婚約者に浮気されたので、肩代わりしてた公務その他をお返しします

泉花ゆき

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私、ヴィクトリアが執務室を出てからしばらくして。

「……わたくし、悪役と呼ばれても仕方ないようなことをしておりますわね」

廊下を歩きながら、懺悔じみたつぶやきをこぼしてしまった。

「あの方には出来もしないことをさせようとしているのですから」

……それは婚約者相手への懺悔ではなくて、婚約者を無能なまま放置してしまっている現状に……なのだけれど。
こんな状況、国にとっていいはずがないのだから。
ジークフリート様はその葛藤を知ってか知らずか、はっきりと誰が悪いかを教えてくれた。

「誰かが公務を放棄すれば、どこかで誰かが泣く。帳尻合わせを君が夜な夜な行っていたのだろう。むしろ……甘い夢から覚めさせてやれて清々する」

……慰めてくださっているのかしら。というよりも、事実を並べたあとに感想を仰っているだけなのかもしれないけれど。
でも、そうね。もう犠牲になってばかりの時間はおしまいにしないと。

「……ありがとうございます、ジークフリート様。そうですね、それでなくともあの……ガゼボでのような二人の振る舞いは、困りますから」

私がそう伝えると、彼は眉を少し動かしたようだった。

「もし、君が……」

「え……?」

ジークフリート様は何か言おうとしたけれど、その時廊下の向こうから一人の令嬢が小走りにこちらへ向かってくるのが見えた。

「……いや。噂をすれば、来たようだぞ」

「あら……」

ミナ嬢だった。桃色の髪を揺らし、規則で定められたものよりも遥かに丈の短いスカートを履いているから遠くからでも分かりやすい。
可愛らしい小動物のような顔には、今は焦りが浮かんでいた。

(王子様からの連絡が届いたのね)

ジェラルド殿下が書いていた連絡だ。側近を通して渡されたのだろう。

ミナは私に気づくと一瞬顔を曇らせたが、すぐに持ち直した。

「ヴィクトリア様ぁ……あ、ジークフリート様も」

ミナは早足で私たちに近づいてきた。

「よかった。ヴィクトリア様に聞きたいことがあって。ジェラルド様、いませんよね?私王子とお約束があってぇ……」

「あら……ご存じありませんか?」

私は微笑んでみせる。全然感情を込められなかったから、無表情と同じようなものかもしれないけれど。

「殿下は今、公務の山と格闘していらっしゃいますわ。残念ですけれど……は難しいのかもしれません」

ミナがムッとしたような顔をする。やはり王子に見せるものとは全く違う顔で、不満そうに私へと言った。

「ええ~。ヴィクトリア様が押し付けたんですかぁ?……私とジェラルド様に嫉妬してってことぉ?」

「まさか、人聞きの悪い。元々の殿下のなすべきことを、当人に渡しているだけですわ」

「ふ~ん……そうなんですねぇ」

ミナはまだ不満そうにしていたが、ちらっと私の横を見る。そしてジークフリート様をじっと見つめた。その目が光ったようにも見える……

何だか嫌な予感がした。
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