ピッチャーになりたい僕とピッチャーをやりたくない君のお話

樹原 光

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1章 そこに立つ者は輝いて見える。

こっちを向いてよ

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「大ちゃんお疲れ!今日は早いんだね!あ、北野くんもお疲れ!」
 あくまで偶然も装い、駅で話をかける。
「お疲れ~、さすがに期末3日前となると少し身体動かすくらいだからね~!でもそれなら、オフにしてくれって感じだよ!まぁ最後の大会近いからそんなこと口が裂けても言えないけどねー。利奈ちゃん達は何してたの?学校残って勉強?」
 普通なら他の生徒は部活はオフで帰ってるはずなので、この時間に私達がいることが不思議なんだろうな。

「そうだよ~、ちょっとわからないとことか質問しに行ってた。」
 というのは表向きで、野球部の練習が終わるタイミングを待っていたのだ。
「あ、電車きた!じゃあ、私達こっちだからまた明日ね!」

 私はこの時間が好きだ、彼は練習時間が長いからめったに一緒の時間になることはない。でも、駅で一緒になりさえすれば自然と一緒のボックス席に座って、何を話すわけじゃないけど2人で帰ることができる。

 この人が野球をやっている姿を初めて見たのは、小6の時だった。小学校のグラウンドで練習試合をやるって聞いて、何となくみんなで見に行ったのだ。

 大ちゃん含めて、6人の同級生は教室でも、体育の授業でも見せたことのない何とも言えない雰囲気だったのを覚えている。

 昔から大ちゃんからは野球の話を散々聞かされていたからルールもわかるし、ポジションだって分かる。
 だから大ちゃんがピッチャーに憧れているのも知っていた。
 そう、大ちゃんは野球の話、ピッチャーの話ならいくらでもしてくれた。というか、この話題以外にはほとんど話してくれない。普段な無口な彼が唯一楽しそうに話してくれること、それが野球だった。
 だからこの頃、自分の気持ちにははっきり気が付いていなかったが、中学に入学する際には自然とソフトボール部にはいって、希望ポジションはピッチャーだった。

 彼の憧れるそのポジションを手に入れることで、私に少しでも目を向けてほしかった。

 入学当初ははっきりとした気持ちではなかったが、2年生になってからは、自分の気持ちに気付いて、そこからは大ちゃんに振り向いてもらえるように頑張っていた。自分で言うのもなんだけど、なかなか不純な動機である。
 
 結局はその後も私達の関係はこれっぽっちも変化しなかった。大ちゃんが私を幼馴染としてしか見ていないこともわかっていたから、もちろん告白なんてものはできなかった。
 関係が壊れるのが嫌で。
 
 そんな状態のまま高校までついてきてしまった。

 中学時代の大ちゃんはやはりそれなりにモテていた。周りの女子の中に私に仲介を頼む子もいた。
 運動も勉強もできる。頼みごとは文句言わずやってくれる。そして、野球以外の時は良く言えば"クール"。これらが揃ってるからそれなりにモテてもおかしくない。最後の要素については悪く言ってしまえば、ただの"無口"で"無愛想"なのだけれどね。
 こんな感じだったから全く恋愛話が上がらなかったわけじゃない。でも、大ちゃんが野球中心だったから、
"私は油断していたんだと思う。"

「この前、ソフト部の投球練習見たんだけどめっちゃフォーム綺麗な子いたんだよ!ユニフォームが周りと違かったから多分1年生なんだけど誰だか分かる?」
 普段見せたことないようなテンションで話しかけられた。
 四月のその頃に投球練習していた1年生なんて、あの子しかいない。
「それ、りっちゃんだよ…」
 それ以来、たびたびりっちゃんの話題になる。
 私が投げてる姿見てもそんなに興味示したことないのに、

「お前さ、いつも一緒にいるけどどんな会話してんの?まったく想像つかないんだけど。」

「あの子練習中とか声出してるの?」

「この前試合だったんでしょ?上野さん投げた?」

 (やめてよ、なんで?私と帰ってるのに、なんであの子の話なんてするの?)

 でもこれを言ってしまったら、この帰りの時間すら、大ちゃんにとっての唯一のなんでも話せる女の子としての役すら消え去ってしまうように思えた。

 本人は気付いてないけど、私はもう気付いてしまった。

 大ちゃんはりっちゃんのことが好きになってる。


 「じゃあまた明日ね!バイバイ」

 今日も私はいつも通りを装っている。

 
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