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色は匂へど……
待宵 6
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「兄さん、兄さん!」
「ん……流なのか」
「良かった! 心配したぞ」
「あっ……僕は」
次に目覚めると、僕は海里先生の診療所のベッドに静かに寝かされていた。
先程のことをまざまざと思い出した。
柊一さんがよろけて熱々の紅茶を被って火傷をしそうになったので、海里先生にすぐに服を脱ぐように言われて躊躇した。
早くしないと火傷痕が残ると言われた瞬間、目の前が真っ暗になってしまったのだ。
「兄さん、落ち着いてくれ。何もなかった。海里先生に懇切丁寧に治療をしてもらっただけだ」
「そうか……」
さっきからいい匂いがすると思ったら、僕は流のシャツを着ていた。
ダブダブの長袖のシャツが、僕を守っていた。
一方、流は半袖の白いTシャツ姿だった。
「これ、流の服……」
「あぁ、海里先生に頼まれて渡したんだ」
「そうだったのか」
袖を鼻に近づけスンと嗅ぐと、心がすっと落ち着いた。流が触れたタオルやシーツとは比にならない程の濃厚な匂いだ。
「火傷はすぐに処置したから大丈夫だった。海里先生が詫びていたよ」
僕は流の匂いのお陰で、冷静さを取り戻していた。
「柊一さんは? 具合が悪そうで心配だ」
「最近少し調子が良くなかったそうで貧血を……だがもう落ち着いたそうだ」
「そうだったんだね。さぞかし心配だろうね」
お二人は片時も離れられない存在なので、海里先生が心を痛めているのがひしひしと伝わってくる。
「俺は兄さんが倒れたと聞いて死ぬかと思った」
「ごめんな、流……」
そっと項垂れる流の背中を撫でてやった。
「流に救われたよ。何があっても流がいれば、僕は大丈夫だ」
「そうか……翠……あのさ……」
「どうした?」
「俺の顔、ちゃんと見えるか」
「もちろんだよ」
「よかった」
大きな身体が怯えている。
こんなにも震えて……
僕はもう二度と流が見えない世界には行きたくない。
だから踏みとどまる。
何があっても暗黒の世界だけは嫌だ。
そのためにも、いい加減……そろそろ、この胸の火傷痕と真正面から向き合うべきだ。
いつまでも目を逸らしていては、何も解決しない。
「流、少し海里先生と二人きりで話してもいいか」
「あぁ、海里先生なら任せられる。先生は翠の心を壊さない。むしろ強くしてくれる。だから信じられる」
流がここまで断言してくれて、嬉しくなった。
流、僕を深く理解してくれてありがとう。
やっぱり僕は流がいないと、生きていけないよ。
「海里先生に心の治療をしてもらうよ」
「俺は外で待っている」
「ありがとう」
今はまだ流を同席出来なくて、すまない。
でもいつか、このことについて流に洗いざらい胸の内を吐露する日が来るだろう。
今日はその日のための助走だ。
「海里先生、今日は僕の身体を診察して下さい」
「……いいのか」
「はい、相談にのって頂きたいのです。僕の胸に残された消えない火傷痕の……」
僕は自ら……流のシャツの前ボタンを外して胸元を露わにした。
流の匂いに包まれているので、少しも怖くはない。
「ん……流なのか」
「良かった! 心配したぞ」
「あっ……僕は」
次に目覚めると、僕は海里先生の診療所のベッドに静かに寝かされていた。
先程のことをまざまざと思い出した。
柊一さんがよろけて熱々の紅茶を被って火傷をしそうになったので、海里先生にすぐに服を脱ぐように言われて躊躇した。
早くしないと火傷痕が残ると言われた瞬間、目の前が真っ暗になってしまったのだ。
「兄さん、落ち着いてくれ。何もなかった。海里先生に懇切丁寧に治療をしてもらっただけだ」
「そうか……」
さっきからいい匂いがすると思ったら、僕は流のシャツを着ていた。
ダブダブの長袖のシャツが、僕を守っていた。
一方、流は半袖の白いTシャツ姿だった。
「これ、流の服……」
「あぁ、海里先生に頼まれて渡したんだ」
「そうだったのか」
袖を鼻に近づけスンと嗅ぐと、心がすっと落ち着いた。流が触れたタオルやシーツとは比にならない程の濃厚な匂いだ。
「火傷はすぐに処置したから大丈夫だった。海里先生が詫びていたよ」
僕は流の匂いのお陰で、冷静さを取り戻していた。
「柊一さんは? 具合が悪そうで心配だ」
「最近少し調子が良くなかったそうで貧血を……だがもう落ち着いたそうだ」
「そうだったんだね。さぞかし心配だろうね」
お二人は片時も離れられない存在なので、海里先生が心を痛めているのがひしひしと伝わってくる。
「俺は兄さんが倒れたと聞いて死ぬかと思った」
「ごめんな、流……」
そっと項垂れる流の背中を撫でてやった。
「流に救われたよ。何があっても流がいれば、僕は大丈夫だ」
「そうか……翠……あのさ……」
「どうした?」
「俺の顔、ちゃんと見えるか」
「もちろんだよ」
「よかった」
大きな身体が怯えている。
こんなにも震えて……
僕はもう二度と流が見えない世界には行きたくない。
だから踏みとどまる。
何があっても暗黒の世界だけは嫌だ。
そのためにも、いい加減……そろそろ、この胸の火傷痕と真正面から向き合うべきだ。
いつまでも目を逸らしていては、何も解決しない。
「流、少し海里先生と二人きりで話してもいいか」
「あぁ、海里先生なら任せられる。先生は翠の心を壊さない。むしろ強くしてくれる。だから信じられる」
流がここまで断言してくれて、嬉しくなった。
流、僕を深く理解してくれてありがとう。
やっぱり僕は流がいないと、生きていけないよ。
「海里先生に心の治療をしてもらうよ」
「俺は外で待っている」
「ありがとう」
今はまだ流を同席出来なくて、すまない。
でもいつか、このことについて流に洗いざらい胸の内を吐露する日が来るだろう。
今日はその日のための助走だ。
「海里先生、今日は僕の身体を診察して下さい」
「……いいのか」
「はい、相談にのって頂きたいのです。僕の胸に残された消えない火傷痕の……」
僕は自ら……流のシャツの前ボタンを外して胸元を露わにした。
流の匂いに包まれているので、少しも怖くはない。
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