婚約者に浮気されたので、肩代わりしてた公務その他をお返しします

泉花ゆき

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ミナ視点


「大丈夫ですか!? ペルルさん!」

ヴィクトリアとジークフリートへ置いていかれ、廊下にへたり込んだままのミナ。その肩を、誰かが揺すった。

顔を上げると、そばかすのある茶髪の男子生徒が心配そうに覗き込んでいた。ミナは反射的にその顔を鑑定する。 

(名前は……えっと、ロバートか。騎士科の二年で実家は下級貴族。顔面偏差値、Cランク。 ……なんだモブじゃん。触んじゃないわよ)

「……うん、大丈夫。ありがとーございます」

をさっと読み込んだミナは、作り笑顔を浮かべて彼の手を立ち上がった。

攻略対象外のモブ相手に転倒イベントのスチル枠を消費しても意味がない。彼らの好感度をいくら上げたところで、何の役にも立たないのだから。

ミナはスカートの埃を払いながら、廊下の向こうへと消えていった二つの背中……ジークフリートと、憎き悪役令嬢ヴィクトリアを睨みつけた。

(信じらんない。完全にバグってるわよ、これ)

思い切りぶつけた鼻が痛い。こんなところまで現実を再現しないでほしかった。

ここは、乙女ゲーム<王立学園の薔薇と剣>の世界。そして自分は、この世界の絶対的な主人公、ヒロインのミナ・ペルルである。

……というのが、ミナの自認だ。

前世のミナはこのゲームを狂ったようにやり込んでいた。寝る間も惜しんでコントローラーを握りしめ、すべてのルート、すべてのエンディングを回収した記憶が今も鮮明に残っている。

鏡を見れば、ピンクブロンドの髪に垂れ目のかわいらしい顔立ち。貴族としてのランクは低い男爵家だが、そこは守ってあげたくなる設定。

そして彼女の気さくな性格こそが、高位貴族の男子たちの庇護欲をそそる最強の武器になるはずだった。

(それなのに、なんなのよ今の扱いは!)

本来のシナリオなら、ミナが転べば攻略対象の誰かが必ず助けてくれる。キラキラとしたエフェクトと共にスチルが表示される。
『大丈夫かい?怪我はない?』
……などと、甘い言葉を囁かれるはずなのだ。

それが無視?あろうことか説教されるなんて、シナリオブックのどこにも書いていない。

「……あの、医務室へ行きましょうか?」

まだ横にいたモブの男子生徒が話しかけてくる。名はとっくに忘れてしまった。ミナは鬱陶しそうに小さく舌打ちしそうになるのを堪える。

「ああ、はい。一人で大丈夫なんで」

彼女は冷たく言い放ち、さっさとその場を離れた。 今は一刻も早く、脳内の攻略チャートを修正しなければならない……

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