208 / 236
色は匂へど……
ひねもす 3
しおりを挟む
ふと目覚めると……
僕は堅い木の床に頬を押しつけて眠っていたはずなのに、懐かしい温もりを感じていた。
何……?
そっと目を開けると、流の膝に頬をあてていた。
動揺した。
流が膝枕を?
どうして?
途端に、弟の密かな優しさに触れ、照れ臭いのと嬉しいのが交差して、そわそわと落ち着かなくなってしまった。
もぞもぞと身動ぎするが、流の反応はない。
もしかして……
思い切って起き上がってみると、案の定、流は柱にもたれて目を瞑っていた。
なんだ、流も眠っていたのか。
いい夢を見ているのだろうか。
いつもはキュッと固く結ばれた口元が、優しく緩んでいた。
あぁ、わんぱくだった頃の面影は、まだここにいてくれたんだね。
鳥の囀りに誘われ竹林に目をやると、先程までの日溜まりは消え、再び曇天になっていた。
春の天気は変わりやすいね。
いっそ、このまままた雨が降ればいい。
どうして、そんな風に思うのか。
それは遠い昔を思い出したからだ。
……
「おれ、にーたんのあおいかさがいい」
「いいよ、ぼくのカサと、とりかえっこしよう」
「ううん。ちがう! いっしょに、はいりたいの!」
「くすっ、いいよ。おいで」
「やったー!」
……
流は自分の黄色い傘を空に放り投げて、僕の傘の中に勢いよく飛び込んで来た。
……
「わぁ!」
「えへへ、にーたん、だいすき!」
「くすぐったいよ。りゅーう!」
……
そのまま一緒に転んで、水溜まりにはまってしまったこともあったね。
あどけない弟との可愛い会話が、鮮やかに蘇る。
あの頃の流は、僕よりずっと小さくて可愛かったなぁ。
いつも僕の後ろにくっついて懐いてくれた。
最後に一緒に傘に入ったのは、いつだったか。
そうだ。僕が高校生の時、下校時に偶然会って、古典を教えてくれと強引に入って来たことがあったな。
……あの日の帰り道、傘の中で肩をぴたりと寄せ合った僕たちは、今は随分遠い所に来てしまった。
流は、最近ますます僕に対して余所余所しくなった気がする。
僕の目が治るにつれ流との距離が離れていくのが、寂しかったよ。
今、触れてくれるのは、僕が転た寝した時だけなんて寂しい。
流の温もりが微かに残る右頬をそっと押さえ、目を閉じた。
雨よ降れ――
そう願わずにいられない。
今、雨が降ったら、一緒の傘に入ってくれるか。
離れの茶室に、置き傘は一本しかない。
それを知っているから強く願ってしまう。
雨に濡れたいのではない。
流に触れたいんだ。
そんな風に突然僕が口走ったら、どうなるのか。
僕は……なんて馬鹿なことを――
一人自嘲していると、流が目覚めたようだ。
「あっ、兄さん、起きたのですね。そろそろ戻りますか」
「……もう少しここに居たい」
「……それは、いつ迄ですか」
「……雨が降るまで」
流がハッと息を呑んだのが分かった。
僕は堅い木の床に頬を押しつけて眠っていたはずなのに、懐かしい温もりを感じていた。
何……?
そっと目を開けると、流の膝に頬をあてていた。
動揺した。
流が膝枕を?
どうして?
途端に、弟の密かな優しさに触れ、照れ臭いのと嬉しいのが交差して、そわそわと落ち着かなくなってしまった。
もぞもぞと身動ぎするが、流の反応はない。
もしかして……
思い切って起き上がってみると、案の定、流は柱にもたれて目を瞑っていた。
なんだ、流も眠っていたのか。
いい夢を見ているのだろうか。
いつもはキュッと固く結ばれた口元が、優しく緩んでいた。
あぁ、わんぱくだった頃の面影は、まだここにいてくれたんだね。
鳥の囀りに誘われ竹林に目をやると、先程までの日溜まりは消え、再び曇天になっていた。
春の天気は変わりやすいね。
いっそ、このまままた雨が降ればいい。
どうして、そんな風に思うのか。
それは遠い昔を思い出したからだ。
……
「おれ、にーたんのあおいかさがいい」
「いいよ、ぼくのカサと、とりかえっこしよう」
「ううん。ちがう! いっしょに、はいりたいの!」
「くすっ、いいよ。おいで」
「やったー!」
……
流は自分の黄色い傘を空に放り投げて、僕の傘の中に勢いよく飛び込んで来た。
……
「わぁ!」
「えへへ、にーたん、だいすき!」
「くすぐったいよ。りゅーう!」
……
そのまま一緒に転んで、水溜まりにはまってしまったこともあったね。
あどけない弟との可愛い会話が、鮮やかに蘇る。
あの頃の流は、僕よりずっと小さくて可愛かったなぁ。
いつも僕の後ろにくっついて懐いてくれた。
最後に一緒に傘に入ったのは、いつだったか。
そうだ。僕が高校生の時、下校時に偶然会って、古典を教えてくれと強引に入って来たことがあったな。
……あの日の帰り道、傘の中で肩をぴたりと寄せ合った僕たちは、今は随分遠い所に来てしまった。
流は、最近ますます僕に対して余所余所しくなった気がする。
僕の目が治るにつれ流との距離が離れていくのが、寂しかったよ。
今、触れてくれるのは、僕が転た寝した時だけなんて寂しい。
流の温もりが微かに残る右頬をそっと押さえ、目を閉じた。
雨よ降れ――
そう願わずにいられない。
今、雨が降ったら、一緒の傘に入ってくれるか。
離れの茶室に、置き傘は一本しかない。
それを知っているから強く願ってしまう。
雨に濡れたいのではない。
流に触れたいんだ。
そんな風に突然僕が口走ったら、どうなるのか。
僕は……なんて馬鹿なことを――
一人自嘲していると、流が目覚めたようだ。
「あっ、兄さん、起きたのですね。そろそろ戻りますか」
「……もう少しここに居たい」
「……それは、いつ迄ですか」
「……雨が降るまで」
流がハッと息を呑んだのが分かった。
10
あなたにおすすめの小説
男子高校に入学したらハーレムでした!
はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。
ゆっくり書いていきます。
毎日19時更新です。
よろしくお願い致します。
2022.04.28
お気に入り、栞ありがとうございます。
とても励みになります。
引き続き宜しくお願いします。
2022.05.01
近々番外編SSをあげます。
よければ覗いてみてください。
2022.05.10
お気に入りしてくれてる方、閲覧くださってる方、ありがとうございます。
精一杯書いていきます。
2022.05.15
閲覧、お気に入り、ありがとうございます。
読んでいただけてとても嬉しいです。
近々番外編をあげます。
良ければ覗いてみてください。
2022.05.28
今日で完結です。閲覧、お気に入り本当にありがとうございました。
次作も頑張って書きます。
よろしくおねがいします。
平凡ワンコ系が憧れの幼なじみにめちゃくちゃにされちゃう話(小説版)
優狗レエス
BL
Ultra∞maniacの続きです。短編連作になっています。
本編とちがってキャラクターそれぞれ一人称の小説です。
今日もBL営業カフェで働いています!?
卵丸
BL
ブラック企業の会社に嫌気がさして、退職した沢良宜 篤は給料が高い、男だけのカフェに面接を受けるが「腐男子ですか?」と聞かれて「腐男子ではない」と答えてしまい。改めて、説明文の「BLカフェ」と見てなかったので不採用と思っていたが次の日に採用通知が届き疑心暗鬼で初日バイトに向かうと、店長とBL営業をして腐女子のお客様を喜ばせて!?ノンケBL初心者のバイトと同性愛者の店長のノンケから始まるBLコメディ
※ 不定期更新です。
相性最高な最悪の男 ~ラブホで会った大嫌いな同僚に執着されて逃げられない~
柊 千鶴
BL
【執着攻め×強気受け】
人付き合いを好まず、常に周囲と一定の距離を置いてきた篠崎には、唯一激しく口論を交わす男がいた。
その仲の悪さから「天敵」と称される同期の男だ。
完璧人間と名高い男とは性格も意見も合わず、顔を合わせればいがみ合う日々を送っていた。
ところがある日。
篠崎が人肌恋しさを慰めるため、出会い系サイトで男を見繕いホテルに向かうと、部屋の中では件の「天敵」月島亮介が待っていた。
「ど、どうしてお前がここにいる⁉」「それはこちらの台詞だ…!」
一夜の過ちとして終わるかと思われた関係は、徐々にふたりの間に変化をもたらし、月島の秘められた執着心が明らかになっていく。
いつも嫌味を言い合っているライバルとマッチングしてしまい、一晩だけの関係で終わるには惜しいほど身体の相性は良く、抜け出せないまま囲われ執着され溺愛されていく話。小説家になろうに投稿した小説の改訂版です。
合わせて漫画もよろしくお願いします。(https://www.alphapolis.co.jp/manga/763604729/304424900)
平凡ハイスペックのマイペース少年!〜王道学園風〜
ミクリ21
BL
竜城 梓という平凡な見た目のハイスペック高校生の話です。
王道学園物が元ネタで、とにかくコメディに走る物語を心掛けています!
※作者の遊び心を詰め込んだ作品になります。
※現在連載中止中で、途中までしかないです。
ウサギ獣人を毛嫌いしているオオカミ獣人後輩に、嘘をついたウサギ獣人オレ。大学時代後輩から逃げたのに、大人になって再会するなんて!?
灯璃
BL
ごく普通に大学に通う、宇佐木 寧(ねい)には、ひょんな事から懐いてくれる後輩がいた。
オオカミ獣人でアルファの、狼谷 凛旺(りおう)だ。
ーここは、普通に獣人が現代社会で暮らす世界ー
獣人の中でも、肉食と草食で格差があり、さらに男女以外の第二の性別、アルファ、ベータ、オメガがあった。オメガは男でもアルファの子が産めるのだが、そこそこ差別されていたのでベータだと言った方が楽だった。
そんな中で、肉食のオオカミ獣人の狼谷が、草食オメガのオレに懐いているのは、単にオレたちのオタク趣味が合ったからだった。
だが、こいつは、ウサギ獣人を毛嫌いしていて、よりにもよって、オレはウサギ獣人のオメガだった。
話が合うこいつと話をするのは楽しい。だから、学生生活の間だけ、なんとか隠しとおせば大丈夫だろう。
そんな風に簡単に思っていたからか、突然に発情期を迎えたオレは、自業自得の後悔をする羽目になるーー。
みたいな、大学篇と、その後の社会人編。
BL大賞ポイントいれて頂いた方々!ありがとうございました!!
※本編完結しました!お読みいただきありがとうございました!
※短編1本追加しました。これにて完結です!ありがとうございました!
旧題「ウサギ獣人が嫌いな、オオカミ獣人後輩を騙してしまった。ついでにオメガなのにベータと言ってしまったオレの、後悔」
魔王の息子を育てることになった俺の話
お鮫
BL
俺が18歳の時森で少年を拾った。その子が将来魔王になることを知りながら俺は今日も息子としてこの子を育てる。そう決意してはや数年。
「今なんつった?よっぽど死にたいんだね。そんなに俺と離れたい?」
現在俺はかわいい息子に殺害予告を受けている。あれ、魔王は?旅に出なくていいの?とりあえず放してくれません?
魔王になる予定の男と育て親のヤンデレBL
BLは初めて書きます。見ずらい点多々あるかと思いますが、もしありましたら指摘くださるとありがたいです。
BL大賞エントリー中です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる