ランドマーク ~そこに君がいてくれるから~

志生帆 海

文字の大きさ
68 / 68
第2章

信じることから始めよう 13

しおりを挟む
 廊下を歩くと、トレーの上の金の装飾が施されたティーカップがカタカタと震えた。

 僕の手が震えている。

 どうしよう……

 もうすぐ君の部屋に到着してしまうのに。

 どんな顔をして、どんな態度を取ればいいのか。
 いきなり過ぎて考えがまとまらないよ。

「ルイ、ここがアーサー様のお部屋だ。さぁ、行きなさい。くれぐれも粗相のないように」
「……はい」
「私は他の仕事があるから、ここは君に任せていいか」
「承知致しました」

 ドアをノックすると、すぐに君の声が聴こえた。

 僕の胸は早鐘を打っていた。

 一歩を踏み出せないでいると、もう一度焦れた声が響いた。

 しっかりしろ、瑠衣──

 僕は今、執事としての仕事を任されている最中だ。

 心を無にしろ。
 無心になれ!

「早く入ってくれよ」
「……失礼いたします」

 扉を開けると、目の前に君が立っていた。
 バチっと目が合う。
 逃れられない程の力強さで見据えられ、怖くなり慌てて目を伏せた。

「あの……どちらに置けばよろしいでしょうか」
「よしてくれよ! そんな喋り方」
「あ……」
「だって君は『君』だろう? 俺が間違えるはずない!」

 すごい剣幕で近寄って来られ、僕の心は嵐のように激しく動揺した。

 先ほどの執務室での君とは別人だった。

 必死に抑え込んでいたものが溢れ出したエネルギーを浴びて、立ちすくんでしまった。

 部屋には二人きり、君と僕しかいない。

 でも……

「……何のことでしょうか……ひ、人違いです」

 歯を食いしばって吐いた言葉は、最低だった。

「……いいんだ。強がるな。知らないふりは必要ない。君が立場上、明かせないのは分かる。だけど! 俺と二人の時だけは『君』に戻ってくれよ!」

 僕は馬鹿だ。

 君の提案を素直に受け入れればいいのに意固地になって……君を、ほらまた悲しませる。

「……お紅茶をお入れしますので」
「……ちゃんと、聞いてくれ! 俺の目を見て!」

 両手で肩を掴まれて、ゆさゆさと揺さぶられた。
  
「ルイ!……ルイは『君』だ! ずっと『君』の名を知りたかった!」

 君が僕の名を悲痛な声で呼ぶ。

 その言葉がまるで剣のように僕を貫いて、揺さぶられた拍子にティーカップが床にすとんと落ちてしまった。

 ガシャン──

 静寂を打ち破る激しい音が鳴り響く。

「あっ!」
 
 なんという失態だ。

「も、申し訳ありません」

 執事としての第一歩をしくじってしまった。その事に激しく動揺しながら、陶器の欠片を拾おうとしゃがみ込んだ。

「いい! そんなのどうでもいい!」

 伸ばした手を、ぐいっと引っ張り上げられた。

「あっ」

 すぐにもう片方の手が僕の腰に回され、ぐいっと引き寄せられた。

 胸板と胸板がぴたりと合わさって、君の熱に触れる。

 君の心臓の鼓動がドクドク、ドクドクと聴こえてくる。

 僕の心も、強い風に吹かれる木の葉のように揺れている。

「君は君なのに、なぜ隠す? ちゃんと君の心を見せてくれよ」

 振り解けない、君の手を。

 ここから一刻も早く去らないといけないのに、頭の中が混乱していた。

 君は僕の本当の姿を知ったのに、生まれながらに下働きの身分だと聞いたのにどうして……どうして変わらない?

 僕を見下して蔑んでくれていいのに。

「……なぜ?」

 顎を掴まれ、瞳の奥をじっと覗き込まれる。

 駄目だっ── 

 蓋をしたばかりの心を見破られてしまう。見つかってしまう。

 君の瞳はあの日と何も変わっておらず、僕を宝物のようにうっとりと甘く見つめて来る。

「あの日の……雨の日の口づけには、続きがあったんだ」
「あ……」

 身体の力が抜けていく。
 
 足が震えて立っていられない。

 
しおりを挟む
感想 16

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(16件)

yuーchi
2026.03.03 yuーchi

やっと会えた!って思ったけどちょっぴり苦い再会かな😌
立場が違うものね。でも会えてよかった!

2026.03.03 志生帆 海

ちょっと苦いけど
やっと会えたね!
ここからがスタート▶️

解除
yuーchi
2026.03.01 yuーchi

後ちょっとで会えるわね☺️💕
めっちゃ緊張しちゃうよ!

2026.03.02 志生帆 海

ゆーちゃん、じれじれ進んでいます💞
あと少しよー!

解除
yuーchi
2026.02.28 yuーchi

瑠衣くん、頑張って!
続きが待ち遠しい☺️💕

2026.03.01 志生帆 海

ゆーちゃんありがとうー
ここからが盛りあがっていくのよね~

解除

あなたにおすすめの小説

赤い頬と溶けるバニラ味

hamapito
BL
在宅勤務が選べるようになっても出社し続けているのは、同期の岡野に会うためだった。 毎日会うのが当たり前になっていたある日、風邪をひいてしまい在宅勤務に切り替えた。 わざわざ連絡するのもおかしいかと思ってそのままにしていたけれど……。    * 岡野はただの同期。それ以上でも以下でもない。 満員電車に乗ってでも出社している理由だって「運動不足になりそうだから」って言ってたし。 岡野に会えるのが嬉しい俺とは違う。    *

【短編】【完結】王子様の婚約者は狼

天田れおぽん
BL
 サティ王子はクルクルした天然パーマな茶髪が可愛い18歳。婚約者のレアンは狼獣人で、子供の頃は子犬のように愛くるしかったのに、18歳となった今はマッチョでかっこよくなっちゃった。 「レアンのこと大好きだから守りたい。キミは信じてくれないかもしれないけれど……」  レアン(すでにオレは、貴方しか見ていませんが?)  ちょっと小柄なカワイイ系王子サティと、美しく無口なゴツイ系婚約者レアンの恋物語。 o♡o。+。o♡o。+。o♡o。+。o♡o。+。o♡o。 ノベルバにも掲載中☆ボイスノベルがあります。

強欲なる花嫁は総てを諦めない

浦霧らち
BL
 皮肉と才知と美貌をひっさげて、帝国の社交界を渡ってきた伯爵令息・エルンスト──その名には〝強欲〟の二文字が付き纏う。  そんなエルンストが戦功の褒美と称されて嫁がされたのは、冷血と噂される狼の獣人公爵・ローガンのもとだった。  やがて彼のことを知っていくうちに、エルンストは惹かれていく心を誤魔化せなくなる。  エルンストは彼に応える術を探しはじめる。荒れた公爵領を改革し、完璧な伴侶として傍に立つために。  強欲なる花嫁は、総てを手に入れるまで諦めない。 ※性描写がある場合には*を付けています。が、後半になると思います。 ※ご都合主義のため、整合性は無いに等しいです、雰囲気で読んでください。 ※自分の性癖(誤用)にしか配慮しておりません。 ※書き溜めたストックが無くなり次第、ノロノロ更新になります。

αが離してくれない

雪兎
BL
運命の番じゃないのに、αの彼は僕を離さない――。 Ωとして生まれた僕は、発情期を抑える薬を使いながら、普通の生活を目指していた。 でもある日、隣の席の無口なαが、僕の香りに気づいてしまって……。 これは、番じゃないふたりの、近すぎる距離で始まる、運命から少しはずれた恋の話。

六年目の恋、もう一度手をつなぐ

高穂もか
BL
幼なじみで恋人のつむぎと渉は互いにオメガ・アルファの親公認のカップルだ。 順調な交際も六年目――最近の渉はデートもしないし、手もつながなくなった。 「もう、おればっかりが好きなんやろか?」 馴ればっかりの関係に、寂しさを覚えるつむぎ。 そのうえ、渉は二人の通う高校にやってきた美貌の転校生・沙也にかまってばかりで。他のオメガには、優しく甘く接する恋人にもやもやしてしまう。 嫉妬をしても、「友達なんやから面倒なこというなって」と笑われ、遂にはお泊りまでしたと聞き…… 「そっちがその気なら、もういい!」 堪忍袋の緒が切れたつむぎは、別れを切り出す。すると、渉は意外な反応を……? 倦怠期を乗り越えて、もう一度恋をする。幼なじみオメガバースBLです♡

囚われ王子の幸福な再婚

高菜あやめ
BL
【理知的美形王子×痛みを知らない異能王子】  触れた人の痛みは感じても、自分の痛みに気づけない──そんな異能を持つ王子カシュアは、政略結婚で嫁いだ異国で幽閉され、四年間忘れられていた。  彼が再び人前に姿を現したのは、クーデターの混乱のさなか。そして、存在を持て余された末、次期宰相である王子との再婚が決まる。  冷静で無口な王子が、なぜかカシュアにだけは優しいのは、かつて彼が妖精物語に恋をした少年だったから――不器用な王子とともに、愛をたしかめ合うストーリー。※2025/11/26第三部スタート

帝に囲われていることなど知らない俺は今日も一人草を刈る。

志子
BL
ノリと勢いで書いたBL転生中華ファンタジー。 美形×平凡。 乱文失礼します。誤字脱字あったらすみません。 崖から落ちて顔に大傷を負い高熱で三日三晩魘された俺は前世を思い出した。どうやら農村の子どもに転生したようだ。 転生小説のようにチート能力で無双したり、前世の知識を使ってバンバン改革を起こしたり……なんてことはない。 そんな平々凡々の俺は今、帝の花園と呼ばれる後宮で下っ端として働いてる。 え? 男の俺が後宮に? って思ったろ? 実はこの後宮、ちょーーと変わっていて…‥。

王妃の椅子~母国のために売られた公子

11ミリ
BL
大陸で一番の強国であるディルア王国には男の王妃がいる。夫婦間は結婚当時より長年冷え切っていた。そんなある日のこと、王のもとへ王妃がやってきて「わたしを殺させてあげよう」と衝撃な一言を告げる。けれど王は取り合わない。 喜んでもらえると思っていただけに意外だった王妃は自分の離宮に帰り、人生を振り返る。 かつて弱小公国の美しい公子だったライル(後の王妃)は強国へ貢がれた。強制的に戦へ参加させられ、人には騙され、第六王子には何かと絡んでくる。そしてある日目が覚めたら王子妃に……。 ■■■ ハピエンですが、前半の人生は辛いことが多いです。一人で耐えて耐えて生き抜く主人公を気にする不器用第六王子が傍にいます。 長年の片思いと鈍感のコンビ夫婦です。 話の都合上、途中で名前がライル(男名)からライラ(女名)に変わります。 鳥の姿に変化できる「ニケ」という特異な体質が出てきます。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。