重なる月

志生帆 海

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14章

託す想い、集う人 10

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「皆さんに宣言させて下さい。あなた方の大切な冬郷海里さんが愛した由比ヶ浜の診療所を、同じ外科医である私に、どうか継がせて下さい」

 丈……お前、本当に立派になったね。

 どこか異質な存在だった丈が僕たちの弟として誕生した意味を、まさかここで縁起物語を通じて知ることになるとは。

『月影寺縁起』

 そんな伝説じみた物が存在するなんて、夢にも思わなかった。だが、全て受け入れられる。

「あの……月影寺のご住職様、よろしければ……その絵巻物の写しをお読みになります?」
「えぇ、ぜひ」
「じゃあ持ってくるわ」
「春子さん、それは書庫にあるので、テツさんに頼みます」
「あ、そうだわね。桂人くん、お願い」
「少々お待ちを」

 執事服の彼は、背筋をピッと伸ばしてスタスタと歩いて行った。

  ところで、テツさんとは、誰だろう? 

 まだ他に、このお屋敷の住人がいるのだろうか。

 暫く歓談していると、桂人さんが庭師の出で立ちの老人を連れて戻ってきた。手には分厚い和紙で綴じた本を抱えていた。

「テツさん、頭に埃が」
「あぁ、桂人、ありがとう」
「もう、相変わらずだな」
 
 朴訥とした雰囲気の男性で、白髪に白い髭で飄々と歩いてくる。
 
 二人の雰囲気がどことなく甘く感じるのは、何故だろう?

「テツさん、また書庫に籠もっていたの?」
「春子さん、後世に書き残すことが多くて大変なんですよ。でもどうして急に『月影寺縁起』なんて……あ、もしかして」
「そう、あなたは察しはいいわよね。ここに月影寺のご住職が現れたのよ」
「なんと!」

 縁起の写しを読ませてもらうと更に続きがあったので、ハッとした。
  
『月影寺に三兄弟が揃う時……つまり三番目の弟が無事に成人した暁には、月の世界へ旅立った皇子が再び月影寺に戻ってくるだろう。そして弟とようやく深い契りを結ぶ。二人の願いが叶う時、凍っていた世界が再び動き出す。つまり……秘めたる思いを抱き続けていた兄二人の思いも、そこでようやく成就するのだ』
 
「え……っ」
 
 春子さんが遠慮したのか、最後まで読み上げなかった部分には、つまり僕と流の契りまで書いてあったので、激しく赤面してしまった。

「おーい、兄さん、何、赤くなっているんだ? 春画だったのか? 見たいな」
「へ……? ば、馬鹿……何を言って」

 流への受け答えもしどろもどろになってしまう。

「ところで、翠さん、もしかして……テツさんに大切な用事があるのでは」

 桂人さんが断言すると、テツさんという人も、僕をまっすぐ見つめた。

 本当に未来が見えるようだ。

「はい、そのことがあって、今日同席しました」
「では、話は早い。早速、薬草園に行きましょう」
「えっ、あ……はい」

 まだ何も話していないのに、何もかも通じているようで鳥肌が立った。
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