【第一部完結】天寿を全うした俺は呪われた英雄のため悪役に転生します

バナナ男さん

文字の大きさ
929 / 1,649
第二十七章

913 一人

しおりを挟む
(メル)

毎日街の広場にはまだ幼い獣人の子供達が集まり、森で遊んだり狩りの真似事をしてみたり、恐らく人族なら少々ハードな遊びをするのだが、メルは毎日それについていく事ができない。

パワー、スピード、持久力……どれをとっても体格からして劣るメルを周りの同年代の子供たちはイジメる事はなかったが、その代わり誰も彼もが気まずそうな顔で視線を逸らす。

『メルちゃんは危ないからここに残った方がいいよ。』

『後で獲物は分けてやるからさ。』

『無理して怪我したら危ないし……。』

その優しい気遣いの言葉達は本来は喜ぶべき言葉なのかもしれないが……メルはただ悲しかった。

ついていけない自分が。
力のない非力な自分が……。

その全てが悲しくて悲しくて、ペンギンである自分が嫌になってしまった。

そうして日々塞ぎ込むメルを見て、ある日庭に座ってボンヤリしているメルに母が近づき声を掛けてくる。

「メルちゃん、友達と一緒に遊ばないの?」

母の質問に、メルはしょんぼりしながらフルフルと首を横に振った。

「……メルがいると迷惑になる……。皆、思い切り遊べない……。」

母はメルの答えを聞いて、隣に座った。

「ペンギンは元々の能力がどうしても他の獣人に劣るからね。
あんまり戦闘にも向いていないんだよ。
獣人は魔法が苦手な分肉体的なアドバンテージでそれを補うからね。
メルちゃんは強くなりたいんだ?」

メルは大きくコクリと頷くと、母は少し困った様に笑いながら「そっか……。」と小さく呟く。
そして少しだけ間を置いて、再び母が喋りだした。

「『なりたい自分』と『持って生まれた才能』が違うのは辛いね。
母さんはね、メルちゃんと逆で昔から戦ったり喧嘩するのが凄く苦手で、メルちゃんに軽蔑されちゃうかもしれないけど、ペンギンに生まれて良かったって思っちゃったんだ。
言い方は悪いけど『これを理由に、なりたい自分になって良いんだ』って、凄く気持ちが楽になったの。
ペンギンの特化している能力は【慈愛】だから、結婚や子育てと凄く相性がいいからね。
毎日大好きな家族の喜ぶ顔を見られて母さんは本当に幸せなんだ。
────でも、メルちゃんはそういう生き方は性に合わないのね?」

メルはどう答えるべきか悩んだ。

それを肯定しては、母の生き方を否定してしまうのではないか?そう思ったからだ。

どうしようとウロウロ視線を動かしていると、母が突然ギュ──っと抱きしめてきた。

「も~メルちゃんってば、お母さんに気を使ってるな~?
いいのよ。だってメルちゃんはお母さんと親子だけど、幸せの形が違うんだから。
母さんと同じ形じゃなくていいんだよ。
これからゆっくり探せばいいの。
もしかしてどうしようもない壁にぶつかって諦めたとしても、きっとそれは無駄にならないから、頑張ってみなよ。
よ~し!見てて!」

母は急に立ち上がると、グッと片手を握る。
そして何かのスキルを発動すると、ポンッ!という音を立てて小さな丸みを帯びた弓矢が現れた。
母は現れた弓矢を握ると、そのまま近くに立っていた木に向かってそれをスコーン!と投げつける。

────ドシンっ!!

その衝撃で木がわずかに揺れて、上からチビりんごが数個程落ちて来てコロコロと地面を転がった。
それを母は笑顔で拾い、そのままメルに差し出す。

「戦闘が苦手なお母さんが唯一頑張って覚えた攻撃スキル!
お嫁さんになるのが夢なら必要じゃないんじゃない?って言われたけど、頑張って習得して無駄にはならなかったでしょ?
だってそのお陰で大好きな娘に、こうしてチビりんごをプレゼントできたんだから。」

メルはその差し出されたチビりんごを受け取って、その通りだ!と思った。
だから、メルは自分の理想を探す事に決めたのだが……それは容易な事ではなかったとすぐに思い知る。

剣を振ってもイマイチ。
体術もイマイチ。
頭も回転が遅いし良くはないポンコツ。

そんなメルは、努力するたびに悲しくなって毎日凹んだり塞ぎ込んだりしていたが、弓だけはなんとなく身体に馴染む事に気づいた。

戦闘職を目指す特に獣人の中では弓は断トツに不人気の武器で、何故なら単純な火力や爆発力では魔法に負けるし、剣などの前衛職にだって遠距離型物理スキルを持つ者だって多いためだ。
更に弓を装備している時点で前衛職はできずに、使い所がかなり限局されてしまう点からも、あえて皆弓を選ばない。

だからメルが弓を選んで練習し始めると、誰もがそれに対し『辞めておけ』とアドバイスをくれた。

『無駄な事は辞めた方が良いよ。』

『種族に合った能力を生かした方が良いと思うな。』


『不相応に暮せば幸せになれるよ。』


口を揃えて言われる言葉はきっと世の中的には『正しい』のかもしれない。
でもメルはどうしてもそれを選びたくなかったから、来る日も来る日も暇さえあれば弓を引く。
手から血が出ても、手の筋肉が悲鳴を上げても、何度も何度も……。

そんなメルの姿を見て、やがて周りは何も言わなくなっていきメルは一人になった。
しおりを挟む
感想 274

あなたにおすすめの小説

伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい

マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。 最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡) 世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。

【完結】悪役令嬢モノのバカ王子に転生してしまったんだが、なぜかヒーローがイチャラブを求めてくる

路地裏乃猫
BL
ひょんなことから悪役令嬢モノと思しき異世界に転生した〝俺〟。それも、よりにもよって破滅が確定した〝バカ王子〟にだと?説明しよう。ここで言うバカ王子とは、いわゆる悪役令嬢モノで冒頭から理不尽な婚約破棄を主人公に告げ、最後はざまぁ要素によって何やかんやと破滅させられる例のアンポンタンのことであり――とにかく、俺はこの異世界でそのバカ王子として生き延びにゃならんのだ。つーわけで、脱☆バカ王子!を目指し、真っ当な王子としての道を歩き始めた俺だが、そんな俺になぜか、この世界ではヒロインとイチャコラをキメるはずのヒーローがぐいぐい迫ってくる!一方、俺の命を狙う謎の暗殺集団!果たして俺は、この破滅ルート満載の世界で生き延びることができるのか? いや、その前に……何だって悪役令嬢モノの世界でバカ王子の俺がヒーローに惚れられてんだ? 2025年10月に全面改稿を行ないました。 2025年10月28日・BLランキング35位ありがとうございます。 2025年10月29日・BLランキング27位ありがとうございます。 2025年10月30日・BLランキング15位ありがとうございます。 2025年11月1日 ・BLランキング13位ありがとうございます。 第13回BL大賞で奨励賞をいただきました。これもひとえに皆様の応援のおかげです。本当にありがとうございました。

五十一歳、森の中で家族を作る ~異世界で始める職人ライフ~

よっしぃ
ファンタジー
【ホットランキング1位達成!皆さまのおかげです】 多くの応援、本当にありがとうございます! 職人一筋、五十一歳――現場に出て働き続けた工務店の親方・昭雄(アキオ)は、作業中の地震に巻き込まれ、目覚めたらそこは見知らぬ森の中だった。 持ち物は、現場仕事で鍛えた知恵と経験、そして人や自然を不思議と「調和」させる力だけ。 偶然助けたのは、戦火に追われた五人の子供たち。 「この子たちを見捨てられるか」――そうして始まった、ゼロからの異世界スローライフ。 草木で屋根を組み、石でかまどを作り、土器を焼く。やがて薬師のエルフや、獣人の少女、訳ありの元王女たちも仲間に加わり、アキオの暮らしは「町」と呼べるほどに広がっていく。 頼れる父であり、愛される夫であり、誰かのために動ける男―― 年齢なんて関係ない。 五十路の職人が“家族”と共に未来を切り拓く、愛と癒しの異世界共同体ファンタジー!

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

逃げた弟のかわりに溺愛アルファに差し出されました。初夜で抱かれたら身代わりがばれてしまいます💦

雪代鞠絵/15分で萌えるBL小説
BL
逃げた弟の身代わりとなり、 隣国の国王である溺愛アルファに嫁いだオメガ。 しかし実は、我儘で結婚から逃げ出した双子の弟の身代わりなのです… オメガだからと王宮で冷遇されていたので、身代わり結婚にも拒否権が なかたのでした。 本当の花嫁じゃない。 だから何としても初夜は回避しなければと思うのですが、 だんだん王様に惹かれてしまい、苦しくなる…という お話です。よろしくお願いします<(_ _)>

転生したようだけど?流れに身を任せていたら悪役令息?として断罪されていた――分からないまま生きる。

星乃シキ
BL
発作の後に目覚めたら、公爵家嫡男の身体だった。 前世の記憶だけを抱えたまま生きるレイは、ある夜、男の聖女への嫌がらせの罪で断罪される。 だが図書室の記録が冤罪を覆す。 そしてレイは知る。 聖女ディーンの本当の名はアキラ。 同じ日本から来た存在だった。 帰りたい聖女と、この身体で生きるレイ。 秘密を共有した二人は、友達になる。 人との関わりを避けてきたレイの人間関係が、少しずつ動き始める。

悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?

  *  ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。 悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう! せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー? ユィリと皆の動画をつくりました! インスタ @yuruyu0 絵も動画もあがります。ほぼ毎日更新 Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。動画を作ったときに更新 プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー! ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!

無能と呼ばれた婚約者は王を完成させる〜替え玉婚約者のはずが、強すぎる王太子に手放してもらえません〜

統子
BL
兄の身代わりとして王太子の婚約者になった伯爵家次男リュシー。 嘘の名を名乗ったはずが、冷静で誠実な王太子リオンは彼を「力の装置」としてではなく、対等な伴侶として扱おうとする。 本物になりたいと願う替え玉と、完成された王太子の静謐な王宮ロマンス。

処理中です...