184 / 236
色は匂へど……
暗中模索 11
しおりを挟む
前置き
ついに『忍ぶれど…』も、重なる月とぶつかるシーンに入ります。
『重なる月』来訪 1
https://estar.jp/novels/25539945/viewer?page=356
とリンクしていきます。一部同じ台詞が入ることを、ご理解下さい。
****
大晦日から正月。
月影寺は目が回るような忙しさだった。
俺は伊豆の別荘で執筆の締め切りを抱え缶詰になっている母の代理として、年末年始の月影寺の台所仕事を任されていた。
今日の朝食は、七草粥だ。
繁忙期を乗り越え疲労困憊の翠を労るために、丁寧に粥を炊いた。
七草は月影寺の畑で俺が育ててものだ。
「せり、なずな、ごぎょう、はこべら、ほとけのざ、すずな 、すずしろ 、これぞ七草」
その色鮮やかな出来映えに満足の笑みを浮かべていると、電話が鳴った。
こんな早朝から誰だ?
「はい月影寺です」
「もしもし……あ……流兄さん、私です」
張り詰めた渋い声の主は、俺の二歳下の弟……
「えっ……お前、丈なのか! まったく音沙汰なしで、今までどこをほっつき歩いていたんだ?」
「すみません。あの……皆さんお元気ですか」
ソウルに行くと言ったきり、音沙汰がないと思ったら急に電話か。それなりに事情があってのことだろうと、翠と共に静かに見守っていたが、急に電話してくるなんて、何事だ?
「あぁ、母さんはまた伊豆の別荘に行っているが、みんな元気だ。お前……今どこにいる? まだソウルなのか」
「いえ……もう日本に戻って来ています」
意外な返答だった。
帰国しているとは想像していなかったから。
「何? そうか。おっ! もしかしてこっちに帰って来る気になったのか」
「いえ……そういうわけではなく……でも今からそちらへ行ってもいいですか。出来たら……少し滞在したいのですが」
「へぇ、珍しいこと言うな。もちろんいいぞ。んっ……それってもしかして」
「友人を一人連れて行きますので、部屋をお願いします」
更に驚いた。
ひとりでふらりと帰って来る日があるとは想定していたが、友人だって?
常に孤高の人だった弟に、家に連れてくる程の仲の友人がいるなんて信じられない。
ただひとり超然と高い理想を保ち淡々と我が道を行く丈に何があった?
もしかして、お前も……ついに心を揺さぶられる人と出会ったのか。
「おっ、お前に友人? なんだそれ? そんなことすんの初めてじゃないか。もしかして彼女か」
「いえ……男ですが」
男?
まぁ、友人というのだから、男で問題はないのだが……なにか腑に落ちない。同時に胸の奥に光が生まれたのを感じた。
「そうか。まぁそうだよな。うーん、とにかく待っている。父さんたちにも伝えておくからな」
「流兄さん、ありがとうございます」
電話を切ると、袈裟姿の翠がひょいと端麗な顔を覗かせた。
「流、そろそろ朝食を頼む」
「その前に話があります」
「どうした? 何かあったのか」
翠が怪訝な顔をする。
「今、電話があって……丈が日本に帰ってくるそうです」
「えっ、いつ?」
「もう日本にいるそうです」
「そうなのか、いつ会える?」
「えぇ、今からやってくるそうです」
「今……そうか、ついに……とうとう動き出すのか」
動き出す?
翠の言葉に、胸が高鳴った。
「流、落ち着いて。まずは朝食を」
「あぁ……」
未来への希望と期待。
胸を押さえると、心臓がドキドキと激しく鼓動していた。
俺は粥を掻っ込んで、すくっと席を立った。
「待ちきれない」
「あ、流、どこへ」
「出迎えに行くのさ!」
つい昔のような言葉遣いで、勢いよく庭に飛び出し、裏山を駆け上がった。
ついに『忍ぶれど…』も、重なる月とぶつかるシーンに入ります。
『重なる月』来訪 1
https://estar.jp/novels/25539945/viewer?page=356
とリンクしていきます。一部同じ台詞が入ることを、ご理解下さい。
****
大晦日から正月。
月影寺は目が回るような忙しさだった。
俺は伊豆の別荘で執筆の締め切りを抱え缶詰になっている母の代理として、年末年始の月影寺の台所仕事を任されていた。
今日の朝食は、七草粥だ。
繁忙期を乗り越え疲労困憊の翠を労るために、丁寧に粥を炊いた。
七草は月影寺の畑で俺が育ててものだ。
「せり、なずな、ごぎょう、はこべら、ほとけのざ、すずな 、すずしろ 、これぞ七草」
その色鮮やかな出来映えに満足の笑みを浮かべていると、電話が鳴った。
こんな早朝から誰だ?
「はい月影寺です」
「もしもし……あ……流兄さん、私です」
張り詰めた渋い声の主は、俺の二歳下の弟……
「えっ……お前、丈なのか! まったく音沙汰なしで、今までどこをほっつき歩いていたんだ?」
「すみません。あの……皆さんお元気ですか」
ソウルに行くと言ったきり、音沙汰がないと思ったら急に電話か。それなりに事情があってのことだろうと、翠と共に静かに見守っていたが、急に電話してくるなんて、何事だ?
「あぁ、母さんはまた伊豆の別荘に行っているが、みんな元気だ。お前……今どこにいる? まだソウルなのか」
「いえ……もう日本に戻って来ています」
意外な返答だった。
帰国しているとは想像していなかったから。
「何? そうか。おっ! もしかしてこっちに帰って来る気になったのか」
「いえ……そういうわけではなく……でも今からそちらへ行ってもいいですか。出来たら……少し滞在したいのですが」
「へぇ、珍しいこと言うな。もちろんいいぞ。んっ……それってもしかして」
「友人を一人連れて行きますので、部屋をお願いします」
更に驚いた。
ひとりでふらりと帰って来る日があるとは想定していたが、友人だって?
常に孤高の人だった弟に、家に連れてくる程の仲の友人がいるなんて信じられない。
ただひとり超然と高い理想を保ち淡々と我が道を行く丈に何があった?
もしかして、お前も……ついに心を揺さぶられる人と出会ったのか。
「おっ、お前に友人? なんだそれ? そんなことすんの初めてじゃないか。もしかして彼女か」
「いえ……男ですが」
男?
まぁ、友人というのだから、男で問題はないのだが……なにか腑に落ちない。同時に胸の奥に光が生まれたのを感じた。
「そうか。まぁそうだよな。うーん、とにかく待っている。父さんたちにも伝えておくからな」
「流兄さん、ありがとうございます」
電話を切ると、袈裟姿の翠がひょいと端麗な顔を覗かせた。
「流、そろそろ朝食を頼む」
「その前に話があります」
「どうした? 何かあったのか」
翠が怪訝な顔をする。
「今、電話があって……丈が日本に帰ってくるそうです」
「えっ、いつ?」
「もう日本にいるそうです」
「そうなのか、いつ会える?」
「えぇ、今からやってくるそうです」
「今……そうか、ついに……とうとう動き出すのか」
動き出す?
翠の言葉に、胸が高鳴った。
「流、落ち着いて。まずは朝食を」
「あぁ……」
未来への希望と期待。
胸を押さえると、心臓がドキドキと激しく鼓動していた。
俺は粥を掻っ込んで、すくっと席を立った。
「待ちきれない」
「あ、流、どこへ」
「出迎えに行くのさ!」
つい昔のような言葉遣いで、勢いよく庭に飛び出し、裏山を駆け上がった。
10
あなたにおすすめの小説
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
BL 男達の性事情
蔵屋
BL
漁師の仕事は、海や川で魚介類を獲ることである。
漁獲だけでなく、養殖業に携わる漁師もいる。
漁師の仕事は多岐にわたる。
例えば漁船の操縦や漁具の準備や漁獲物の処理等。
陸上での魚の選別や船や漁具の手入れなど、
多彩だ。
漁師の日常は毎日漁に出て魚介類を獲るのが主な業務だ。
漁獲とは海や川で魚介類を獲ること。
養殖の場合は魚介類を育ててから出荷する養殖業もある。
陸上作業の場合は獲った魚の選別、船や漁具の手入れを行うことだ。
漁業の種類と言われる仕事がある。
漁師の仕事だ。
仕事の内容は漁を行う場所や方法によって多様である。
沿岸漁業と言われる比較的に浜から近い漁場で行われ、日帰りが基本。
日本の漁師の多くがこの形態なのだ。
沖合(近海)漁業という仕事もある。
沿岸漁業よりも遠い漁場で行われる。
遠洋漁業は数ヶ月以上漁船で生活することになる。
内水面漁業というのは川や湖で行われる漁業のことだ。
漁師の働き方は、さまざま。
漁業の種類や狙う魚によって異なるのだ。
出漁時間は早朝や深夜に出漁し、市場が開くまでに港に戻り魚の選別を終えるという仕事が日常である。
休日でも釣りをしたり、漁具の手入れをしたりと、海を愛する男達が多い。
個人事業主になれば漁船や漁具を自分で用意し、漁業権などの資格も必要になってくる。
漁師には、豊富な知識と経験が必要だ。
専門知識は魚類の生態や漁場に関する知識、漁法の技術と言えるだろう。
資格は小型船舶操縦士免許、海上特殊無線技士免許、潜水士免許などの資格があれば役に立つ。
漁師の仕事は、自然を相手にする厳しさもあるが大きなやりがいがある。
食の提供は人々の毎日の食卓に新鮮な海の幸を届ける重要な役割を担っているのだ。
地域との連携も必要である。
沿岸漁業では地域社会との結びつきが強く、地元のイベントにも関わってくる。
この物語の主人公は極楽翔太。18歳。
翔太は来年4月から地元で漁師となり働くことが決まっている。
もう一人の主人公は木下英二。28歳。
地元で料理旅館を経営するオーナー。
翔太がアルバイトしている地元のガソリンスタンドで英二と偶然あったのだ。
この物語の始まりである。
この物語はフィクションです。
この物語に出てくる団体名や個人名など同じであってもまったく関係ありません。
兄弟カフェ 〜僕達の関係は誰にも邪魔できない〜
紅夜チャンプル
BL
ある街にイケメン兄弟が経営するお洒落なカフェ「セプタンブル」がある。真面目で優しい兄の碧人(あおと)、明るく爽やかな弟の健人(けんと)。2人は今日も多くの女性客に素敵なひとときを提供する。
ただし‥‥家に帰った2人の本当の姿はお互いを愛し、甘い時間を過ごす兄弟であった。お店では「兄貴」「健人」と呼び合うのに対し、家では「あお兄」「ケン」と呼んでぎゅっと抱き合って眠りにつく。
そんな2人の前に現れたのは、大学生の幸成(ゆきなり)。純粋そうな彼との出会いにより兄弟の関係は‥‥?
男子寮のベットの軋む音
なる
BL
ある大学に男子寮が存在した。
そこでは、思春期の男達が住んでおり先輩と後輩からなる相部屋制度。
ある一室からは夜な夜なベットの軋む音が聞こえる。
女子禁制の禁断の場所。
寮生活のイジメ【社会人版】
ポコたん
BL
田舎から出てきた真面目な社会人が先輩社員に性的イジメされそのあと仕返しをする創作BL小説
【この小説は性行為・同性愛・SM・イジメ的要素が含まれます。理解のある方のみこの先にお進みください。】
全四話
毎週日曜日の正午に一話ずつ公開
伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい
マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。
最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡)
世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる