は何も知らず呑気な考えしか抱けず、恥ずかしいよ。
今までの自分の想像力の乏しさを、自嘲した。
君は知らないふりをするつもりだろうが、俺はそれは許さない。
俺が君にどれだけの想いを募らせて来たのか、知っているだろう。
君だって同じ気持ちのはずだ。
何より、あんなに知りたかった君の名を、とうとう知る事が出来た。
ルイ、ルイ……
何て綺麗な名前なんだ!
日本の名前なのに、この地でも通じる名前だ。
君にぴったりじゃないか。
早く部屋に来てくれ。
早く話したい!
この腕で抱きしめたい……
****
「大丈夫か」
「あ、はい」
「君は……もしかしてアーサー様を知っていたのか」
「いいえ!」
即答した。
しっかりしろ瑠衣。
「そうか、さっき少し様子が変だったので」
「その……お仕えする人との対面に緊張してしまいました。申し訳ありません」
頭を下げて様子を窺うと、納得してもらえたようだ。
「まぁ、首席の君でも実地研修は初めてだから無理もない」
「申し訳ありません」
「そうだ、先に伝えておこう。アーサー様は将来このグレイ伯爵家をお継ぎになる高貴なご身分のお方だ。だからこそ万が一の間違いがあってはならない。高校時代には女性との交友関係が乱れた時期もあったので、しっかり監視するように」
「……はい」
女性との交友関係か。
あまり聞きたくない話で、胸が塞がる思いだ。
だが僕が世間を知らなさすぎるだけで、上流階級の子弟が学ぶパブリックスクールでは日常茶飯事なのかもしれない。
所詮、雲の上の人だった。
あの1年半だけが特別だった。
お互いにきっと……
「それから日常の着替えなど身の回りの着替えなども、全部ルイが手伝うように」
「え? ですが……それはどちらかと言うと、専属のメイドの仕事では」
「うむ……実は旦那様からの命令で、女性をあまり周りに寄せるなとお達しでね。ルイなら男同士だから問題ないだろう」
問題なら大ありだ。
どこまで僕は白を切れるか……
僕が君を好きな気持ちに蓋を出来るか。
試されているのか。
運命に──
「さぁルイ、早速仕事だ。アーサー様の部屋に『イブニングティー』をお届けしろ」
「……畏まりました」
「……分かった。後で部屋に紅茶を持ってきてくれ」
「畏まりました。早速、ルイに運ばせます」
「そうしてくれ」
父の執務室から自室に戻った。
扉に背中を預け、深く息を吐いた。
驚いた!
信じられない事が起きた!
それより……
俺は平静を保てただろうか。
その場で騒ぎ立てなかった自分を褒め称えたい気分だ。
あんなに探していた君が、突然目の前に現れた。
その場で抱きしめたい気持ちで、制御不能になりそうだった。
だが興奮する心を抑えつけて、必死に耐えて、我慢した。
以前、エミリーに告げ口された時の相手は君だった。
彼女は君の顔を知っている。
気をつけないと。
当時は父も執事も相手について言及して来なかったが……俺が父や執事の前で動揺し騒いでは、怪しまれ、何もかも台無しにしてしまう可能性があった。
もう同じ轍は踏まない。
しかし……そうか、そういう理由だったのか。
君が消えた理由を、漸く少し理解できたよ。
でも『生まれながらの使用人』という、父の言葉は腑に落ちない。
だって君は日本からはるばるロンドンまでやって来た留学生だった。
確かにロンドンの高校に通っていたし、着ている物だって最初は質素だったが、次に会った時からはいつも上質なものを着ていた。
あの冬のコートや手袋だって、とても使用人が身につける品物ではなかった。
それに何といっても、君自身には生まれながらの品があった。
君はいつも落ち着いた中に可憐な面も持ち合わせていて、とにかく素敵だった。
そうか……君は大学には行かず、執事になるのか。
君はいつも高校を卒業したらどうするかの問いかけに、寂しく微笑むだけだった。俺は何も知らず呑気な考えしか抱けず、恥ずかしいよ。
今までの自分の想像力の乏しさを、自嘲した。
君は知らないふりをするつもりだろうが、俺はそれは許さない。
俺が君にどれだけの想いを募らせて来たのか、知っているだろう。
君だって同じ気持ちのはずだ。
何より、あんなに知りたかった君の名を、とうとう知る事が出来た。
ルイ、ルイ……
何て綺麗な名前なんだ!
日本の名前なのに、この地でも通じる名前だ。
君にぴったりじゃないか。
早く部屋に来てくれ。
早く話したい!
この腕で抱きしめたい……
****
「大丈夫か」
「あ、はい」
「君は……もしかしてアーサー様を知っていたのか」
「いいえ!」
即答した。
しっかりしろ瑠衣。
「そうか、さっき少し様子が変だったので」
「その……お仕えする人との対面に緊張してしまいました。申し訳ありません」
頭を下げて様子を窺うと、納得してもらえたようだ。
「まぁ、首席の君でも実地研修は初めてだから無理もない」
「申し訳ありません」
「そうだ、先に伝えておこう。アーサー様は将来このグレイ伯爵家をお継ぎになる高貴なご身分のお方だ。だからこそ万が一の間違いがあってはならない。高校時代には女性との交友関係が乱れた時期もあったので、しっかり監視するように」
「……はい」
女性との交友関係か。
あまり聞きたくない話で、胸が塞がる思いだ。
だが僕が世間を知らなさすぎるだけで、上流階級の子弟が学ぶパブリックスクールでは日常茶飯事なのかもしれない。
所詮、雲の上の人だった。
あの1年半だけが特別だった。
お互いにきっと……
「それから日常の着替えなど身の回りの着替えなども、全部ルイが手伝うように」
「え? ですが……それはどちらかと言うと、専属のメイドの仕事では」
「うむ……実は旦那様からの命令で、女性をあまり周りに寄せるなとお達しでね。ルイなら男同士だから問題ないだろう」
問題なら大ありだ。
どこまで僕は白を切れるか……
僕が君を好きな気持ちに蓋を出来るか。
試されているのか。
運命に──
「さぁルイ、早速仕事だ。アーサー様の部屋に『イブニングティー』をお届けしろ」
「……畏まりました」
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