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第二十七章
913 一人
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(メル)
毎日街の広場にはまだ幼い獣人の子供達が集まり、森で遊んだり狩りの真似事をしてみたり、恐らく人族なら少々ハードな遊びをするのだが、メルは毎日それについていく事ができない。
パワー、スピード、持久力……どれをとっても体格からして劣るメルを周りの同年代の子供たちはイジメる事はなかったが、その代わり誰も彼もが気まずそうな顔で視線を逸らす。
『メルちゃんは危ないからここに残った方がいいよ。』
『後で獲物は分けてやるからさ。』
『無理して怪我したら危ないし……。』
その優しい気遣いの言葉達は本来は喜ぶべき言葉なのかもしれないが……メルはただ悲しかった。
ついていけない自分が。
力のない非力な自分が……。
その全てが悲しくて悲しくて、ペンギンである自分が嫌になってしまった。
そうして日々塞ぎ込むメルを見て、ある日庭に座ってボンヤリしているメルに母が近づき声を掛けてくる。
「メルちゃん、友達と一緒に遊ばないの?」
母の質問に、メルはしょんぼりしながらフルフルと首を横に振った。
「……メルがいると迷惑になる……。皆、思い切り遊べない……。」
母はメルの答えを聞いて、隣に座った。
「ペンギンは元々の能力がどうしても他の獣人に劣るからね。
あんまり戦闘にも向いていないんだよ。
獣人は魔法が苦手な分肉体的なアドバンテージでそれを補うからね。
メルちゃんは強くなりたいんだ?」
メルは大きくコクリと頷くと、母は少し困った様に笑いながら「そっか……。」と小さく呟く。
そして少しだけ間を置いて、再び母が喋りだした。
「『なりたい自分』と『持って生まれた才能』が違うのは辛いね。
母さんはね、メルちゃんと逆で昔から戦ったり喧嘩するのが凄く苦手で、メルちゃんに軽蔑されちゃうかもしれないけど、ペンギンに生まれて良かったって思っちゃったんだ。
言い方は悪いけど『これを理由に、なりたい自分になって良いんだ』って、凄く気持ちが楽になったの。
ペンギンの特化している能力は【慈愛】だから、結婚や子育てと凄く相性がいいからね。
毎日大好きな家族の喜ぶ顔を見られて母さんは本当に幸せなんだ。
────でも、メルちゃんはそういう生き方は性に合わないのね?」
メルはどう答えるべきか悩んだ。
それを肯定しては、母の生き方を否定してしまうのではないか?そう思ったからだ。
どうしようとウロウロ視線を動かしていると、母が突然ギュ──っと抱きしめてきた。
「も~メルちゃんってば、お母さんに気を使ってるな~?
いいのよ。だってメルちゃんはお母さんと親子だけど、幸せの形が違うんだから。
母さんと同じ形じゃなくていいんだよ。
これからゆっくり探せばいいの。
もしかしてどうしようもない壁にぶつかって諦めたとしても、きっとそれは無駄にならないから、頑張ってみなよ。
よ~し!見てて!」
母は急に立ち上がると、グッと片手を握る。
そして何かのスキルを発動すると、ポンッ!という音を立てて小さな丸みを帯びた弓矢が現れた。
母は現れた弓矢を握ると、そのまま近くに立っていた木に向かってそれをスコーン!と投げつける。
────ドシンっ!!
その衝撃で木がわずかに揺れて、上からチビりんごが数個程落ちて来てコロコロと地面を転がった。
それを母は笑顔で拾い、そのままメルに差し出す。
「戦闘が苦手なお母さんが唯一頑張って覚えた攻撃スキル!
お嫁さんになるのが夢なら必要じゃないんじゃない?って言われたけど、頑張って習得して無駄にはならなかったでしょ?
だってそのお陰で大好きな娘に、こうしてチビりんごをプレゼントできたんだから。」
メルはその差し出されたチビりんごを受け取って、その通りだ!と思った。
だから、メルは自分の理想を探す事に決めたのだが……それは容易な事ではなかったとすぐに思い知る。
剣を振ってもイマイチ。
体術もイマイチ。
頭も回転が遅いし良くはないポンコツ。
そんなメルは、努力するたびに悲しくなって毎日凹んだり塞ぎ込んだりしていたが、弓だけはなんとなく身体に馴染む事に気づいた。
戦闘職を目指す特に獣人の中では弓は断トツに不人気の武器で、何故なら単純な火力や爆発力では魔法に負けるし、剣などの前衛職にだって遠距離型物理スキルを持つ者だって多いためだ。
更に弓を装備している時点で前衛職はできずに、使い所がかなり限局されてしまう点からも、あえて皆弓を選ばない。
だからメルが弓を選んで練習し始めると、誰もがそれに対し『辞めておけ』とアドバイスをくれた。
『無駄な事は辞めた方が良いよ。』
『種族に合った能力を生かした方が良いと思うな。』
『不相応に暮せば幸せになれるよ。』
口を揃えて言われる言葉はきっと世の中的には『正しい』のかもしれない。
でもメルはどうしてもそれを選びたくなかったから、来る日も来る日も暇さえあれば弓を引く。
手から血が出ても、手の筋肉が悲鳴を上げても、何度も何度も……。
そんなメルの姿を見て、やがて周りは何も言わなくなっていきメルは一人になった。
毎日街の広場にはまだ幼い獣人の子供達が集まり、森で遊んだり狩りの真似事をしてみたり、恐らく人族なら少々ハードな遊びをするのだが、メルは毎日それについていく事ができない。
パワー、スピード、持久力……どれをとっても体格からして劣るメルを周りの同年代の子供たちはイジメる事はなかったが、その代わり誰も彼もが気まずそうな顔で視線を逸らす。
『メルちゃんは危ないからここに残った方がいいよ。』
『後で獲物は分けてやるからさ。』
『無理して怪我したら危ないし……。』
その優しい気遣いの言葉達は本来は喜ぶべき言葉なのかもしれないが……メルはただ悲しかった。
ついていけない自分が。
力のない非力な自分が……。
その全てが悲しくて悲しくて、ペンギンである自分が嫌になってしまった。
そうして日々塞ぎ込むメルを見て、ある日庭に座ってボンヤリしているメルに母が近づき声を掛けてくる。
「メルちゃん、友達と一緒に遊ばないの?」
母の質問に、メルはしょんぼりしながらフルフルと首を横に振った。
「……メルがいると迷惑になる……。皆、思い切り遊べない……。」
母はメルの答えを聞いて、隣に座った。
「ペンギンは元々の能力がどうしても他の獣人に劣るからね。
あんまり戦闘にも向いていないんだよ。
獣人は魔法が苦手な分肉体的なアドバンテージでそれを補うからね。
メルちゃんは強くなりたいんだ?」
メルは大きくコクリと頷くと、母は少し困った様に笑いながら「そっか……。」と小さく呟く。
そして少しだけ間を置いて、再び母が喋りだした。
「『なりたい自分』と『持って生まれた才能』が違うのは辛いね。
母さんはね、メルちゃんと逆で昔から戦ったり喧嘩するのが凄く苦手で、メルちゃんに軽蔑されちゃうかもしれないけど、ペンギンに生まれて良かったって思っちゃったんだ。
言い方は悪いけど『これを理由に、なりたい自分になって良いんだ』って、凄く気持ちが楽になったの。
ペンギンの特化している能力は【慈愛】だから、結婚や子育てと凄く相性がいいからね。
毎日大好きな家族の喜ぶ顔を見られて母さんは本当に幸せなんだ。
────でも、メルちゃんはそういう生き方は性に合わないのね?」
メルはどう答えるべきか悩んだ。
それを肯定しては、母の生き方を否定してしまうのではないか?そう思ったからだ。
どうしようとウロウロ視線を動かしていると、母が突然ギュ──っと抱きしめてきた。
「も~メルちゃんってば、お母さんに気を使ってるな~?
いいのよ。だってメルちゃんはお母さんと親子だけど、幸せの形が違うんだから。
母さんと同じ形じゃなくていいんだよ。
これからゆっくり探せばいいの。
もしかしてどうしようもない壁にぶつかって諦めたとしても、きっとそれは無駄にならないから、頑張ってみなよ。
よ~し!見てて!」
母は急に立ち上がると、グッと片手を握る。
そして何かのスキルを発動すると、ポンッ!という音を立てて小さな丸みを帯びた弓矢が現れた。
母は現れた弓矢を握ると、そのまま近くに立っていた木に向かってそれをスコーン!と投げつける。
────ドシンっ!!
その衝撃で木がわずかに揺れて、上からチビりんごが数個程落ちて来てコロコロと地面を転がった。
それを母は笑顔で拾い、そのままメルに差し出す。
「戦闘が苦手なお母さんが唯一頑張って覚えた攻撃スキル!
お嫁さんになるのが夢なら必要じゃないんじゃない?って言われたけど、頑張って習得して無駄にはならなかったでしょ?
だってそのお陰で大好きな娘に、こうしてチビりんごをプレゼントできたんだから。」
メルはその差し出されたチビりんごを受け取って、その通りだ!と思った。
だから、メルは自分の理想を探す事に決めたのだが……それは容易な事ではなかったとすぐに思い知る。
剣を振ってもイマイチ。
体術もイマイチ。
頭も回転が遅いし良くはないポンコツ。
そんなメルは、努力するたびに悲しくなって毎日凹んだり塞ぎ込んだりしていたが、弓だけはなんとなく身体に馴染む事に気づいた。
戦闘職を目指す特に獣人の中では弓は断トツに不人気の武器で、何故なら単純な火力や爆発力では魔法に負けるし、剣などの前衛職にだって遠距離型物理スキルを持つ者だって多いためだ。
更に弓を装備している時点で前衛職はできずに、使い所がかなり限局されてしまう点からも、あえて皆弓を選ばない。
だからメルが弓を選んで練習し始めると、誰もがそれに対し『辞めておけ』とアドバイスをくれた。
『無駄な事は辞めた方が良いよ。』
『種族に合った能力を生かした方が良いと思うな。』
『不相応に暮せば幸せになれるよ。』
口を揃えて言われる言葉はきっと世の中的には『正しい』のかもしれない。
でもメルはどうしてもそれを選びたくなかったから、来る日も来る日も暇さえあれば弓を引く。
手から血が出ても、手の筋肉が悲鳴を上げても、何度も何度も……。
そんなメルの姿を見て、やがて周りは何も言わなくなっていきメルは一人になった。
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