重なる月

志生帆 海

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第2章

虹の彼方 1

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 良かった……今日は外に出かけられるのか。

 実は俺の身体は相当疲れているようだ。昨夜丈が俺を深く愛してくれた代償で、腰が重いし鈍く痛くて……今日はもうお前を迎え入れる自信がないのが本音だ。

 しかも身体がこんなにぼろぼろになるまで、あんなに警戒していた同性の男に抱かれた俺。一体どういう心境の変化なのか。本当に丈だけは特別だ。君以外の男が触れると、未だに吐き気がして鳥肌が立つのだから。

 ふぅっと安堵の溜息をつきながら洋服に着替えようとした時、鏡を見て絶句した。

「首筋だけかと思ったら全身にキスマーク。はぁ……全く丈の奴、なんてことを」

 昨晩は丈があまりに激しく抱き続けるので意識が朦朧としてしまい、最後の方はよく覚えていない。それをいいことに、全身にお前の跡を残すなんて……これじゃ本当に出かけられないじゃないか。せっかく旅行に来たのに。

 愛撫の跡を指でそっと触れてみると、昨夜のことが思い出され恥ずかしい気持ちになる。こんなところにまで愛してもらったのか。でも……やっぱり丈の奴いやらしいな。俺は女じゃあるまいし他人が見たらどう思うか、この服じゃまずい。

****

 支度が遅いので部屋を覗くと、また洋の表情が曇っていた。

「怒っているのか」

 そっと近寄り後ろから洋の華奢な腰に手をまわし、抱きしめた。

「悪かったよ。こんなにして。洋がどこかへ行ってしまうのではないかと、いつも不安だ。それでついこんなに。洋がたまに見せる不安そうな顔が心配で、私を置いてどこかに行ってしまいそうで」
「そんなことを考えていたのか」

 意外そうな表情で、洋は私を見つめた。
 濡れたような漆黒の瞳は、静かに澄んでいた。

「私は洋の喜びも悲しみもすべて受け止めたいともがいているよ。そんな気持ちが込み上げてきて、この数日間必要以上に激しく抱いてしまった。どうか許してくれ」

「丈は心配性だな。俺はどこにも行かない。それにお前以外に行くところなんてないよ。丈と一緒にいると安らぐ。俺の悲しみは、お前といると癒されるのだから……許すもなにも……」

 心の底から詫びると、洋はそっと私に手を重ねて、いつもの優しい笑顔を見せてくれた。
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