1,214 / 1,865
小学生編
実りの秋 35
しおりを挟む
逆光の中に立っているのは。
ハァハァと息を切らせて立っているのは。
スズランの花が風に可憐に揺れているように見え、慌てて目を擦った。
何度か瞬きをして焦点を合わせると、そこには……
「に……兄さん!」
まだ信じられなくて、何度も何度も瞬きをしてしまった。
光を背負った兄さんは、まるで天使のようだった。
「潤、兄さんが来たから、もう大丈夫だよ!」
「ど……うして?」
「心配だから……大事な弟が困っているから……居ても立っても居られなくて来ちゃったんだ。えっと……いきなり過ぎたかな?」
兄さんが少し首を傾げる。
「助かる……すごく助かるに決まっている!」
兄さんの優しさが身に染みる。
「それで菫さんの容体は?」
「あぁ……大丈夫だった。赤ちゃんも菫さんも無事で……今日1日安静にすればいいって」
安堵の溜め息が聞こえる。
「良かった、本当に良かったね。菫さんも赤ちゃんも無事なんだね」
兄さんの目には、光るものが浮かんでいた。
透明で澄んでいて、とても綺麗な涙だ。
「泣いて?」
「ごめん、ほっとして。それより今日はいっくんの運動会だろう? いっくん、楽しみにしていたんじゃないかなって……」
「あぁ……でも……今日はもうやめておくよ」
「潤……?」
「何もかもは無理だ。兄さんが来てくれても……弁当だって作ってないし」
つい兄さんに当たってしまい、反省した。
オレ、せっかく駆けつけてくれた兄さんになんてことを。
「お弁当なら、作ってきたよ」
「え?」
「ほら! なんとか間に合ったよ」
兄さんの大荷物は、弁当だったのか。
「でも、菫さんを家にひとりには……させられない」
すると兄さんの背後から声がする。
「潤、私が菫さんに付き添うわ! 菫さんは私の娘でもあるのよ」
「か……母さん!」
腰を抜かす程、驚いた。
「まぁ何て顔をしているの? 孫の運動会って、祖父母が駆けつけるものでしょう」
「び、びっくりした。でも……やっぱりいいよ。俺だけ運動会に行くのは気が引けるんだ。菫さんだって見たいだろうし……」
「潤くん、それなら俺がとびっきりの写真を撮りまくって、菫さんに即時に送るよ」
「え……熊田さん……お、お父さんまで」
お母さんの背後から大きな身体がヌッと現れて、また驚いた。
「孫の運動会が楽しみでな。最近は動物より人間に夢中なのさ」
「潤、これでも行かない? 僕は応援係で参加するよ。兄さんと一緒に応援しよう!」
お父さんとお母さんと兄さんが、仲良く並んでいる。
オレたち家族のために集まってくれるなんて、信じられない光景だ。
処置室の入り口で話し込んでいると、クリーム色のカーテンの向こうから嗚咽が聞こえて来た。
菫さんが泣いている。
「ぐすっ、潤くん……こっちに入ってもらって」
「あぁ」
いっくんと菫さんが俺たちを見上げて……泣きながら笑っていた。
「いっくん、ママといっくんに、いっぱい応援団が来てくれたね」
「わぁ~ みーくん、おじーちゃん、おばーちゃんだぁ」
いっくんの目がキラキラと輝き出した。
「いっくん、みんなと運動会に行っておいで」
「でもぉ……ママ……いいの?」
「写真をいっぱい撮って貰えるし、おばあちゃんとおしゃべりできるし、ママも楽しめるわ」
「ママもたのしいの?」
「そうよ。だから……いっくん我慢しないで」
いっくんがじっと菫さんを見つめている。
まだたった3歳なのに、頭の中で一生懸命考えているんだ。
「菫さん、そうしても……いいか」
「当たり前じゃない。今のいっくんには、パパもいるんだから」
「あぁ……パパがいるよ、いっくんにはパパがいる! さぁいっくん、本当にしたいことを言ってくれよ! 今、一番何がしたい?」
いっくんがパァァーと笑顔になる。
笑顔の花が咲く。
「いっくんね……いっくんね、ほんとうは……うんどうかいに……いきたかったの」
「よく言えたな。じゃあパパと行こう!」
「わぁ……うん! うん! パパぁ~だーいしゅき!」
いっくんが満面の笑みで、オレに飛びついてきた。
最高の笑顔だ!
弾ける笑顔だ!
オレは……この笑顔を守る人になる。
オレがすべきことは、ただ一つ。
大切な人を、幸せるする人になる。
「よーしっ、じゃあ今から行くぞ!」
「パパといっしょにうんどうかい、うれしいなぁ」
ハァハァと息を切らせて立っているのは。
スズランの花が風に可憐に揺れているように見え、慌てて目を擦った。
何度か瞬きをして焦点を合わせると、そこには……
「に……兄さん!」
まだ信じられなくて、何度も何度も瞬きをしてしまった。
光を背負った兄さんは、まるで天使のようだった。
「潤、兄さんが来たから、もう大丈夫だよ!」
「ど……うして?」
「心配だから……大事な弟が困っているから……居ても立っても居られなくて来ちゃったんだ。えっと……いきなり過ぎたかな?」
兄さんが少し首を傾げる。
「助かる……すごく助かるに決まっている!」
兄さんの優しさが身に染みる。
「それで菫さんの容体は?」
「あぁ……大丈夫だった。赤ちゃんも菫さんも無事で……今日1日安静にすればいいって」
安堵の溜め息が聞こえる。
「良かった、本当に良かったね。菫さんも赤ちゃんも無事なんだね」
兄さんの目には、光るものが浮かんでいた。
透明で澄んでいて、とても綺麗な涙だ。
「泣いて?」
「ごめん、ほっとして。それより今日はいっくんの運動会だろう? いっくん、楽しみにしていたんじゃないかなって……」
「あぁ……でも……今日はもうやめておくよ」
「潤……?」
「何もかもは無理だ。兄さんが来てくれても……弁当だって作ってないし」
つい兄さんに当たってしまい、反省した。
オレ、せっかく駆けつけてくれた兄さんになんてことを。
「お弁当なら、作ってきたよ」
「え?」
「ほら! なんとか間に合ったよ」
兄さんの大荷物は、弁当だったのか。
「でも、菫さんを家にひとりには……させられない」
すると兄さんの背後から声がする。
「潤、私が菫さんに付き添うわ! 菫さんは私の娘でもあるのよ」
「か……母さん!」
腰を抜かす程、驚いた。
「まぁ何て顔をしているの? 孫の運動会って、祖父母が駆けつけるものでしょう」
「び、びっくりした。でも……やっぱりいいよ。俺だけ運動会に行くのは気が引けるんだ。菫さんだって見たいだろうし……」
「潤くん、それなら俺がとびっきりの写真を撮りまくって、菫さんに即時に送るよ」
「え……熊田さん……お、お父さんまで」
お母さんの背後から大きな身体がヌッと現れて、また驚いた。
「孫の運動会が楽しみでな。最近は動物より人間に夢中なのさ」
「潤、これでも行かない? 僕は応援係で参加するよ。兄さんと一緒に応援しよう!」
お父さんとお母さんと兄さんが、仲良く並んでいる。
オレたち家族のために集まってくれるなんて、信じられない光景だ。
処置室の入り口で話し込んでいると、クリーム色のカーテンの向こうから嗚咽が聞こえて来た。
菫さんが泣いている。
「ぐすっ、潤くん……こっちに入ってもらって」
「あぁ」
いっくんと菫さんが俺たちを見上げて……泣きながら笑っていた。
「いっくん、ママといっくんに、いっぱい応援団が来てくれたね」
「わぁ~ みーくん、おじーちゃん、おばーちゃんだぁ」
いっくんの目がキラキラと輝き出した。
「いっくん、みんなと運動会に行っておいで」
「でもぉ……ママ……いいの?」
「写真をいっぱい撮って貰えるし、おばあちゃんとおしゃべりできるし、ママも楽しめるわ」
「ママもたのしいの?」
「そうよ。だから……いっくん我慢しないで」
いっくんがじっと菫さんを見つめている。
まだたった3歳なのに、頭の中で一生懸命考えているんだ。
「菫さん、そうしても……いいか」
「当たり前じゃない。今のいっくんには、パパもいるんだから」
「あぁ……パパがいるよ、いっくんにはパパがいる! さぁいっくん、本当にしたいことを言ってくれよ! 今、一番何がしたい?」
いっくんがパァァーと笑顔になる。
笑顔の花が咲く。
「いっくんね……いっくんね、ほんとうは……うんどうかいに……いきたかったの」
「よく言えたな。じゃあパパと行こう!」
「わぁ……うん! うん! パパぁ~だーいしゅき!」
いっくんが満面の笑みで、オレに飛びついてきた。
最高の笑顔だ!
弾ける笑顔だ!
オレは……この笑顔を守る人になる。
オレがすべきことは、ただ一つ。
大切な人を、幸せるする人になる。
「よーしっ、じゃあ今から行くぞ!」
「パパといっしょにうんどうかい、うれしいなぁ」
11
あなたにおすすめの小説
【完結】愛されたかった僕の人生
Kanade
BL
✯オメガバース
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。
今日も《夫》は帰らない。
《夫》には僕以外の『番』がいる。
ねぇ、どうしてなの?
一目惚れだって言ったじゃない。
愛してるって言ってくれたじゃないか。
ねぇ、僕はもう要らないの…?
独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
✻本作品(オリジナル)の結末をif(運命の番)ルートに入れ替えて、他サイトでの投稿を始めました。タイトルは「一度目の結婚で愛も希望も失くした僕が、移住先で運命と出逢い、二度目の結婚で愛されるまで」に変えてます。
オリジナルの本編結末は完全なハッピーエンドとはいえないかもしれませんが、「一度目の〜…」は琳が幸せな結婚をするハッピーエンド一択です。
売れ残りオメガの従僕なる日々
灰鷹
BL
王弟騎士α(23才)× 地方貴族庶子Ω(18才)
※ 第12回BL大賞では、たくさんの応援をありがとうございました!
ユリウスが暮らすシャマラーン帝国では、平民のオメガは18才になると、宮廷で開かれる選定の儀に参加することが義務付けられている。王族の妾となるオメガを選ぶためのその儀式に参加し、誰にも選ばれずに売れ残ったユリウスは、国王陛下から「第3王弟に謀反の疑いがあるため、身辺を探るように」という密命を受け、オメガ嫌いと噂される第3王弟ラインハルトの従僕になった。
無口で無愛想な彼の優しい一面を知り、任務とは裏腹にラインハルトに惹かれていくユリウスであったが、働き始めて3カ月が過ぎたところで第3王弟殿下が辺境伯令嬢の婿養子になるという噂を聞き、従僕も解雇される。
僕の幸せは
春夏
BL
【完結しました】
【エールいただきました。ありがとうございます】
【たくさんの“いいね”ありがとうございます】
【たくさんの方々に読んでいただけて本当に嬉しいです。ありがとうございます!】
恋人に捨てられた悠の心情。
話は別れから始まります。全編が悠の視点です。
遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。
沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。
すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。
だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。
イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。
変わり果てた現実を前に、
夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。
深い後悔と悲しみに苛まれながら、
失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。
しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。
贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。
そして、母の心を知っていく子供たち。
イネスが求める愛とは、
そして、幸せとは――。
夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い
青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。
神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。
もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。
生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。
過去世と同じ轍を踏みたくない……
天啓によると殿下の婚約者ではなくなります
ふゆきまゆ
BL
この国に生きる者は必ず受けなければいけない「天啓の儀」。それはその者が未来で最も大きく人生が動く時を見せる。
フィルニース国の貴族令息、アレンシカ・リリーベルは天啓の儀で未来を見た。きっと殿下との結婚式が映されると信じて。しかし悲しくも映ったのは殿下から婚約破棄される未来だった。腕の中に別の人を抱きながら。自分には冷たい殿下がそんなに愛している人ならば、自分は穏便に身を引いて二人を祝福しましょう。そうして一年後、学園に入学後に出会った友人になった将来の殿下の想い人をそれとなく応援しようと思ったら…。
●婚約破棄ものですが主人公に悪役令息、転生転移、回帰の要素はありません。
性表現は一切出てきません。
流れる星、どうかお願い
ハル
BL
羽水 結弦(うすい ゆずる)
オメガで高校中退の彼は国内の財閥の一つ、羽水本家の次男、羽水要と番になって約8年
高層マンションに住み、気兼ねなくスーパーで買い物をして好きな料理を食べられる。同じ性の人からすれば恵まれた生活をしている彼
そんな彼が夜、空を眺めて流れ星に祈る願いはただ一つ
”要が幸せになりますように”
オメガバースの世界を舞台にしたアルファ×オメガ
王道な関係の二人が織りなすラブストーリーをお楽しみに!
一応、更新していきますが、修正が入ることは多いので
ちょっと読みづらくなったら申し訳ないですが
お付き合いください!
夫には好きな相手がいるようです。愛されない僕は針と糸で未来を縫い直します。
伊織
BL
裕福な呉服屋の三男・桐生千尋(きりゅう ちひろ)は、行商人の家の次男・相馬誠一(そうま せいいち)と結婚した。
子どもの頃に憧れていた相手との結婚だったけれど、誠一はほとんど笑わず、冷たい態度ばかり。
ある日、千尋は誠一宛てに届いた女性からの恋文を見つけてしまう。
――自分はただ、家からの援助目当てで選ばれただけなのか?
失望と涙の中で、千尋は気づく。
「誠一に頼らず、自分の力で生きてみたい」
針と糸を手に、幼い頃から得意だった裁縫を活かして、少しずつ自分の居場所を築き始める。
やがて町の人々に必要とされ、笑顔を取り戻していく千尋。
そんな千尋を見て、誠一の心もまた揺れ始めて――。
涙から始まる、すれ違い夫婦の再生と恋の物語。
※本作は明治時代初期~中期をイメージしていますが、BL作品としての物語性を重視し、史実とは異なる設定や表現があります。
※誤字脱字などお気づきの点があるかもしれませんが、温かい目で読んでいただければ嬉しいです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる