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「……」
急に槍玉に挙げられ、口を開こうとする私より先にミナは言う。
「ヴィクトリア様が私の悪口を吹き込んだんでしょう?だからジークフリート様も私に冷たくするんだわっ……!」
彼女は涙までを流してみせた。周囲の視線が私に集まる。悪評が集まるのを覚悟して、私は憂鬱になったけれど。
しかしジークフリート様は溜息交じりに首を振った。
「君は一つ、大きな勘違いをしている。ヴィクトリア嬢は君の話など一度もしていない」
「え……?」
「彼女との会話の中で、君のような職務に関わりのない個人の話題に割く時間は我々にはない」
「なっ……!」
「君が先ほど言っていた……ヴィクトリア嬢が殿下に仕事を押し付ける、という言葉だが」
ジークフリート様の視線が鋭さを増す。
「彼女が処理しているのは本来、君が慕うジェラルド殿下が果たすべき責務だ。殿下が君との時間にかまけて放り出した仕事を、彼女が身を削って支えている。その事実を知りながら、君は彼女を冷たいと罵るのか?」
「っ……で、でも、ジェラルド様は疲れていて……」
「誰もが疲れている、ヴィクトリア嬢もだ。だが彼女はただ黙々と義務を果たしている。……君もせめて、人を貶めようとするのを控えるべきだ」
他に何も出来はしないのだから。
言外にそんなことを言っている気がして、周りで聞いている人たちのほうが寒そうにしている。
「う……ぅ……」
ミナ嬢も、言われてることに気がついたのか反論するのをやめてしまった。
ジークフリート様は私の方を振り返ることはない。……義務を果たしているというのも……つい本日中から、黙々と……というのはやめてしまったけれど。これはミナ嬢へ教えてあげることもないので黙っておいた。
「……それでは失礼する」
それは完全なる拒絶だった。
ミナは何か言いたそうにしていたが、もう言葉は出てこなかった。涙はとっくに引っ込んで、今は顔を赤黒くしている。
「行こうか、ヴィクトリア嬢」
ジークフリート様は私に向き直るとそう言った。手を出してエスコートすることはしないけれど、その眼差しには手を取るような優しさがあった。
「はい……」
背を向ける前にちらりとミナ嬢へと視線を向けるが、彼女からは恥辱を感じているかのように目を逸らされる。
私たちはミナを残し、廊下を歩き出した。
少し歩いてから、周囲に人がいなくなったのを確認し、私は小さく呟いた。
「……フォローして下さってありがとうございます」
「事実を述べたまでだ。……それから、あのような時は迂闊に近寄らない方がいい。君が突き飛ばしたと言われかねないぞ」
「まあ……」
ご冗談を、と言いたいところだが心当たりがありすぎる。私は苦笑するに留めた。
ジークフリート様は前を向いたまま答える。
「君が悪者扱いされるのは、存外面白くないと気が付いた。特に、あんな名もないような人間の狂言で汚されるべきではないな」
「……恐縮ですわ」
……彼の中でミナ嬢は、カウントもしていないほどの存在ではあるようだった。
急に槍玉に挙げられ、口を開こうとする私より先にミナは言う。
「ヴィクトリア様が私の悪口を吹き込んだんでしょう?だからジークフリート様も私に冷たくするんだわっ……!」
彼女は涙までを流してみせた。周囲の視線が私に集まる。悪評が集まるのを覚悟して、私は憂鬱になったけれど。
しかしジークフリート様は溜息交じりに首を振った。
「君は一つ、大きな勘違いをしている。ヴィクトリア嬢は君の話など一度もしていない」
「え……?」
「彼女との会話の中で、君のような職務に関わりのない個人の話題に割く時間は我々にはない」
「なっ……!」
「君が先ほど言っていた……ヴィクトリア嬢が殿下に仕事を押し付ける、という言葉だが」
ジークフリート様の視線が鋭さを増す。
「彼女が処理しているのは本来、君が慕うジェラルド殿下が果たすべき責務だ。殿下が君との時間にかまけて放り出した仕事を、彼女が身を削って支えている。その事実を知りながら、君は彼女を冷たいと罵るのか?」
「っ……で、でも、ジェラルド様は疲れていて……」
「誰もが疲れている、ヴィクトリア嬢もだ。だが彼女はただ黙々と義務を果たしている。……君もせめて、人を貶めようとするのを控えるべきだ」
他に何も出来はしないのだから。
言外にそんなことを言っている気がして、周りで聞いている人たちのほうが寒そうにしている。
「う……ぅ……」
ミナ嬢も、言われてることに気がついたのか反論するのをやめてしまった。
ジークフリート様は私の方を振り返ることはない。……義務を果たしているというのも……つい本日中から、黙々と……というのはやめてしまったけれど。これはミナ嬢へ教えてあげることもないので黙っておいた。
「……それでは失礼する」
それは完全なる拒絶だった。
ミナは何か言いたそうにしていたが、もう言葉は出てこなかった。涙はとっくに引っ込んで、今は顔を赤黒くしている。
「行こうか、ヴィクトリア嬢」
ジークフリート様は私に向き直るとそう言った。手を出してエスコートすることはしないけれど、その眼差しには手を取るような優しさがあった。
「はい……」
背を向ける前にちらりとミナ嬢へと視線を向けるが、彼女からは恥辱を感じているかのように目を逸らされる。
私たちはミナを残し、廊下を歩き出した。
少し歩いてから、周囲に人がいなくなったのを確認し、私は小さく呟いた。
「……フォローして下さってありがとうございます」
「事実を述べたまでだ。……それから、あのような時は迂闊に近寄らない方がいい。君が突き飛ばしたと言われかねないぞ」
「まあ……」
ご冗談を、と言いたいところだが心当たりがありすぎる。私は苦笑するに留めた。
ジークフリート様は前を向いたまま答える。
「君が悪者扱いされるのは、存外面白くないと気が付いた。特に、あんな名もないような人間の狂言で汚されるべきではないな」
「……恐縮ですわ」
……彼の中でミナ嬢は、カウントもしていないほどの存在ではあるようだった。
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