【R18】純白の巫女姫は、憎しみの中で優しいぬくもりに囚われる

夕月

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しるしを重ねて 1

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 ぼんやりと床に座り込んでいると、アディヤが戻ってきた。ファテナの様子を見て、異変を察知したらしくすばやく駆け寄ってくる。
「……また、精霊が来たんですか?」
「もう、来ないわ。大丈夫よ」
 心配そうに眉を顰めるアディヤに、ファテナは首を振ってみせる。彼女がここを離れていたのは、ほんの数分。それなのにとても長い時間が過ぎたような気がする。
「私が死ぬ時まで、来ないと言ったわ」
 もう一度繰り返して、ファテナは安心させるように笑みを浮かべた。まだ心配そうな表情を浮かべるアディヤにお茶を淹れてほしいと頼むと、彼女はすぐにと言って準備を始めた。
 椅子に座ったファテナは、胸元の青い紋様にそっと触れてみた。そこだけ肌の温度すらひんやりとしているように感じて、全身がぞくりと寒くなる。
 これがある限り、ファテナは精霊から逃げられない。死んだあとまで、つきまとわれるとは。
 平気な顔をしていたつもりだったが、アディヤには様子がおかしいことに気づかれていたらしい。いつもより早い時間にザフィルが部屋にやってきたのは、きっと彼女が呼び寄せたからなのだろう。

 アディヤを下がらせると、ザフィルは寝台に腰掛けてファテナを手招きした。
「顔色が良くないな。大丈夫か」
「平気。もう、精霊は来ないから」
「あいつがそう言ったのか」
 体温を確かめるように頬に触れながらザフィルが顔をのぞき込むから、ファテナは黙ってうなずいた。そして、胸元を見せるように服を緩める。
「……愛し子のしるしを、もらったの。私が死んだら、魂を回収に来るって」
「それ、は」
 絶句するザフィルを、ファテナは見上げた。笑ってみせようとしたが、唇が歪んで震える。
「死んだあと、私は精霊として生まれ変わることになるみたい」
「生まれ変わる……?」
 ヤーファルが話した内容を、ファテナはザフィルにも語って聞かせる。彼は、眉を顰めて黙って聞いていた。
「考えようによっては、いいことなのかもしれないわ。死んだあとも精霊として、私は皆を見守っていくことができるんだもの」
「あんたの魂はあんたのものだ。精霊に好きにさせていいものじゃない」
「だけど、死んだあとのことは自分でもどうしようもないもの。生きたまま連れ去られるよりは、きっとましだと思わないと」
 いつまた精霊があらわれるのかと警戒しながら過ごさずにすむのなら、それでいいのかもしれない。
 まだ何か言いたそうなザフィルの言葉を封じるように、ファテナはそっと唇を重ねた。
「それよりも……」
 ほとんど唇の触れ合う距離で囁くと、ファテナの意図を理解したザフィルがお返しのように深く口づけてきた。それだけでファテナの身体は、抱かれる準備を始める。
 熱い舌が口内を動き回り、ファテナの息があがっていく。唇が離れたわずかな瞬間にも、息継ぎすら許さないというように舌が追いかけてきた。
 肩で息をするほどに呼吸を乱したファテナをのぞき込み、ザフィルがそっと頬に触れた。その表情は、切なく苦しそうに見える。
「精霊が嫌になるくらい、俺の匂いをあんたに染み込ませてやる」
「うん。……そうしたら、精霊にも要らないって言われるかな」
「そうだな。たとえ魂でも、あんたは精霊には渡さない。俺のそばにいると、約束しただろう」
 強い口調でそう言ったあと、ザフィルが再び唇を重ねた。
 誰かに必要とされたいと思っていたはずなのに、精霊の手は取りたくないと思ってしまった。きっと、ファテナが求めていたのは、目の前のこの人に必要とされることだったのだろう。
 もっと深い繋がりを求めて、ファテナはザフィルの腕を強く掴んだ。
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