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第十九章
656 スタンティン家の主張
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( マリオン )
エドワード派閥に完全に入りたくない我が家としては、事を荒立てずに、派閥のトップに対して緩く線を引けたわけで……結果としては良い機会にもなった。
胸糞の悪いあの性悪一家を思い出し、ざまあみろと言わんばかりに、はっ!と鼻で笑いながらも、今後その強大なエドワード派閥の者達とどう付き合っていくべきかと考えると頭が痛い。
「 …………ふん。 」
嫌な気分を払う様に、お茶をもう一口ゴクリと飲み込むと、父は気まずそうに口を開く。
「 マリオン……お前も既に準成人となった。
今度はこの国の様々な情勢について、理解を深めていかなければならない。
そしてそんな中、我がスタンティン家はどう在っていくべきかも決めていかなければならなくなるだろう。
これは非常に難しく、辛い選択が沢山存在するはずだ。
もしも、もう一度生まれ変われるなら迷いなく平民を選ぶほどには、な? 」
気まずい空気を和らげるため、軽くジョークで話を締める父様に、母様はいくらか空気を和らげクスリと笑う。
我がスタンティン家は、身分に重きを置く身分至上主義……よりは大分緩和した、いうなれば身分尊重主義とでも言おうか。
とりあえずハッキリしている事としては、過激な身分至上主義を主張するエドワード派閥とは、一線を引いた非常に不安定な位置を、現在まで何とかキープしている。
スタンティン家は代々魔導具やトラップ制作など、この世界に欠かすことの出来ない魔道具作りを生業にし、繁栄を続けてきた歴史も長い名家だ。
先祖代々続けている商業戦略としては ” 貴族にのみに売る ” 事で、それにより高いブランド力を生み出し、事業を爆発的に大成功させたのだ。
身分に重きを置く貴族にとって、このブランド力は大変魅力的であり、現在まで絶大な支持を得ているのだが……問題は、貴族のほとんどがエドワード派閥の者達であると言うことである。
「 ……全く頭が痛い事だ。 」
ついポソっと、不満が口から飛び出す。
エドワード派閥は、この国を動かす国の重鎮から末端の貴族達まで貴族の9割ほどを取り込み、極端な身分にたいする思想の元、非常に巨大な権力を持っていた。
そんな大きすぎる権力を前に、致し方なく加入せざるを得ない者達も多い。
それを断る事で自身の家と家族のみならず、治めている領の民達、事業に携わる全ての者達の生活、更には下手をしたら命まで奪う結果になるかもしれないのだから……それは致し方ない。
まるで奴隷の様に使われている善良な貴族達の事を考えると、頭の痛みはどんどんと酷くなっていった。
ある程度力がある貴族達の中には、我々同様、のらりくらりとその派閥に入ることに抵抗し続けている者達もいる。
しかし、このまま王位争いが苛烈化し、エドワード派閥が力をつけていけば……全員がエドワード様に従う他なくなるだろう。
つまり、もしこのままより巨大化していくであろうエドワード派閥への加入を拒めば、恐らく我が家は、近い将来潰されるという事だ。
強硬手段を取られ、貴族達に魔導具を買わせない様に手を回されてしまえば、流石に打つ手はないから。
「 …………。 」
近い将来 ” 選ぶ ” 時が来る。
その覚悟をしなければならない時は近い。
俺は手に持つカップへ視線を落とし、中で揺らめく飴色の紅茶を見つめた。
ゆらゆらと揺れる水面のせいで、映った自分の姿が歪む。
なんだかそれが自分の未来を示している様で……何とも嫌な気分になった。
エドワード様の掲げる身分を尊重する価値観と、我が家が掲げるそれは、同じ方向を向いてはいるが全く異なるものだ。
” 貴族と平民は身分の違いを意識し、その線引きはしっかりとするべきである ”
同じなのはここまで。
それから先は完全に道が別れている。
そもそも貴族とは、全体を見据え人々を纏め導くための存在であり、本来そこには自由などない。
発言や行動の自由も人付き合いも婚姻も、領地と領民達を守るため全てを犠牲にする生活が強いられる。
自分のたった一言の発した言葉で、戦争を引き起こす可能性もあるし、交渉が上手くいかなければ犠牲者を出してしまう程の損害を出してしまう事だってあるのだ。
更に、婚姻は領民達の生活を守るため、自身の家や領に利益がある者と縁を作る為のモノだし、有事の際は兵を率いて、命を賭けて前線へと戦いに行かなければならない。
そのため、幼き頃からありとあらゆる英才教育が施され、遊ぶ時間など一秒たりともとったことなどない────にも関わらず、これで立場も暮らしも平民と同じでは、貴族は家畜にも劣る存在ではないかと、少なくとも俺は思う。
” 貴族は貴族のメリット、デメリットを。
平民は平民のメリット、デメリットを理解し、その上でお互いの義務を果たそう。 ”
これこそが、我がスタンティン家の、身分尊重主義の主張だ。
デメリットなしにメリットだけを望む者達は、貴族だろうと平民だろうと数多く存在しているが、それを望む貴族がトップ層にウジャウジャいるエドワード派閥には加担したくはない。
そのためこのままを望んでいるのに……世はそれを許してくれないらしい。
揺らめく紅茶を見つめていると、ようやく自分の手が小さく震えている事に気づいた。
俺は両親に気づかれない様にソッとテーブルに紅茶のカップを置くと「 分かっております。 」と、動揺を隠しながら告げる。
恐らく俺のそんな動揺などとっくにお見通しであろう父様は、あえて見て見ぬふりをしてくれて、それに安堵しながら俺はリーフ様の事を思い出していた。
エドワード派閥に完全に入りたくない我が家としては、事を荒立てずに、派閥のトップに対して緩く線を引けたわけで……結果としては良い機会にもなった。
胸糞の悪いあの性悪一家を思い出し、ざまあみろと言わんばかりに、はっ!と鼻で笑いながらも、今後その強大なエドワード派閥の者達とどう付き合っていくべきかと考えると頭が痛い。
「 …………ふん。 」
嫌な気分を払う様に、お茶をもう一口ゴクリと飲み込むと、父は気まずそうに口を開く。
「 マリオン……お前も既に準成人となった。
今度はこの国の様々な情勢について、理解を深めていかなければならない。
そしてそんな中、我がスタンティン家はどう在っていくべきかも決めていかなければならなくなるだろう。
これは非常に難しく、辛い選択が沢山存在するはずだ。
もしも、もう一度生まれ変われるなら迷いなく平民を選ぶほどには、な? 」
気まずい空気を和らげるため、軽くジョークで話を締める父様に、母様はいくらか空気を和らげクスリと笑う。
我がスタンティン家は、身分に重きを置く身分至上主義……よりは大分緩和した、いうなれば身分尊重主義とでも言おうか。
とりあえずハッキリしている事としては、過激な身分至上主義を主張するエドワード派閥とは、一線を引いた非常に不安定な位置を、現在まで何とかキープしている。
スタンティン家は代々魔導具やトラップ制作など、この世界に欠かすことの出来ない魔道具作りを生業にし、繁栄を続けてきた歴史も長い名家だ。
先祖代々続けている商業戦略としては ” 貴族にのみに売る ” 事で、それにより高いブランド力を生み出し、事業を爆発的に大成功させたのだ。
身分に重きを置く貴族にとって、このブランド力は大変魅力的であり、現在まで絶大な支持を得ているのだが……問題は、貴族のほとんどがエドワード派閥の者達であると言うことである。
「 ……全く頭が痛い事だ。 」
ついポソっと、不満が口から飛び出す。
エドワード派閥は、この国を動かす国の重鎮から末端の貴族達まで貴族の9割ほどを取り込み、極端な身分にたいする思想の元、非常に巨大な権力を持っていた。
そんな大きすぎる権力を前に、致し方なく加入せざるを得ない者達も多い。
それを断る事で自身の家と家族のみならず、治めている領の民達、事業に携わる全ての者達の生活、更には下手をしたら命まで奪う結果になるかもしれないのだから……それは致し方ない。
まるで奴隷の様に使われている善良な貴族達の事を考えると、頭の痛みはどんどんと酷くなっていった。
ある程度力がある貴族達の中には、我々同様、のらりくらりとその派閥に入ることに抵抗し続けている者達もいる。
しかし、このまま王位争いが苛烈化し、エドワード派閥が力をつけていけば……全員がエドワード様に従う他なくなるだろう。
つまり、もしこのままより巨大化していくであろうエドワード派閥への加入を拒めば、恐らく我が家は、近い将来潰されるという事だ。
強硬手段を取られ、貴族達に魔導具を買わせない様に手を回されてしまえば、流石に打つ手はないから。
「 …………。 」
近い将来 ” 選ぶ ” 時が来る。
その覚悟をしなければならない時は近い。
俺は手に持つカップへ視線を落とし、中で揺らめく飴色の紅茶を見つめた。
ゆらゆらと揺れる水面のせいで、映った自分の姿が歪む。
なんだかそれが自分の未来を示している様で……何とも嫌な気分になった。
エドワード様の掲げる身分を尊重する価値観と、我が家が掲げるそれは、同じ方向を向いてはいるが全く異なるものだ。
” 貴族と平民は身分の違いを意識し、その線引きはしっかりとするべきである ”
同じなのはここまで。
それから先は完全に道が別れている。
そもそも貴族とは、全体を見据え人々を纏め導くための存在であり、本来そこには自由などない。
発言や行動の自由も人付き合いも婚姻も、領地と領民達を守るため全てを犠牲にする生活が強いられる。
自分のたった一言の発した言葉で、戦争を引き起こす可能性もあるし、交渉が上手くいかなければ犠牲者を出してしまう程の損害を出してしまう事だってあるのだ。
更に、婚姻は領民達の生活を守るため、自身の家や領に利益がある者と縁を作る為のモノだし、有事の際は兵を率いて、命を賭けて前線へと戦いに行かなければならない。
そのため、幼き頃からありとあらゆる英才教育が施され、遊ぶ時間など一秒たりともとったことなどない────にも関わらず、これで立場も暮らしも平民と同じでは、貴族は家畜にも劣る存在ではないかと、少なくとも俺は思う。
” 貴族は貴族のメリット、デメリットを。
平民は平民のメリット、デメリットを理解し、その上でお互いの義務を果たそう。 ”
これこそが、我がスタンティン家の、身分尊重主義の主張だ。
デメリットなしにメリットだけを望む者達は、貴族だろうと平民だろうと数多く存在しているが、それを望む貴族がトップ層にウジャウジャいるエドワード派閥には加担したくはない。
そのためこのままを望んでいるのに……世はそれを許してくれないらしい。
揺らめく紅茶を見つめていると、ようやく自分の手が小さく震えている事に気づいた。
俺は両親に気づかれない様にソッとテーブルに紅茶のカップを置くと「 分かっております。 」と、動揺を隠しながら告げる。
恐らく俺のそんな動揺などとっくにお見通しであろう父様は、あえて見て見ぬふりをしてくれて、それに安堵しながら俺はリーフ様の事を思い出していた。
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