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ダンスが上達しなくても良くなったニナは、ダンスホールの床に転がっている。
「ニナ、少しは真面目にしないと授業を受けていないと見做されるわ」
「えー、じゃあもうちょっと休んだらー」
そういって隅のほうにころころ転がっていく。エリスは片手に頬を当てて困った表情をしながらも、転がるニナが可愛いので少し癒される。
リーゲルもエリスも本来授業を受ける必要は無い、ニナの相手をする為に授業を受けに来ている。必然的に手持ち無沙汰になる二人。
「エリス様、私と踊っていただけませんか」
特に断る理由も無いし、久々に女性パートを踊るのもいいかもしれないとエリスは承諾する。
音楽に合わせて踊る二人。洗練された気品あふれる動きに他の生徒はダンスを止めてそちらに釘付けに。二人の周りだけ違う空気が満ちているようだった。
「流石、殿下とクライス様ね……」
「クライス様の婚約者が殿下で無いのが残念」
「本当に似合いのお二人だわ」
そんな会話が聞こえてきて、ニナは二人の方へ視線を向ける。リーゲルとエリスは微笑み合って、楽しそうだ。
何とも言えない感情がニナの胸を支配する。二人の傍にある柱を破壊して少し脅かしてやろうとニナが破壊魔法を発動する。
丁度リーゲルが柱を背に向けた時に爆散させるつもりが、リーゲルがターンしてエリスが柱側に。しかし、もう魔法はキャンセルできないタイミング。悪いことは重なるもので、柱はニナの想定以上に派手に爆散した。度重なる壁破壊によりダンスホール全体が何度も揺れていたせいで、柱にひびが入っていたのだ。
柱は砕け、爆発の勢いで瓦礫が飛び散る。一際大きな瓦礫がエリスの頭部を直撃した。倒れるエリスをリーゲルが受け止める。エリスの頭から大量に血が流れ始めていた。
「エリス様!」
「いやあああああ!」
「クライス様が!」
「だれか、医務室から医師を!」
ダンスホールが騒がしくなる中、ニナは目の前で起きたことが処理できなかったのか、受け入れられなかったのか、ただただ固まっていた。
□
エリスは一命を取り留めた。打ちどころは悪かった。しかし、エリス自身が遠のく意識の中で己に回復魔法を掛けて応急処置をしたことが功を奏し後遺症は残らなかった。
ニナは医務室のベッドに横たわるエリスに泣いて謝った。
「ごべんなざいー!」
鼻水を垂らしての号泣だった。
「いいのよ。命は助かったのだから」
涙と鼻水をハンカチで拭ってやりながらエリスが微笑む。
「でも、何故破壊魔法を使ったの?」
「前に花瓶爆散させた時みたいに、あいつ脅かそうと思った……」
あいつとはリーゲルのこと。
「殿下を脅かそうとしたの……。偶然私が柱側に背を向けていて良かったわ。殿下を怪我させていたら大変なことになっていたもの。もう殿下に向けて破壊魔法を使っては駄目よ?」
「うん……」
──ニナは私たちが二人で楽しそうにしていたからヤキモチを焼いただけ。本人も反省しているし、攻めるのは可哀想ね。
「ほら、泣き止んで。いつもの元気なニナに戻って頂戴。ニナの元気が無いと私も元気にならないから……」
「……ん」
そう言うとニナが控えめに笑顔を作った。
これ以降、ニナはエリスに近づく男へ威嚇するのを控えめにしている。
□
二年最後の課外授業は森で小型の魔物を討伐すること。ニナとエリスは勿論同じ班。二人の仲が良いこともあるが、ニナがミョーに遭遇したら確実に突っ込むので回復魔法を使えるエリスと一緒にさせておこうと教師陣は考えた。
案の定、ニナはミョーを見つけて突っ込んでいった。
「ミョーしゅきいいいいい」
「ニナっ!」
エリスの制止も聞かずにミョーに突撃。ミョーは自分の胴体にアタックしてきたニナを勢いよく振り落とし、前足で薙ぎ払う。ザクリと切り裂かれながらニナは木に激突。それを見て、ミョーは満足して去っていった。
「えへへへ……あれ?」
恍惚の表情を浮かべるニナだが、違和感を感じて己の右腕へ目を遣る。あるはずの物が、二の腕から下が無い。
「ニナ!」
エリスが真っ青になって駆け寄る。同じ班の生徒は腕から溢れる血が衝撃で動けない。
「エリス―腕が無いよー」
それは少し離れた所に落ちていた。エリスが引き返して急いで拾う。そして、切り離された腕と傷口を合わせる。
「それどうするのー……あ、後から痛くなってきた。いたたた……」
「大丈夫、ニナ!?」
エリスは深呼吸して呪文を唱える。それはこれまでエリスが使用してきた初級から中級の回復魔法では無い、高等回復魔法の呪文だった。高等回復魔法なら欠損も、部位が残っていれば治癒できる。
「エリス、高等回復魔法は……無理だよ……難しい……」
失敗すればエリスも反動でしばらく昏睡状態になる危険性がある。それでもエリスは呪文を止めない。
光の粒がニナを包む。呪文を唱え終えると、ニナの腕は元に戻っていた。
「おおー、何か重たいけど動かせる。凄い、エリス!」
「良かった、初めてだけど成功した……」
エリスは安堵してへたり込む。
「でも、エリス―。高等回復魔法は失敗すると怖いんだぞー」
「知っているわ。でも失敗はしない気がしたの」
「何で?」
最初の課外授業で回復魔法を使う以前、知識を詰め込んでいても使える気がしなかった。だが、目の前で死にかけているニナを見殺しにはできないと考えると成功した。
その時よりも、ニナはエリスにとって大事な存在となっている。ニナの為なら、どんなことでも出来る気がしたのだ。
「所謂愛の力ね」
「愛かー、エリス誰にでも優しいもんな―」
そんな二人のやり取りを蚊帳の外でみていた同じ班の生徒たちが「いやお前に対する愛だよ」と心の中で突っ込んだ。
□
今日は三年が主役の卒業パーティ。いつも通りニナはお留守番、かと思いきや。
「今日からニナはパーティに参加してもいいのよ」
今回のパーティは卒業式後に行われる。卒業式を終えた三年はその時点で卒業生となる。その為、パーティでニナの存在を知っても、第二王子派閥がニナをどうこうできないのだ。
本当は念のためにニナの参加は認められないはずだったが、エリスとリーゲルが頼めばすんなり許可された。
「やったーーーー! お肉だあああ!」
跳ねて大喜びするニナ。エリスだけでなくリーゲルも微笑んでしまう。
エリスは持っていた箱をニナに手渡す。
「これはニナのドレスよ」
「えっ?」
蓋を開けて中身を確認する。淡い黄緑のドレス。触ってみるととても肌触りが良い。
「これ貸衣装?」
「いいえ、貴女にあげるわ」
「高そうなの貰えない―」
「これは私の幼い頃のドレスをニナのサイズに合わせたものよ。私はもう着れないからニナが来てくれると嬉しいわ」
「そうかー、なら貰うー」
ニナがドレスを両手で広げてキラキラとした瞳で眺める。
リーゲルが小声でエリスに問う。
「エリス様がいくつの時のドレスですか?」
「十一歳の時の物です」
リーゲルがこのドレスを着た十一歳のエリスを想像していると、悪寒を感じた。ニナが冷たい目を向けてきていた。
──心を読まれた……!?恐るべき野生の感というべきか……。
ニナが破壊魔法を使わないかハラハラしたが、ニナはすぐに視線を外してエリスと話し始めた。
エリスを怪我させた件で反省して随分成長したなとリーゲルは感心したのだった。
□
そして、三人は卒業パーティに参加し、あのしょうもない断罪劇に巻き込まれる。
□
ショートショート『断罪されそうになった侯爵令嬢、頭のおかしい友人のおかげで冤罪だと証明されるが二重の意味で周囲から同情される。』に続く。
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そんな会話が聞こえてきて、ニナは二人の方へ視線を向ける。リーゲルとエリスは微笑み合って、楽しそうだ。
何とも言えない感情がニナの胸を支配する。二人の傍にある柱を破壊して少し脅かしてやろうとニナが破壊魔法を発動する。
丁度リーゲルが柱を背に向けた時に爆散させるつもりが、リーゲルがターンしてエリスが柱側に。しかし、もう魔法はキャンセルできないタイミング。悪いことは重なるもので、柱はニナの想定以上に派手に爆散した。度重なる壁破壊によりダンスホール全体が何度も揺れていたせいで、柱にひびが入っていたのだ。
柱は砕け、爆発の勢いで瓦礫が飛び散る。一際大きな瓦礫がエリスの頭部を直撃した。倒れるエリスをリーゲルが受け止める。エリスの頭から大量に血が流れ始めていた。
「エリス様!」
「いやあああああ!」
「クライス様が!」
「だれか、医務室から医師を!」
ダンスホールが騒がしくなる中、ニナは目の前で起きたことが処理できなかったのか、受け入れられなかったのか、ただただ固まっていた。
□
エリスは一命を取り留めた。打ちどころは悪かった。しかし、エリス自身が遠のく意識の中で己に回復魔法を掛けて応急処置をしたことが功を奏し後遺症は残らなかった。
ニナは医務室のベッドに横たわるエリスに泣いて謝った。
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「いいのよ。命は助かったのだから」
涙と鼻水をハンカチで拭ってやりながらエリスが微笑む。
「でも、何故破壊魔法を使ったの?」
「前に花瓶爆散させた時みたいに、あいつ脅かそうと思った……」
あいつとはリーゲルのこと。
「殿下を脅かそうとしたの……。偶然私が柱側に背を向けていて良かったわ。殿下を怪我させていたら大変なことになっていたもの。もう殿下に向けて破壊魔法を使っては駄目よ?」
「うん……」
──ニナは私たちが二人で楽しそうにしていたからヤキモチを焼いただけ。本人も反省しているし、攻めるのは可哀想ね。
「ほら、泣き止んで。いつもの元気なニナに戻って頂戴。ニナの元気が無いと私も元気にならないから……」
「……ん」
そう言うとニナが控えめに笑顔を作った。
これ以降、ニナはエリスに近づく男へ威嚇するのを控えめにしている。
□
二年最後の課外授業は森で小型の魔物を討伐すること。ニナとエリスは勿論同じ班。二人の仲が良いこともあるが、ニナがミョーに遭遇したら確実に突っ込むので回復魔法を使えるエリスと一緒にさせておこうと教師陣は考えた。
案の定、ニナはミョーを見つけて突っ込んでいった。
「ミョーしゅきいいいいい」
「ニナっ!」
エリスの制止も聞かずにミョーに突撃。ミョーは自分の胴体にアタックしてきたニナを勢いよく振り落とし、前足で薙ぎ払う。ザクリと切り裂かれながらニナは木に激突。それを見て、ミョーは満足して去っていった。
「えへへへ……あれ?」
恍惚の表情を浮かべるニナだが、違和感を感じて己の右腕へ目を遣る。あるはずの物が、二の腕から下が無い。
「ニナ!」
エリスが真っ青になって駆け寄る。同じ班の生徒は腕から溢れる血が衝撃で動けない。
「エリス―腕が無いよー」
それは少し離れた所に落ちていた。エリスが引き返して急いで拾う。そして、切り離された腕と傷口を合わせる。
「それどうするのー……あ、後から痛くなってきた。いたたた……」
「大丈夫、ニナ!?」
エリスは深呼吸して呪文を唱える。それはこれまでエリスが使用してきた初級から中級の回復魔法では無い、高等回復魔法の呪文だった。高等回復魔法なら欠損も、部位が残っていれば治癒できる。
「エリス、高等回復魔法は……無理だよ……難しい……」
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「えっ?」
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リーゲルが小声でエリスに問う。
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「十一歳の時の物です」
リーゲルがこのドレスを着た十一歳のエリスを想像していると、悪寒を感じた。ニナが冷たい目を向けてきていた。
──心を読まれた……!?恐るべき野生の感というべきか……。
ニナが破壊魔法を使わないかハラハラしたが、ニナはすぐに視線を外してエリスと話し始めた。
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