自称病弱いとこを優先させ続けた婚約者の末路

泉花ゆき

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二人が去った後の離れには、先ほどまでの騒がしさが嘘のような静寂が戻った。

張り詰めていた空気が緩み、私は一つ吐息を漏らす。扇を握りしめていた指先が、微かに熱を持っていることに気づいた。

「……心中お察しいたします、エルアナ様。お体に障りなどはございませんか」

それまで壁際で息を潜めていた責任者の男性が、一歩前へと進み出た。その声には労わりが込められている。

「大丈夫、少し話しすぎてしまっただけ。……お待たせしてごめんなさい」

「滅相もございません。あのような……心労の絶えないお相手に毅然きぜんと振る舞われるお姿、痛み入ります」

彼は深々と一礼するが、その表情にはどこか言い淀むような複雑な色が含まれている。

その表情を見て、私の頭にはふと疑念が浮かんだ。離れに連れて来られる前に少し聞いたことではあったが、今一度確認を申し出る。

「……リリアンが見えたというご報告、確かに受け取りました。けれど……何か被害は他になかった?」

私の指摘に、責任者は驚いたように顔を上げた。……この分だと、嫌な予感は当たっているようだ。

「何か他にも耳に入れたいことがあるのではないかと思って」

水を向けてみると、彼は意を決したように声を低める。客とのトラブルなど本来なら表沙汰にはしたくないような話だろうけれど、この方も腹に据えかねているのだろう。

「……恐れながら。先ほどのリリアン様ですが……店に到着された際、出迎えた給仕に対してあまりに苛烈な振る舞いをなされ……」

「何があったの」

「こちらにヴィンセント様がいらっしゃらないと分かった途端、その……給仕の足をわざと踏み抜いたように見受けられました」  

慕う男性が婚約者である私と食事の場にいる。実際にはヴィンセントは何一つ口にしていないのだけれど……簡単には会えなかったことに対する、鬱憤晴らしのつもりだろうか。

「そして『汚らわしい靴が私のドレスに触れた、どうするつもりだ』と罵倒されたのです。挙げ句、持っていた扇で彼の頬を……」

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