幸せな存在 ~歩み寄る恋をしよう~

志生帆 海

文字の大きさ
1,034 / 1,865
小学生編

賑やかな日々 18

しおりを挟む
「あぁ、やっと瑞樹と芽生に会える」
「宗吾さん? さっきまでのカッコイイ顔はどうしたの?」
「ん? 俺、今、どんな顔をしてる?」
「しまりのないデレ顔よ!」

 玲子が呆れ気味に言うが、俺はヘコたれることなく、逆にニヤリとした。

 あ、これで鼻の下を伸ばしたら、絶対に芽生に怒られるヤツだな。注意せねば。

「……本当に変わったわね」
「そういう玲子だって! 前はツンとした女性を気取ってなかったか」
「そういう宗吾さんだって、パリッと男前だったのに」
「それはさぁ……もうお互いさまだな」
「そうね。くすっ、調子が狂うわ」
「さてと戻ろう。今のそれぞれの場所に」
「そうね!」

 今日玲子の実家に挨拶に行くのは、俺にはかなりのプレッシャーだった。

 結果……全て丸く収まって、胸を撫で下ろしているんだ。

 だから褒美が欲しい。

 早く愛しい恋人と可愛い息子の顔が見たい。

「瑞樹~ 帰ったぞ。 どこだー?」
 
 逸る気持ちで美容院のドアを開けると、日が燦々と降り注いでいたので眩しかった。

 思わず目を擦すると、鏡の前に佇む人がふわりと微笑みながら振り返った。

「えっ?」

 俺はその人を良く知っているのに、初めて会った人のように感じ、呆然と立ち尽くしてしまった。

「ちょっと宗吾さん、何をしてるの? 邪魔よ。早く中へ入って」
「玲子……俺は店を間違えたようだ」

 思わず後ずさりして、扉を閉めてしまった。

 中から、俺を呼ぶ声がする。

「宗吾さん? どうしたんですか」

 んん? これは瑞樹の声だぞ? どーなっているんだ?

「ちょっと宗吾さん、ここは私と経くんのお店よ。早く中に入って」
「あ……あぁ」

 中の人は、瑞樹に間違いなかった。

 何故……さっきは違う人に思えたのだろう?

 瑞樹にとても近しい人。

 それはもしかして……あの人なのか。

「あっ、経くんってば、瑞樹クンにメイクしたのね」
「そう! 僕からの贈り物だよ」
「……綺麗……瑞樹クン、素のままでも充分美人だから、うっすらお化粧したらもっと綺麗」
「メイク……そうか、メイクしたからなのか」

 瑞樹が面映ゆい表情で、俯いてしまった。

「宗吾さん……驚かせてごめんなさい。あの……変ですよね」
「変じゃない!」(そこは即答するところだ)
「じゃあ……どうして最初Uターンをしたのですか」

 小首を傾げて、見つめる瞳。

「綺麗な人がいるなぁって客観的になったんだ。すまん」
「はははっ、宗吾くんは見惚れたんだな。メイクしたみーくんは、澄子さんそっくりだから無理もない」

 熊田さんにバンバンと背中を叩かれて、苦笑した。

「参ったな。瑞樹のお母さんはすごい美人だったんだな」
「……綺麗な人だった記憶はあります。大好きだった人です」

 瑞樹がそっと鏡を覗き込んで、ニコっと可愛く口角を上げた。

 ズキュン――‼‼

 ヤバイ! これはヤバイ。これはかなり来る。

 爆弾のような可愛さだ。

 ヤバイ惚れ直した。違う惚れ増した!

 ナチュラルメイクのヘルシーさが、瑞樹の鈴蘭のような可憐な雰囲気を際立たせている。

「パパ? わわ、それは、ダメダメー」

 ハッ! 芽生の声がする。

 腕で❌印を描いているってことは、 鼻の下が伸びているのか。

「そ、宗吾さん……落ち着いて下さい」
「みーくん、宗吾くんはみーくんの可愛さにやられたようだ。無理もない。俺だって澄子さんと見間違えてしまう程だったし」
「お兄ちゃんは、お兄ちゃんだよ~」

 経くんと玲子が、ぽかんと俺を見つめて、その後肩を揺らして笑っていた。

「ちょっと宗吾さん、あなたキャラ崩壊。あーもう瑞樹クンには敵わないなぁ」
「ちょっとお二人さんは少しここで、クールダウンね」

 経くんによって、熊田さんがヘアカットした個室に押し込まれてしまった。

「芽生は、ママと遊ぼうか」
「ママと?」
「駄目?」
「うれしい! あのね……ボク、ママとしたいことあって」
「なあに?」
「えへへ、手をつないで、おかいものにいきたいの」
「まぁ! いいわよ。何を買いにいくの?」
「ないしょ」
「じゃあちょっとだけね」
「うん!」
 
 芽生……そうか、ママと買い物にいきたかったのか。その位の年の子は、まだママと手をつないで歩いているもんな。

「あ、じゃあ熊田さん、僕たちは珈琲買いに行きませんか。美味しい店があるんですよ」
「いいですね。ちょうど飲みたかったんだ」

 いつの間にか、個室に瑞樹とふたりきりだ。

「あの……どうして皆いなくなってしまったのですか」
「気を利かせてくれたんだろう」
「えっと? 僕……何かしました」
「反則だ。それ……そんなに可愛くなるなんて」
「え? ……あっ、ちょっと」

 個室の青いカーテンの中。

 メイクをした瑞樹がスポットライトを浴びている。
 
「よく見せて……顔を」
「あ……恥ずかしいです。こんなメイクをしたのは初めてなんです」
「俺の星《スター》だよ、君は」
「そ、宗吾さん……そんな恥ずかしいこと言わないで下さい」

 すっぽり背後から抱きしめているので、瑞樹は逃げられない。

「玲子の母に、ハッキリ言ってきた。俺の誠意が伝わったようで、芽生を怖がらせることはもうしないと言ってくれた。昔の俺には……恥ずかしながらなかったんだ……誠意なんて。だが君と過ごすことによって、俺はどんどん変わった。今日は本当に気持ち良かったよ。力尽くでも、上辺だけの言葉で言い含めたわけでない。真摯な心を汲んでもらえたんだ。それが嬉しくて……瑞樹、君が俺をこんな風に変えてくれたんだ。瑞樹がいなかったら……全部駄目だった」

 感極まって、瑞樹を振り向かせ……唇を重ねてしまった。

「あ……、んっ……んっ」

 瑞樹が優しく俺の背中を撫でてくれる。

「宗吾さん良かったですね……これで安心出来ますね。芽生くんはずっと宗吾さんと過ごせますね」
「あぁ過ごせるよ。俺だけでなく、君も一緒だ」
「はい……僕……さっき鏡の中の母に報告したんです。宗吾さんとの……これからのこと……」
「良かったな。お母さんに会えて……化粧は魔法なんだな」
「優しい魔法をかけてもらいました。経さんに出逢えたのは玲子さんのお陰です。これも縁なんですね……僕にとって必要な縁でした」

 俺の腕の中に、瑞樹は可憐に微笑んだ。

「宗吾さん……あの……ですね……あの、カツラを被りません?」
「は?」
「ほら、モヒカンの……あれを被ったら、宗吾さんどうなっちゃうんでしょうね」
「おーい、どうしてそんな萎えることを言うんだ?」

 瑞樹の腰を抱くと、下半身が微かに兆しているのが分かった。

 ははん、最近はキスだけで蕩けてくれるようになったからなぁ。

「ぼ……僕は気を紛らわしたいんですよ……笑いで……そのこれ以上は」

 涙目で股間を押さえる君が可愛すぎて、これ以上触れるのは諦めた。

 代わりに、置いてあったヅラを被ってやると、瑞樹が吹き出した。





「ぷはっ――、ぷぷぷっ、くすくす」
「俺がこんなになっても、愛してくれるか」
「……うーん、うーん、たぶん」
「おい!」

 二人で抱腹していると、カーテンをパッと開かれた。

「入るぞ~」
「わ! 熊田さん」
「ははは! やっぱり、やると思ったよ。宗吾くん、よーく似合っているぜ」

 イケオジになった熊田さんが珈琲片手に笑っていた。

 笑いの渦だ、もう――

 大人になってもたまには馬鹿をして、涙を流すほど笑ったっていいよな。

 笑顔、笑顔、笑顔はいいものだ!




しおりを挟む
感想 85

あなたにおすすめの小説

幸せごはんの作り方

コッシー
BL
他界した姉の娘、雫ちゃんを引き取ることになった天野宗二朗。 しかし三十七年間独り身だった天野は、子供との接し方が分からず、料理も作れず、仕事ばかりの日々で、ずさんな育て方になっていた。 そんな天野を見かねた部下の水島彰がとった行動はーー。 仕事もプライベートも完璧優秀部下×仕事中心寡黙上司が、我が儘を知らない五歳の女の子と一緒に過ごすお話し。

遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。

沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。 すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。 だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。 イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。 変わり果てた現実を前に、 夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。 深い後悔と悲しみに苛まれながら、 失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。 しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。 贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。 そして、母の心を知っていく子供たち。 イネスが求める愛とは、 そして、幸せとは――。

双葉の恋 -crossroads of fate-

真田晃
BL
バイト先である、小さな喫茶店。 いつもの席でいつもの珈琲を注文する営業マンの彼に、僕は淡い想いを寄せていた。 しかし、恋人に酷い捨てられ方をされた過去があり、その傷が未だ癒えずにいる。 営業マンの彼、誠のと距離が縮まる中、僕を捨てた元彼、悠と突然の再会。 僕を捨てた筈なのに。変わらぬ態度と初めて見る殆さに、無下に突き放す事が出来ずにいた。 誠との関係が進展していく中、悠と過ごす内に次第に明らかになっていくあの日の『真実』。 それは余りに残酷な運命で、僕の想像を遥かに越えるものだった── ※これは、フィクションです。 想像で描かれたものであり、現実とは異なります。 ** 旧概要 バイト先の喫茶店にいつも来る スーツ姿の気になる彼。 僕をこの道に引き込んでおきながら 結婚してしまった元彼。 その間で悪戯に揺れ動く、僕の運命のお話。 僕たちの行く末は、なんと、お題次第!? (お題次第で話が進みますので、詳細に書けなかったり、飛んだり、やきもきする所があるかと思います…ご了承を) *ブログにて、キャライメージ画を載せております。(メーカーで作成) もしご興味がありましたら、見てやって下さい。 あるアプリでお題小説チャレンジをしています 毎日チームリーダーが3つのお題を出し、それを全て使ってSSを作ります その中で生まれたお話 何だか勿体ないので上げる事にしました 見切り発車で始まった為、どうなるか作者もわかりません… 毎日更新出来るように頑張ります! 注:タイトルにあるのがお題です

今からレンタルアルファシステムを利用します

夜鳥すぱり
BL
大学2年の鳴水《なるみ》は、ずっと自分がオメガであることを隠して生きてきた。でも、年々つらくなる発情期にもう一人は耐えられない。恋愛対象は男性だし、男のアルファに会ってみたい。誰でも良いから、定期的に安全に話し相手をしてくれる人が欲しい。でもそんな都合のいい人いなくて、考えあぐねた結果たどり着いた、アプリ、レンタルアルファシステム。安全……だと思う、評価も星5で良いし。うん、じゃ、お問い合わせをしてみるか。なるみは、恐る恐るボタンを押すが───。 ◆完結済みです。ありがとうございました。 ◆表紙絵を花々緒さんが描いてくださりました。カッコいい雪夜君と、おどおど鳴水くんです。可愛すぎますね!

鈴木さんちの家政夫

ユキヤナギ
BL
「もし家事全般を請け負ってくれるなら、家賃はいらないよ」そう言われて鈴木家の住み込み家政夫になった智樹は、雇い主の彩葉に心惹かれていく。だが彼には、一途に想い続けている相手がいた。彩葉の恋を見守るうちに、智樹は心に芽生えた大切な気持ちに気付いていく。

今日は少し、遠回りして帰ろう【完】

新羽梅衣
BL
「どうしようもない」 そんな言葉がお似合いの、この感情。 捨ててしまいたいと何度も思って、 結局それができずに、 大事にだいじにしまいこんでいる。 だからどうかせめて、バレないで。 君さえも、気づかないでいてほしい。 ・ ・ 真面目で先生からも頼りにされている枢木一織は、学校一の問題児・三枝頼と同じクラスになる。正反対すぎて関わることなんてないと思っていた一織だったが、何かにつけて頼は一織のことを構ってきて……。 愛が重たい美形×少しひねくれ者のクラス委員長、青春ラブストーリー。

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー ✻改稿版を他サイトにて投稿公開中です。

消えない思い

樹木緑
BL
オメガバース:僕には忘れられない夏がある。彼が好きだった。ただ、ただ、彼が好きだった。 高校3年生 矢野浩二 α 高校3年生 佐々木裕也 α 高校1年生 赤城要 Ω 赤城要は運命の番である両親に憧れ、両親が出会った高校に入学します。 自分も両親の様に運命の番が欲しいと思っています。 そして高校の入学式で出会った矢野浩二に、淡い感情を抱き始めるようになります。 でもあるきっかけを基に、佐々木裕也と出会います。 彼こそが要の探し続けた運命の番だったのです。 そして3人の運命が絡み合って、それぞれが、それぞれの選択をしていくと言うお話です。

処理中です...