元侯爵令嬢は辺境で友人と平穏に暮らしたい。

あの時削ぎ落とした欲

文字の大きさ
18 / 19

17 おしまい

しおりを挟む
「ニナ! 久しぶりね、元気だった?」

 どこか懐かしい声に呼び止められて、銀の髪を揺らして少女が振り向く。

「おー……エリザ、久しぶりだなー」

 金色の髪と瞳を持つエリザと呼ばれた少女はニナに抱き着いた。ほんの少し前までニナの方が背が高かったはずだが、今ではエリザが追い越している。

「エリザ大きくなったなー」
「ふふ、私が王都の学園に行ってから、もう三年よ? ニナにとっては昨日みたいなものかもしれないけど」
「流石に昨日は無いなー、ちょっと前くらいだよ」

 そう言ってニナは少し背伸びしてエリザの頭を撫で始める。

「ホントに大きくなったなー、それに……ますますエリスそっくり」

 ニナの瞳は昔を懐かしむように哀愁帯びたものになった。エリザはニナが遠くに行ってしまいそうに感じて抱きしめる力を強める。

「そんなに私、高祖母様に似てるの?」
「うん……声もそっくりだし、違うのは目の色くらいだなー」
「高祖母様は紫の瞳だったのよね、私も紫の瞳だったら良かったのに」

 エリザはそうだったらニナはもっと喜んだかなと思ったのだ。ニナは高祖母のエリスが何よりも大好きだったと、今でも良く言っている。育ての親と同じくらい育てて貰ったと。

「今の金色もいいと思うぞ。金色も色々あるけど、エリザのはそのままリーゲルの色だ。少し薄くてキラキラしてるの。懐かしいよ」
「そう、それならよかったわ」

 ニナの昔話には高祖父もよく出てきた。ニナはいつもリーゲルを困らせていたと少し申し訳なさそうにして話していたけど、高祖父は後年、ニナのおかげで騒がしくも楽しい人生だったと日記に書いている。今よりも奔放なお子様精神だったニナは高祖父と高祖母の恋人期間中をグッダグダなものにしたらしく、交際は8年もの長期間になり、高祖父は一進一退の関係を根気強く深めてやっとのことで結婚にこぎつけたらしいが、それはそれで良い思い出になったという。

「学園も無事卒業したし、これからはずっとニナと一緒に居られるわ」
「言う事までエリスと一緒だー」
「だって、高祖父様も高祖母様も、その後のお祖父様もお祖母様も、みんなニナをよろしくね、と遺言を残しているもの」
「でも、それ、全部強制じゃないよー。みんな好きに生きたらよいのだ」
「みんなニナが好きだから好きで一緒にいるのよ。勿論、私もね」

 ニナはエリザにとってよき友人であり姉であり妹であり家族であった。誰もが時間の流れにより変わっていく中、殆ど変わらないニナの元に帰ると皆とても安心できるのだ。まるで楽しかった子供の頃に戻れたようで嬉しくもある。だから離れて暮らす家族や親族たちも定期的にニナの元へ帰ってくる。どれだけ離れても帰って来れる場所があるのは良いものだ。

「嬉しいこと言ってくれるな―。まあ、一時期はタナカの方が好きだったみたいだけど」
「うっ、それは初恋だったから……それにすぐ熱は冷めたじゃないの」

 魔族のタナフォス。まだ故郷に帰れない為、時折、十年単位で他国を渡り歩いて暇を潰している。エリザが生まれた頃はまさにその暇つぶし中で、数十年ぶりに辺境に戻ってきたのはエリザが十歳の頃だった。ニナの様子を見に来たタナフォスにエリザは恋をしてしまったのだ。
 タナフォスはニナの事を孫のように思うようになったこともあり、ニナへの接し方からエリザはタナフォスが優しい人物と勘違いしてしまった。
 だが、タナフォスの趣味が複数の人間の女性と交際し、嫉妬心を煽り破傷事件を起こさせることだった為、早々に熱が冷めたのだった。ちなみにタナフォスは自分を刺しに来て無理心中を図る女性がお気に入りだが、それは弱き者が必死になっているから面白いのであって愛情の類では無いらしい。

「タナカは魔族だから人間は恋愛対象じゃないんだぞーって言い聞かそうと思ったら、言い聞かすまでもなくタナフォスがエリザの恋心に気が付く前に行動でエリザの恋を終わらせてくれて助かった。もし気が付いてタナカがエリザで遊んだらニナさんタナカと大喧嘩するとこだった」

 タナフォスの遊びが度を過ぎたらニナは叱っている。タナフォスの方が圧倒的に強いが、付き合いが長いのでタナフォスも叱られたら暫くは遊びを控えるのだ。

「も、もう! この話は終わりにしましょう! それより、お兄様は元気?」

 エリザの兄は次期辺境伯だ。三年振りに帰って来たエリザは真っ先にニナに会いに来た為、まだ家族に会っていない。
 エリザにとっての高祖父母、エリスとリーゲルの唯一の娘は、当時の辺境伯であるネフリードの息子と結婚したのだ。つまり、エリスの子孫はずっと辺境伯家の者である。エリスの娘が己の息子と結婚することをネフリードは喜んだ。
 しかし、リーゲルはネフリードの息子に己の娘を渡したくなかった為、娘が欲しくばリーゲルが修めた学問全てにおいて、リーゲルを越えよとの条件を出したそうだが、卒業後も官吏として働く傍ら幅広く学を深め国内有数の賢人となった彼を超えるなど無理難題であって、リーゲルとネフリードは大変なギスギスバトルを繰り広げた……というのはまた別の話。

「おー、元気だぞ。毎日エリザに会いたいとぼやきつつも、ちゃんと仕事はしてるぞ」
「三年間、手紙送るの禁止にすればシスコンもマシになるかと思ったけど変わらないのね……」
「まー、あいつ典型的な辺境伯家嫡男だからなー。エリスとかエリザみたいなのに夢中になるんだな」
「うちの家系ってそんな性質あったのね……」

 兄の結婚が心配になったエリザだが、心配は他にもある。

「それよりもニナの為に私も良い人を探して、良い子孫を残さなきゃ」
「まーた、エリスみたいなこと言ってー。そんなのは気にしなくていいから、とりあえず旅の疲れを癒してこーい」

 そう言って、エリザの背を押した。エリザも素直に「そうするわ」と言って懐かしの自分の部屋へ向かっていった。去るエリザの背を見送ったニナは、彼女が見えなくなってから、空を見上げる。

 エリスがいなくなってもう何年経つだろう。すっかり慣れたと思ったけど、エリスにそっくりな子孫を前にすると、どうしようもなくエリスに会いたくなる。似てはいてもエリザはエリザだ。エリスではない。でも、嬉しいのは間違いない。エリスが確かに存在していた証だからだ。

 見上げる空の先、お伽噺に言うような天の国があるならば、エリスはそこにいるのだろうか。ニナの寿命はまだまだ長い。ニナはエリスの子孫の傍で彼らを見守り続ける。それが終わった時、またエリスに会えるといいなと小さな願いを胸に抱きながら。



────────────────────────────

面白くならないのでプロットを練っては消しして、最終的に終わらせることだけを考えて、この終わりになりました。お読みいただきありがとうございます。
本編に入れたかったエピソードを番外編として何度か書きたいですが予定は未定です。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

ざまぁに失敗したけど辺境伯に溺愛されています

木漏れ日
恋愛
天才魔術師セディが自分の番である『異界渡りの姫』を召喚したとき、16歳の少女奈緒はそれに巻き込まれて、壁外という身分を持たない人々が住む場所に落ちました。 少女は自分を異世界トリップに巻き込んだ『異界渡り姫』に復讐しようとして失敗。なぜかロビン辺境伯は少女も『異界渡りの姫』だと言って溺愛するのですが…… 陰陽の姫シリーズ『図書館の幽霊って私のことですか?』と連動しています。 どちらからお読み頂いても話は通じます。

婚約破棄されたので田舎で猫と暮らします

たくわん
恋愛
社交界の華と謳われた伯爵令嬢セレスティアは、王太子から「完璧すぎて息が詰まる」と婚約破棄を告げられる。傷心のまま逃げるように向かったのは、亡き祖母が遺した田舎の小さな屋敷だった。 荒れ果てた屋敷、慣れない一人暮らし、そして庭に住みついた五匹の野良猫たち。途方に暮れるセレスティアの隣には、無愛想で人嫌いな青年医師・ノアが暮らしていた。 「この猫に構うな。人間嫌いだから」 冷たく突き放すノアだが、捨て猫を保護し、傷ついた動物を治療する彼の本当の姿を知るうちに、セレスティアの心は少しずつ惹かれていく。 猫の世話を通じて近づく二人。やがて明かされるノアの過去と、王都から届く縁談の催促。「完璧な令嬢」を脱ぎ捨てた先に待つ、本当の自分と本当の恋——。

婚約破棄?結構ですわ。公爵令嬢は今日も優雅に生きております

鍛高譚
恋愛
婚約破棄された直後、階段から転げ落ちて前世の記憶が蘇った公爵令嬢レイラ・フォン・アーデルハイド。 彼女の前世は、ブラック企業で心身をすり減らして働いていたOLだった。――けれど、今は違う! 「復讐? 見返す? そんな面倒くさいこと、やってられませんわ」 「婚約破棄? そんなの大したことじゃありません。むしろ、自由になって最高ですわ!」 貴族の婚姻は家同士の結びつき――つまりビジネス。恋愛感情など二の次なのだから、破談になったところで何のダメージもなし。 それよりも、レイラにはやりたいことがたくさんある。ぶどう園の品種改良、ワインの販路拡大、新商品の開発、そして優雅なティータイム! そう、彼女はただ「貴族令嬢としての特権をフル活用して、人生を楽しむ」ことを決めたのだ。 ところが、彼女の自由気ままな行動が、なぜか周囲をざわつかせていく。 婚約破棄した王太子はなぜか複雑な顔をし、貴族たちは彼女の事業に注目し始める。 そして、彼女が手がけた最高級ワインはプレミア化し、ついには王室から直々に取引の申し出が……!? 「はぁ……復讐しないのに、勝手に“ざまぁ”になってしまいましたわ」 復讐も愛憎劇も不要! ただひたすらに自分の幸せを追求するだけの公爵令嬢が、気づけば最強の貴族になっていた!? 優雅で自由気ままな貴族ライフ、ここに開幕!

冷酷侯爵と政略結婚したら、実家がざまぁされました

鍛高譚
恋愛
「この結婚は、家のため。ただの政略結婚よ」 そう言い聞かせ、愛のない結婚を受け入れた公爵令嬢リゼット。 しかし、挙式後すぐに父が「婚約破棄しろ」と命じてきた!? だが、夫であるアレクシス・フォン・シュヴァルツ侯爵は冷たく言い放つ。 「彼女を渡すつもりはない」 冷酷無慈悲と噂される侯爵が、なぜかリゼットを溺愛し始める!? 毎日甘やかされ、守られ、気づけば逃げ場なし! さらに、父の不正が明るみに出て、公爵家は失墜―― リゼットを道具として利用しようとした者たちに、ざまぁの鉄槌が下される! 政略結婚から始まる、甘々溺愛ラブストーリー! 「愛なんてないはずなのに……どうしてこんなに大切にされるの?」

本物聖女の力は無力でした ――見世物レベルの聖女のおかげで婚約破棄されました――**

鷹 綾
恋愛
魔法が存在しないと信じられていた世界に、 突如として現れた「本物の聖女」。 空中浮遊、瞬間移動、念動力―― 奇跡を披露した平民の少女は、たちまち市民の熱狂を集め、 王太子はその力に目を奪われる。 その結果、 王太子の婚約者だった公爵令嬢アストリアは、 一方的に婚約を破棄されてしまった。 だが、聖女の力は―― ・空中浮遊は、地上三十センチ ・瞬間移動は、秒速一メートル ・念動力は、手で持てる重さまで 派手ではあるが、実用性は乏しい。 聖女の力は、見世物レベル。 少なくとも、誰もがそう判断していた。 それでも人々は喝采し、 権威は少女を縛り、 「聖女」という立場だけが一人歩きしていく。 そんな中、婚約破棄された公爵令嬢アストリアは、 ある違和感に気づき始める。 ――奇跡よりも、奪われているものがあることに。 派手な復讐はない。 怒鳴り返しもしない。 けれど静かに、確実に、 “正しさ”は明らかになっていく。 見世物にされた奇跡と、 尊厳を取り戻す少女たちの物語。 ---

『婚約破棄された公爵令嬢は、王と交わらない道を選ぶ』

ふわふわ
恋愛
婚約者である王太子アルベルトから、一方的に婚約破棄を告げられた公爵令嬢エレノア。 だが彼女は、涙も復讐も選ばなかった。 「婚約は、役目でしたもの。終わったのなら、それで結構ですわ」 王宮を去ったエレノアは、領地に戻り、 干渉しない・依存しない・無理をしない ただそれだけを軸に、静かに領地運営を始める。 一方、王となったアルベルトもまた、 彼女に頼らないことを選び、 「一人の判断に依存しない国」を作るための統治に身を投じていた。 復縁もしない。 恋にすがらない。 それでも、二人の選択は確かに国を安定へと導いていく。 これは、 交わらないことを選んだ二人が、 それぞれの場所で“続けられる世界”を完成させる物語。 派手なざまぁも、甘い溺愛もない。 けれど、静かに積み重なる判断と選択が、 やがて「誰にも壊せない秩序」へと変わっていく――。 婚約破棄から始まる、 大人のための静かなざまぁ恋愛ファンタジー

お金がありすぎて困っておりますの(悪役令嬢ver.) ~悪役令嬢は噂も相場も支配しますわ~

ふわふわ
恋愛
「お金がありすぎて、困っておりますの」 ヴァレンティス侯爵家当主・シグネアは、若くして膨大な資産と権限を手にした“悪役令嬢”。 しかし彼女は、金にも噂にも振り回されない。 ──ならば、支配すればよろしいのですわ。 社交界を飛び交う根拠のない噂。 無能な貴族の見栄と保身。 相場を理解しない者が引き起こす経済混乱。 そして「善意」や「情」に見せかけた、都合のいい救済要求。 シグネアは怒鳴らない。 泣き落としにも応じない。 復讐も、慈善も、選ばない。 彼女がするのはただ一つ。 事実と数字と構造で、価値を測ること。 噂を操り、相場を読まず、裁かず、助けず、 それでもすべてを終わらせる“悪役令嬢”の統治劇。 「助けなかったのではありませんわ」 「助ける必要がなかっただけです」 一撃で終わる教育的指導。 噂も相場も、そして人の価値さえも―― 悪役令嬢は、今日も静かに支配する。

薬師の能力を買われた嫁ぎ先は闇の仕事を請け負う一族でした

あねもね
恋愛
薬師として働くエリーゼ・バリエンホルムは貴族の娘。 しかし両親が亡くなって以降、叔父に家を追い出されていた。エリーゼは自分の生活と弟の学費を稼ぐために頑張っていたが、店の立ち退きを迫られる事態となる。同時期に、好意を寄せていたシメオン・ラウル・アランブール伯爵からプロポーズを申し込まれていたものの、その申し出を受けず、娼館に足を踏み入れることにした。 エリーゼが娼館にいることを知ったシメオンは、エリーゼを大金で身請けして屋敷に連れ帰る。けれどそこは闇の仕事を請け負う一族で、シメオンはエリーゼに毒薬作りを命じた。 薬師としての矜持を踏みにじられ、一度は泣き崩れたエリーゼだったが……。 ――私は私の信念で戦う。決して誰にも屈しない。

処理中です...