王族の言葉は鉛より重い

Vitch

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【閑話】先々代との想い出と……

 どこの国にも属さない、森に囲われた湖を見渡せる丘の上。
 そこに、ただただ丸いだけの、人の頭部に近い大きさの石が置かれていた。

 獣道すらないやぶを通り、私はそこに来た、一輪だけの向日葵ひまわりを手に。

「久しぶりだな、親友」

 石にかかった苔を払うことなく、その花を石の前に置いた。

「五十年経っても、この風景は変わらないな……

 ……なぁ、『湖に落ちるぞ』と、止めてはくれないか?……てな」

 石を背に、崖に腰掛け、そう嘯いた。

 そこは当時イチ傭兵だった私と、『彼』が出会った場所だ。

『湖に落ちるぞ』
『ん?これはこれは、第五王子殿下ではございませんか』
『うちの国民たみじゃないよな。
 僕を知ってるのか?』
『先月まで、うちの雇い主はそちらの戦争相手でしたよ』
『ふぅん……ここにはよく来るのか?』
『ここから見える景色が、昔からのお気に入りなんですよ』
『ははっ、僕もだ』

 そんな軽口から始まった出会い。
 雇われとは言え、敵同士だった2人は、この場限りと思い、立場も何もかも忘れて歓談した。
 その時は日暮れと共に別れたが、長い長い付き合いは、この時から始まった。


『一度は偶然、二度なら奇跡、三度なら必然、四度で運命……』
『どこかで聞いたフレーズだな』
『十度となれば……何だろな?神の導き?』
『何が言いたいんだ?』
『アル、傭兵止めて僕と組まないか?』
『護衛としてか』
『参謀で』
『ここを出たら医師に頭を診てもらってこい』
『僕は真面目だぞ!』

 およそ1~2ヶ月に一度ここに訪れると、約束もしてないのに必ず会った。神に導かれたかのように。
 数日後、私は傭兵業を辞め、第五王子専属相談役に就いた。
 後に『彼』は兄王子、姉王女たちを退け、玉座に座り、17代目国王となった。


『お前、また振ったんだって?』
『ん~……生涯を共に、となるとなぁ……』
『これで国内は全滅じゃねぇか。
 跡取りどうすんだよ!』
『アルが決まったら考える』
『俺は先週婚約したぞ』
『え、ウソ!』

 『彼』は生涯はんりょを持たず、次代を姉の息子に譲った。
 今代の国王19代目ジェームスバカ王子は、その子孫であり、『彼』の直系ではない。


『パン屋の娘だ、彼女以外は愛せない』
『なら、会ってプロポーズして来いよ。
 平民と結婚できない法は無いだろ』
『僕が殺した』
『は?』
『父上の影だったんだ』
『……すまん』

 私と出会う前の事。
 『彼』が生涯で唯一愛した女は、16代目ちちおやの送り込んだ、暗殺者だった。
 以来、誰を前にしても、はんりょに出来るイメージがわかないと、『彼』は言っていた。

ちなみに私の婚約は……


『なんで解消になったんだ?』
『反対されたんだよ』
『公爵に?』
『先代に』
『僕が後ろ盾でも?』
『俺のいた傭兵団が昔、弟さんをったんだと』
『それは反対するな』

 傭兵だった過去が、この国と敵対した事もある過去が、自分の、そして『彼』の足を引っ張った事も少なくなかった。
 私が抜ける前の事も、抜けた後の事でも。
 『彼』の元を離れようとした回数は、両手両足の指では足りない。それでも『彼』は私を手放さなかった。


『呼ぶなよ、呼ぶなよ。絶対呼ぶなよ!
 いいか、フリじゃないからな!
 呼んだら縁斬るからな!
 絶対僕を『義兄あに』って呼ぶなよ!!』
『いや、呼ばねぇよ』
『呼ばないの?』
『なんでがっかりしてんだよ!』

 『彼』の同腹の妹王女と私は結婚した。
 彼女の継承権争いからの避難先が、私が『彼』に出会う直前の雇い主の国だった。
 当時彼女を救った事があったようで。
 散々足を引っ張ってきた傭兵の過去が、逆に縁を結んできた。
 まさか『彼』の義弟になるとは……。


『こないだレティいもうとに疑われた』
『なんて?』
『アルが僕のカノジョなんじゃないかと』
『よし、シバいてくる』
『わ、ゴメンウソ。ウソだから行くなぁ!!』
『騎士団長だろ』
『うん』
『次のヤツ、決めとけ』
『もう決めてある』
『あとレティ俺の妻で巫山戯るのは止めろ』
『それはゴメン』

 政治的な話をするにも、互いにおふざけを挟む仲だった。
 この時は当時の騎士団長が女遊びが過ぎて、騎士団の信用問題になっていた。
 ちなみに私と『彼』との仲が疑われたのは、『嘘から出たまこと』だった。


『アルの子供らはここへ連れてこないの?』
『入り口までは連れてきた』
『入り口付近でぐるぐる迷ってるぞ』
『来れれば歓迎してやる、来れなきゃ帰りに回収する』
『誰も来れないだろ』
『俺たちは来れただろ』

 私も『彼』も、痕跡が残り難いように来ているからか、かつての傭兵仲間にもここを教えたが、来れたのは1人だけだった。
 『彼』もいろんなヤツに教えたが、そいつらを含めても1人だった。
 ちなみにレティも連れてきた事はない。来たがった事もないが。


『僕が死んだら、右足はここに埋めてくれよ』
『なんで右足?』
『死んだ後もここに来たいからな』
『いや、なんで右足?』
『え?』
『え?』

 元異国人だった私は当時知らなかったが、この国独自の風習で、体の部分を別の墓に埋めるというものがあると。
 部分毎に意味が違うらしい。
 右足の場合、死後もそこを訪れると。
 『彼』は今も来てるのかね?


 『彼』との想い出には思い出すと、枚挙にいとまがない。それでも十分とは言えない。
 私があの世に行ったら、同じぐらい想い出を作れるだろうか。
 ずっと昔に逝ったレティが先に作ってるかもな。
感想 12

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