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2 魔女リーザ

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「こんばんは、エレノア姫」
「……魔女、リーザ?」
 窓枠に腰掛けた妖艶な美女は、魔女リーザ。この国を、何十年も(もしかしたら何百年も)前から見守ってくれている彼女は、エレノアの結婚式にも参列してくれる予定で、何度か会ったことがある。
 魔女であるリーザなら、外からやってくることも可能だろうけれど、彼女がエレノアを訪ねてくる理由が分からない。
 戸惑って固まるエレノアを見て、リーザは優雅な仕草で窓枠から降りると、ゆっくりとそばにやってきた。

「あぁもう、可哀想に、そんな悲しそうな顔しちゃって。あなたの悩みはフィニアス王子のこと、でしょう?」
「えっと……」
 思わず口ごもったエレノアだったけれど、魔女に隠し事はできない。リーザは、全て分かっているというようにうなずくと、優しくエレノアの頭を撫でた。
「ごめんなさいね、エレノア姫。全ては私の妹がやらかしたことなの。あの子にはキツく言っておいたから」
「妹……?」
 確か、魔女リーザの妹は、恋多き魔女のロアンヌ。もしかして、彼女がフィニアスに恋をしたのだろうか。それとも、フィニアスがロアンヌを――?
 
 エレノアの表情を見て、リーザは笑って首を振る。
「大丈夫よ。フィニアス王子は、ずっとあなたのことが大好きだわ。ただ、ロアンヌがちょっと悪戯をね……」
「悪戯?」
「彼は隠したいみたいだけど、そういう訳にもいかないから。だから、あなたにこれをあげるわ」
 何やら言いながら、リーザは小さな香水瓶をエレノアに手渡した。手のひらに収まるほどの大きさのそれは、中にキラキラと輝く液体が入っている。

「これを、フィニアス王子に吹きかけてごらんなさい。そうすれば、彼の本当の姿が分かるわ」
「本当の姿……?」
 首をかしげたエレノアを見て、リーザは困ったように笑う。
「ロアンヌがちょっとね、フィニアス王子に少し厄介な悪戯をしたの。でもそれは、あなたの口づけで元に戻るから心配しないで。彼もそのことは分かっているはずなんだけど、あなたに魔法を解いてほしいと言い出せずにいるみたいなのよね。ほら、男の人って好きな子に弱みを見せるのを嫌うでしょう」
 だから魔法を解いてあげて、と言われて、エレノアは黙ってうなずいた。
 魔女の悪戯を受けたフィニアスが、何やら困った状況にあるのは間違いないようだし、エレノアにそれが解けるというのなら、迷うことはない。

 エレノアの表情を見て、リーザは嬉しそうに笑った。
「ふふ、やっぱり魔法を解くのは、最愛の人からの口づけって決まっているのよ」
 ロマンティックな言葉に、エレノアも思わずときめいてしまう。物語の中のように、自分のキスでフィニアスの魔法が解けるなら、それはとても素敵なことのような気がした。
 今、フィニアスは部屋にひとりきりだから、とリーザに促され、エレノアはこっそりと部屋を抜け出した。
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