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Grow
ふたたび
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「パパ……? パパだぁー!」
「ロウ……お前っ、どっ、どうしたんだ?」
岩穴に入るなり、まずトイが懐かしそうな顔をして、足元に飛んできた。
続いて兄狼が驚愕した様子で、俺を見た震えた。
「え? なんだ」
まさか……再び!
自分の顔に恐る恐る手をあてると、しっとりとした人肌に触れた。
あっ……手も違う!
足もいつの間に!
さっきまで硬い毛でびっしり覆われていたのに……手も足も、人のものとなっていた。
トカプチを助けるために変身した躰が、再び元に戻ったのだ!
最初に狼の姿になったのは、怒りに任せたからだ。だがその怒りを解いてくれたのは、トカプチの深い愛だった。
そして今回はトカプチを守るために、あえて完獣の姿になることを願い、戦った。そうするしかトカプチと別れないで済む方法がなかったからだ。
己を凍らせて防御するしかなかったのだ。
時は流れ、オレはトカプチの出産を引き金に覚醒し、とうとう先ほど躰同士でも深く繋がった。
トカプチが再び完狼のオレのモノを最奥まで受けとめてくれたのだ。
今は……耳と尻尾、肩や胸にかけての毛は狼そのものだが、人の顔をし、人の手と足を持ち、人としてトカプチと交わるものを持っている。
「うっ……うう、信じられない奇跡だ」
もう戻れないかもしれないと思っていた。
一生完獣の姿かもと……覚悟はしていた。
トカプチはそれでいいと言ってくれたが……
オレの本音は……戻りたかった。
あの躰に!この躰に!
トカプチを傷つけない手が欲しい、丸い爪になりたい!
ぴったりと少しの隙間もない口づけが可能な、柔らかい唇も欲しい。
トカプチに見合う男に近づきたい。
そんな贅沢な希望はきっと叶わない。
生きているだけでも、しあわせなのだ。
欲を出し過ぎるなと戒めていたのに、まさかその夢が叶うとは!
俺の体毛……オーロラ色の毛並みは爽やかな風に揺れ、澄んだ湖のように青い瞳からは、感激と感謝の涙がとめどなく溢れ出た。
その涙がトカプチの頬に舞い降りた時、彼の睫毛が微かに揺れた。
「トカプチっ……どうか起きてくれ、オレを見てくれ!」
やがてトカプチの大地のようなダークブラウンの瞳が、オレをしっかりと捉えた。
「えっ……お前、どうして!」
「お前の愛が再び……トカプチの愛と信頼が奇跡を生んだ!」
「うそ、ロウ……お前の顔……」
「どうだ? 」
胸に抱きしめたままのトカプチが震える手を伸ばして、俺の頬に流れる涙を指の腹でやさしく拭ってくれた。それから唇にも触れてくれた。
確認するように躰にも……
温かな指先で素肌を辿られると、胸が一杯になった。
愛情という熱を、暖かな日差しを注いでくれるトカプチと出逢えて、本当によかった。
オレが今、生きている意味を噛みしめる。
「どうだ? オレの顔、前と同じか」
「うん、あの日のロウのままだよ。あーでも参ったな。どんな姿のロウでもカッコいいし、俺の番だが……これはちょっと……ヤバイ……」
「どうした? なにか」
何か不都合でもあるのかと焦る一方……トカプチは頬を染めあげる。
「オレの顔、変なのか」
「うっ……その顔は……モロ俺好みだからあぁぁ」
恥かしそうに両手で顔を覆ったトカプチの後ろの蕾からは、とろりと蜜が滴り、胸の尖りから白い乳が豊潤に溢れてきた。
「おいおい……っ」
「わー勝手にこうなっちゃうんだよ! もぅお前のせいだ!」
まったく……愛の泉のような躰だな。
オレのために、いつだって君って人は、自らの躰を使って渇きを潤してくれる。
「あーゴホン、ゴホン。もういいか。まだかー」
おっと、二人の世界に入り過ぎていた!
兄狼たちは目のやり場に困ったようで、顔を床に伏せて尻尾をしょんぼりと揺らしていた。
キナはベッドですやすやと眠り、トイは足元でオレを不思議そうに見上げている。
ゴォォォ──ガラガラ──
その時、再び轟音がしたので、岩穴から窓の外を見た。
「何の音?」
「さっき、いきなり氷壁が崩れ出した!」
「え? まさか」
トカプチと一緒に様子を見守ると、グルッと北の大地を囲んでいた氷の壁が、順番に崩れていった。
ガラガラと音を立てて……
大地に崩れた氷は融け、吸い込まれるように次々に消えていく。
やがて……大地と森が再び繋がっていく──
「ロウ……お前っ、どっ、どうしたんだ?」
岩穴に入るなり、まずトイが懐かしそうな顔をして、足元に飛んできた。
続いて兄狼が驚愕した様子で、俺を見た震えた。
「え? なんだ」
まさか……再び!
自分の顔に恐る恐る手をあてると、しっとりとした人肌に触れた。
あっ……手も違う!
足もいつの間に!
さっきまで硬い毛でびっしり覆われていたのに……手も足も、人のものとなっていた。
トカプチを助けるために変身した躰が、再び元に戻ったのだ!
最初に狼の姿になったのは、怒りに任せたからだ。だがその怒りを解いてくれたのは、トカプチの深い愛だった。
そして今回はトカプチを守るために、あえて完獣の姿になることを願い、戦った。そうするしかトカプチと別れないで済む方法がなかったからだ。
己を凍らせて防御するしかなかったのだ。
時は流れ、オレはトカプチの出産を引き金に覚醒し、とうとう先ほど躰同士でも深く繋がった。
トカプチが再び完狼のオレのモノを最奥まで受けとめてくれたのだ。
今は……耳と尻尾、肩や胸にかけての毛は狼そのものだが、人の顔をし、人の手と足を持ち、人としてトカプチと交わるものを持っている。
「うっ……うう、信じられない奇跡だ」
もう戻れないかもしれないと思っていた。
一生完獣の姿かもと……覚悟はしていた。
トカプチはそれでいいと言ってくれたが……
オレの本音は……戻りたかった。
あの躰に!この躰に!
トカプチを傷つけない手が欲しい、丸い爪になりたい!
ぴったりと少しの隙間もない口づけが可能な、柔らかい唇も欲しい。
トカプチに見合う男に近づきたい。
そんな贅沢な希望はきっと叶わない。
生きているだけでも、しあわせなのだ。
欲を出し過ぎるなと戒めていたのに、まさかその夢が叶うとは!
俺の体毛……オーロラ色の毛並みは爽やかな風に揺れ、澄んだ湖のように青い瞳からは、感激と感謝の涙がとめどなく溢れ出た。
その涙がトカプチの頬に舞い降りた時、彼の睫毛が微かに揺れた。
「トカプチっ……どうか起きてくれ、オレを見てくれ!」
やがてトカプチの大地のようなダークブラウンの瞳が、オレをしっかりと捉えた。
「えっ……お前、どうして!」
「お前の愛が再び……トカプチの愛と信頼が奇跡を生んだ!」
「うそ、ロウ……お前の顔……」
「どうだ? 」
胸に抱きしめたままのトカプチが震える手を伸ばして、俺の頬に流れる涙を指の腹でやさしく拭ってくれた。それから唇にも触れてくれた。
確認するように躰にも……
温かな指先で素肌を辿られると、胸が一杯になった。
愛情という熱を、暖かな日差しを注いでくれるトカプチと出逢えて、本当によかった。
オレが今、生きている意味を噛みしめる。
「どうだ? オレの顔、前と同じか」
「うん、あの日のロウのままだよ。あーでも参ったな。どんな姿のロウでもカッコいいし、俺の番だが……これはちょっと……ヤバイ……」
「どうした? なにか」
何か不都合でもあるのかと焦る一方……トカプチは頬を染めあげる。
「オレの顔、変なのか」
「うっ……その顔は……モロ俺好みだからあぁぁ」
恥かしそうに両手で顔を覆ったトカプチの後ろの蕾からは、とろりと蜜が滴り、胸の尖りから白い乳が豊潤に溢れてきた。
「おいおい……っ」
「わー勝手にこうなっちゃうんだよ! もぅお前のせいだ!」
まったく……愛の泉のような躰だな。
オレのために、いつだって君って人は、自らの躰を使って渇きを潤してくれる。
「あーゴホン、ゴホン。もういいか。まだかー」
おっと、二人の世界に入り過ぎていた!
兄狼たちは目のやり場に困ったようで、顔を床に伏せて尻尾をしょんぼりと揺らしていた。
キナはベッドですやすやと眠り、トイは足元でオレを不思議そうに見上げている。
ゴォォォ──ガラガラ──
その時、再び轟音がしたので、岩穴から窓の外を見た。
「何の音?」
「さっき、いきなり氷壁が崩れ出した!」
「え? まさか」
トカプチと一緒に様子を見守ると、グルッと北の大地を囲んでいた氷の壁が、順番に崩れていった。
ガラガラと音を立てて……
大地に崩れた氷は融け、吸い込まれるように次々に消えていく。
やがて……大地と森が再び繋がっていく──
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