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成就編
春風に背中を押されて 5
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「おはよう、芽生くん」
「あ……お兄ちゃん……もう朝なの?」
今日はいよいよ幼稚園の卒園式だ。
芽生くんを起こすと、少し不安気な様子だった。
「いよいよ、今日だね」
「うん……あーあ、そつえんしょうしょをもらうの、ちゃんとできるかな」
「いっぱい練習していたから、大丈夫だよ。自信を持ってね」
「うん……」
芽生くんは布団を整える僕の後ろに、じっと立ち尽くしていた。いつもなら、ひとりでパジャマを脱いでお着替えするのに、どうしたのかな?
「ん?」
「あのね……お兄ちゃんに、せいふく……着せてほしいなって」
「うん、いいよ。僕もそうしたかった!」
珍しいお強請りに、自然と頬が緩む。
芽生くんの前に屈んでパジャマを脱がし、制服を順番に着せている途中で、芽生くんが突然ふわりと抱きついてきた。
「あれれ、今日はどうしたの?」
「あのね……ボク……おおきくなるの、たのしみだけど、お兄ちゃんにこうしてもらえなくなるの、さみしくて……だから」
「そんな風に思っていたんだね。いいんだよ……もっと自然にして。して欲しい時はちゃんと口に出して欲しいよ。我慢しないで、いいんだよ」
どうか我慢しないで欲しい。だって君はまだ……たった6年しか生きていない。
甘えたいときは、まだまだしっかり甘えて欲しい。
僕も……もっと、もっと甘えておけば良かった。
お母さんはいつだって手を広げてくれたのに、僕はもうお兄ちゃんだから甘えたら駄目だと勝手に決めつけて、頑なに拒んでしまったことを後悔しているんだ。
「お兄ちゃん……ありがとう」
「それに……寂しくなんてないよ。今日で幼稚園は終わりだけど、僕はずっと芽生くんの傍にいるからね」
「よかった! おにいちゃん『おやくそく』してくれる?」
「うん、約束するよ」
ずっと怖かった『約束』も、今なら出来る。
未来の不確かさに怯えるのではなく、未来に夢を持とう。芽生くんと約束を出来るのは、素晴らしいことだ。それだけ僕を信用してくれているのだから。
大切な人から信用されるのは、とても嬉しいね。
だから小さな約束も大切に、一つずつ守り続けていきたい。約束って他人に対してではなく、自分に対してなのかもしれない。だって……僕が果たすものだから。
「お兄ちゃんはね、いつもお約束を守ってくれるから大好き」
「ありがとう。僕も……僕とお約束してくれる芽生くんが大好きだよ」
「えへへ。じゃあ……今日はトクベツにとっておきの約束をするね」
「なんだろう?」
「ボクは、ずーっとお兄ちゃんをタイセツにするよ」
「あ……ありがとう」
あぁ……もう……式の前から泣きそうだ。
こんなに小さな子が、僕をそこまで思ってくれるなんて。
大切にするのは、僕の方だよ。
****
僕も父兄に混じって芽生くんの卒園式に参列させてもらう。
端から見たら、どう思われるか心配だったが、皆、我が子に夢中なので問題はないようだ。
それにバス停のお母さんたちには僕と宗吾さんの関係を理解してもらっているので、居心地は悪くない。
式の前に、輪になってバス停ママさんたちとお喋りをした。
「あーあ、もう瑞樹くんとバス停で会えなくなってしまうの、寂しいわ」
「ほんとほんと。滝沢さんの得意気な顔も見られなくなるので、つまらないわ」
「ははっ、俺は得意気でしたか」
「いつも鼻の下が伸びていたわ」
「えぇ~参ったな。皆さん、手厳しい」
くすっ、和やかないつもの会話にホッとする。
「でも……あっという間だったわね。瑞樹くんもすっかりパパ業が板について。私達……卒園しても、ずっと応援しているわ」
「ありがとうございます」
「うわん♡やっぱり可愛い♡」
♡が2つも‼
宗吾さんは、苦笑していた。
「瑞樹はアイドルになれる素質があるぞ。俺なんて最初は、おっかなびっくりだったのに、瑞樹は一瞬でお母さんたちを味方につけて、凄いな」
「え……すみません。そんなつもりでは……」
「おいおい、今のは謝るところじゃないぞ。大いに自慢する所だ。そろそろ、君のその謝り癖も卒業しないとな」
「あ……はい、すみません。あっ、また……」
「まぁ、おいおいな。しかし俺はアイドルのマネージャー気分で、いつもバス停では愉快だったよ」
「え……違いますよ! 宗吾さんはマネージャなんかじゃありません‼ 宗吾さんは僕の大切な……あっ……」
ママさんたちの前で、僕は、今……何を言おうとしたのか。慌てて口を手で押さえ……またまた卒倒しそうになった。
「ふふふ~、ごちそうさま! ラブラブね!」
「うう……すみません」
「という訳で、可愛い瑞樹のことを、これからもよろしくお願いします」
真っ赤になって照れる僕を、そっとサポートしてくれるのが宗吾さんだ。
全方向から支えてもらっている。
僕はあなたにいつも――
この人とだから、僕は……後ろ向きになることがあっても、またすぐに前を向ける。
「瑞樹、さぁ式が始まるぞ」
「はい」
「しっかり目に焼き付けておこう。幼稚園の芽生とは今日でお別れだ」
僕と宗吾さんは姿勢を正して席に座った。
「いざとなると、やっぱり寂しいですね」
「あぁ、卒業は寂しいものさ。でも名残惜しいと思える程、芽生の幼稚園生活が充実していた証拠だな。全部……瑞樹のお陰だよ。いつも俺の子育てを支えてくれてありがとう。送り迎えも沢山してくれてありがとう。弁当も手伝ってくれてありがとう」
「う……っ、よしてください。式の前から泣いちゃいそうです」
「あ……お兄ちゃん……もう朝なの?」
今日はいよいよ幼稚園の卒園式だ。
芽生くんを起こすと、少し不安気な様子だった。
「いよいよ、今日だね」
「うん……あーあ、そつえんしょうしょをもらうの、ちゃんとできるかな」
「いっぱい練習していたから、大丈夫だよ。自信を持ってね」
「うん……」
芽生くんは布団を整える僕の後ろに、じっと立ち尽くしていた。いつもなら、ひとりでパジャマを脱いでお着替えするのに、どうしたのかな?
「ん?」
「あのね……お兄ちゃんに、せいふく……着せてほしいなって」
「うん、いいよ。僕もそうしたかった!」
珍しいお強請りに、自然と頬が緩む。
芽生くんの前に屈んでパジャマを脱がし、制服を順番に着せている途中で、芽生くんが突然ふわりと抱きついてきた。
「あれれ、今日はどうしたの?」
「あのね……ボク……おおきくなるの、たのしみだけど、お兄ちゃんにこうしてもらえなくなるの、さみしくて……だから」
「そんな風に思っていたんだね。いいんだよ……もっと自然にして。して欲しい時はちゃんと口に出して欲しいよ。我慢しないで、いいんだよ」
どうか我慢しないで欲しい。だって君はまだ……たった6年しか生きていない。
甘えたいときは、まだまだしっかり甘えて欲しい。
僕も……もっと、もっと甘えておけば良かった。
お母さんはいつだって手を広げてくれたのに、僕はもうお兄ちゃんだから甘えたら駄目だと勝手に決めつけて、頑なに拒んでしまったことを後悔しているんだ。
「お兄ちゃん……ありがとう」
「それに……寂しくなんてないよ。今日で幼稚園は終わりだけど、僕はずっと芽生くんの傍にいるからね」
「よかった! おにいちゃん『おやくそく』してくれる?」
「うん、約束するよ」
ずっと怖かった『約束』も、今なら出来る。
未来の不確かさに怯えるのではなく、未来に夢を持とう。芽生くんと約束を出来るのは、素晴らしいことだ。それだけ僕を信用してくれているのだから。
大切な人から信用されるのは、とても嬉しいね。
だから小さな約束も大切に、一つずつ守り続けていきたい。約束って他人に対してではなく、自分に対してなのかもしれない。だって……僕が果たすものだから。
「お兄ちゃんはね、いつもお約束を守ってくれるから大好き」
「ありがとう。僕も……僕とお約束してくれる芽生くんが大好きだよ」
「えへへ。じゃあ……今日はトクベツにとっておきの約束をするね」
「なんだろう?」
「ボクは、ずーっとお兄ちゃんをタイセツにするよ」
「あ……ありがとう」
あぁ……もう……式の前から泣きそうだ。
こんなに小さな子が、僕をそこまで思ってくれるなんて。
大切にするのは、僕の方だよ。
****
僕も父兄に混じって芽生くんの卒園式に参列させてもらう。
端から見たら、どう思われるか心配だったが、皆、我が子に夢中なので問題はないようだ。
それにバス停のお母さんたちには僕と宗吾さんの関係を理解してもらっているので、居心地は悪くない。
式の前に、輪になってバス停ママさんたちとお喋りをした。
「あーあ、もう瑞樹くんとバス停で会えなくなってしまうの、寂しいわ」
「ほんとほんと。滝沢さんの得意気な顔も見られなくなるので、つまらないわ」
「ははっ、俺は得意気でしたか」
「いつも鼻の下が伸びていたわ」
「えぇ~参ったな。皆さん、手厳しい」
くすっ、和やかないつもの会話にホッとする。
「でも……あっという間だったわね。瑞樹くんもすっかりパパ業が板について。私達……卒園しても、ずっと応援しているわ」
「ありがとうございます」
「うわん♡やっぱり可愛い♡」
♡が2つも‼
宗吾さんは、苦笑していた。
「瑞樹はアイドルになれる素質があるぞ。俺なんて最初は、おっかなびっくりだったのに、瑞樹は一瞬でお母さんたちを味方につけて、凄いな」
「え……すみません。そんなつもりでは……」
「おいおい、今のは謝るところじゃないぞ。大いに自慢する所だ。そろそろ、君のその謝り癖も卒業しないとな」
「あ……はい、すみません。あっ、また……」
「まぁ、おいおいな。しかし俺はアイドルのマネージャー気分で、いつもバス停では愉快だったよ」
「え……違いますよ! 宗吾さんはマネージャなんかじゃありません‼ 宗吾さんは僕の大切な……あっ……」
ママさんたちの前で、僕は、今……何を言おうとしたのか。慌てて口を手で押さえ……またまた卒倒しそうになった。
「ふふふ~、ごちそうさま! ラブラブね!」
「うう……すみません」
「という訳で、可愛い瑞樹のことを、これからもよろしくお願いします」
真っ赤になって照れる僕を、そっとサポートしてくれるのが宗吾さんだ。
全方向から支えてもらっている。
僕はあなたにいつも――
この人とだから、僕は……後ろ向きになることがあっても、またすぐに前を向ける。
「瑞樹、さぁ式が始まるぞ」
「はい」
「しっかり目に焼き付けておこう。幼稚園の芽生とは今日でお別れだ」
僕と宗吾さんは姿勢を正して席に座った。
「いざとなると、やっぱり寂しいですね」
「あぁ、卒業は寂しいものさ。でも名残惜しいと思える程、芽生の幼稚園生活が充実していた証拠だな。全部……瑞樹のお陰だよ。いつも俺の子育てを支えてくれてありがとう。送り迎えも沢山してくれてありがとう。弁当も手伝ってくれてありがとう」
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