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3 うっかり媚薬化
しおりを挟む「……っ、ん、ミリア、……」
逃げるようにイヴァンがミリアムの肩を押そうとするから、ミリアムはそれに抗うように更に強く唇を押しつけて薬を流し込む。
そういえばキスは初めてだ、と頭のどこかで考えつつ、こんな形でも初めての相手がイヴァンで良かったと思う。
「ミリアム、おまえ何のつもりで……っ」
咳込みながら、イヴァンが身体をよじってミリアムから離れる。荒々しく唇を手の甲で拭ったあと、テーブルの上の水差しを指差した。
「水、くれ」
「えぇっ、そんなに不味かった?ちょっと傷つくんだけど。少しでも飲みやすいようにって、私の貴重な魔力も注いだのよ」
むくれつつも、ミリアムはコップに水を注いで渡す。一気にそれを飲み干したイヴァンの瞳は、先程よりしっかりしていて、どうやら解毒剤が効き始めたことが分かる。
だけど顔はまだ熱をもったように赤いし、吐息も熱い。
そして、ミリアムを見つめる黒い瞳は何だか怒っているようで。口移しで飲ませたことが、そんなに嫌だったのだろうか。その不機嫌そうな表情に、胸の奥がずきりと痛むのを、ミリアムは知らないふりをした。
「おまえさぁ。あの時尻尾踏んづけた魔獣が何か、覚えてる?」
ため息混じりにそう言われて、ミリアムは首をかしげる。
「えっと、確か……。何だっけ?」
「……っ、ガヴァルだよ!」
思わず突っ込んだ、というように大きな声をあげたイヴァンは、ため息をついて額を押さえる。
「あー、そうそう、確かガヴァルだったかも」
うんうんとうなずくミリアムを見て、イヴァンは機嫌の悪そうな様子で立ち上がると、もう一杯水を飲んだ。
ガヴァルは森の中でもあまり目にすることのない、レアな魔獣だ。だけど、基本的に手出しをしなければ攻撃をしてくることはない。今回襲われたのも、ミリアムが尻尾を踏んだことによるものだし、戦闘能力のないミリアムはともかく、騎士のイヴァンにとっては毒針に気をつけてさえいればそれほど気をつける相手ではない。
まぁ今回は、ミリアムを庇ってイヴァンが毒針を受けてしまったのだけど。
「おまえが作った解毒剤、月夜草と薔薇酒を使ったやつだろ。それとガヴァルの毒が混じったらどうなるか……、おまえなら知らないはずはないんだが」
ため息混じりに言われて、ミリアムは首をかしげて考え込む。
「月夜草と薔薇酒と、ガヴァルの毒……。え、ああっ嘘!?」
悲鳴をあげたミリアムを見て、イヴァンは頭を抱える。
「気づいてなかったのかよ……。あの解毒剤とガヴァルの毒を混ぜたら媚薬化することなんか、魔女見習いでもない俺でも知ってる、常識だろ!?」
「ご、ごめん、イヴァン……!」
ミリアムは、おろおろとしながらイヴァンの顔を下からのぞき込む。解毒剤は効いたはずなのに、彼の顔は赤くて、吐く息も熱く荒い。明らかに媚薬の効果が出ているその色気のある表情に、必死に謝りつつも、ミリアムは速くなっていく鼓動に動揺していた。
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