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本編第一章
いとことご対面です1
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やらなければならないことがたくさんある。
まずは土壌改良実験。そのためには土地と大量の石灰を手に入れなくてはいけない。土地はねだれば用意してくれそうだが(なにせ山ほど余っているし)、石灰は購入しないといけないものなのでどうだろう。石灰、前世では安価だったと思うのだが、こちらではどうなのか。
それからじゃがいもとサツマイモの食用計画。野菜の持つエグみを灰汁で煮ることで中和できるかどうか。
土壌の改良は一朝一夕ではいかないので、まずはじゃがいものアク取り実験からだ。私はキッチンにいたマリサに頼んで竈門の灰をわけてもらった。
「こんなもの、どうするんです?」
「水につけて一晩置いておくの」
ボウルに灰を入れて適当に水を流し込む。最初は興味を持って覗いていたマリサだったが、本当に水を入れるだけなので拍子抜けしたのか、5歳児のお遊びと思ったのか、すぐに仕事に戻っていった。私は採ったばかりのじゃがいもを洗って、こちらも水につけておく。
(それにしても、どのくらい苦いんだろ)
物は試しと、じゃがいもを指でちょっとだけひっかいて実を口に入れてみた。
「ブウゥゥゥゥゥゥゥゥ---っ!!!」
「アンジェリカ、何やってるの!?」
たまたまキッチンに戻ってきた継母が、苦さのあまりじゃがいものかけらを吐き出した私に駆け寄る。
「なにこれ、苦っ!!!」
「あなた何を食べたの……って、これじゃがいもじゃない、当たり前でしょう」
お腹を壊したらどうするの、と心配顔の継母に、5歳児らしく「ごめんなさい」と謝罪する。くそぅ、これでもアラサーなんだが、なんだか恥ずかしいぞ。
それにしても苦い、本当に苦い。前世のじゃがいもも生ではとても食べられたものではないが、それの比ではない。これはアク取り必須だな。
「そうそう、あなたを探していたのよ」
「なんですか、おかあさま」
「スノウとフローラが遊びにきてくれたのよ」
「スノウとフローラ……おかあさまのお兄様の子ども?」
「そう、よく覚えているわね。私の甥と姪……あなたのいとこよ」
そして私は応接室に呼ばれた。
「お兄様、こちらが娘のアンジェリカです。アンジェリカ、私の兄のケビンと、その息子のスノウ、娘のフローラよ」
「やぁ、君がアンジェリカかい? はじめまして。私はケビン。君の伯父になる」
部屋にはすらりとした長身の壮年の男性と、小さな兄妹がいた。
男性は継母の兄というだけあって誠実そうな雰囲気がよく似ている。男の子は今の私より一回り大きい。小さな女の子は父親に抱かれて恥ずかしそうに一瞬顔をその胸に埋めたが、やはり興味があるのだろう、ちらちらとこちらを見遣っている。
「はじめまして、ケビン伯父様。アンジェリカ・コーンウィル・ダスティンと申します」
おぼえたてのカーテシーで挨拶すると伯父は目を丸くした。
「いやいや、すっかり貴族のお嬢さんだね。私はマナーなんてもう忘れてしまったよ」
「アンジェリカはとても物覚えがいいの。ルビィの教えも一度聞けばすぐに憶えてしまうのよ」
それは中身がアラサーなのと、ちょっとでも間違えたときのルビィの形相が最悪だからだ。叱るというより、鬼の首をとったみたいな、ほれみたことかといった鼻で笑う感じが大変いけすかない。それも継母に見えないようにやるからタチが悪い。私の中身が図太いからやっていられるものの、本物の5歳児だったらとっくに根をあげているだろう。
「ほら、スノウ。新しいいとこだよ。フローラもご挨拶できるかい?」
伯父に促され、男の子が一歩前に押し出される。だがその表情は堅い。
私はまず自分から名乗ることにした。傍流とはいえ相手は子爵家。こちらから名乗っておいても悪くないだろう。
「はじめまして。どうぞアンジェリカとお呼びください。スノウ様」
私の発言に、伯父と継母が同時に吹き出した。
「スノウ“様”だなんて!!」
「おいおいおい、どこのおぼっちゃまだ?」
げらげら笑う伯父は貴族というより、ごく普通の庶民のようだった。確か継母が以前説明してくれた話では家具職人として生計をたてているとか。だからこその気さくな振る舞いに、私としても親しみを感じてはいたが、いかんせん、アンジェリカの身分は次期男爵だ。お許しが出るまでは貴族面を貫いておかなくてはいけないだろうと、いろいろ取り繕ったのに笑われている。
まぁいいや、どうせ5歳児。何しても許されるだろう。気を取り直していると、目の前の同じく5歳児が顔を真っ赤にして叫んだ。
「うるさいっ! おまえなんか俺のいとこじゃない! おまえはおばさまの本当の子どもじゃないじゃないか!」
「スノウっ!」
少年の叫びに伯父と継母が鋭く制した。しかし少年はきつい表情のままこちらを睨み付けていた。
まずは土壌改良実験。そのためには土地と大量の石灰を手に入れなくてはいけない。土地はねだれば用意してくれそうだが(なにせ山ほど余っているし)、石灰は購入しないといけないものなのでどうだろう。石灰、前世では安価だったと思うのだが、こちらではどうなのか。
それからじゃがいもとサツマイモの食用計画。野菜の持つエグみを灰汁で煮ることで中和できるかどうか。
土壌の改良は一朝一夕ではいかないので、まずはじゃがいものアク取り実験からだ。私はキッチンにいたマリサに頼んで竈門の灰をわけてもらった。
「こんなもの、どうするんです?」
「水につけて一晩置いておくの」
ボウルに灰を入れて適当に水を流し込む。最初は興味を持って覗いていたマリサだったが、本当に水を入れるだけなので拍子抜けしたのか、5歳児のお遊びと思ったのか、すぐに仕事に戻っていった。私は採ったばかりのじゃがいもを洗って、こちらも水につけておく。
(それにしても、どのくらい苦いんだろ)
物は試しと、じゃがいもを指でちょっとだけひっかいて実を口に入れてみた。
「ブウゥゥゥゥゥゥゥゥ---っ!!!」
「アンジェリカ、何やってるの!?」
たまたまキッチンに戻ってきた継母が、苦さのあまりじゃがいものかけらを吐き出した私に駆け寄る。
「なにこれ、苦っ!!!」
「あなた何を食べたの……って、これじゃがいもじゃない、当たり前でしょう」
お腹を壊したらどうするの、と心配顔の継母に、5歳児らしく「ごめんなさい」と謝罪する。くそぅ、これでもアラサーなんだが、なんだか恥ずかしいぞ。
それにしても苦い、本当に苦い。前世のじゃがいもも生ではとても食べられたものではないが、それの比ではない。これはアク取り必須だな。
「そうそう、あなたを探していたのよ」
「なんですか、おかあさま」
「スノウとフローラが遊びにきてくれたのよ」
「スノウとフローラ……おかあさまのお兄様の子ども?」
「そう、よく覚えているわね。私の甥と姪……あなたのいとこよ」
そして私は応接室に呼ばれた。
「お兄様、こちらが娘のアンジェリカです。アンジェリカ、私の兄のケビンと、その息子のスノウ、娘のフローラよ」
「やぁ、君がアンジェリカかい? はじめまして。私はケビン。君の伯父になる」
部屋にはすらりとした長身の壮年の男性と、小さな兄妹がいた。
男性は継母の兄というだけあって誠実そうな雰囲気がよく似ている。男の子は今の私より一回り大きい。小さな女の子は父親に抱かれて恥ずかしそうに一瞬顔をその胸に埋めたが、やはり興味があるのだろう、ちらちらとこちらを見遣っている。
「はじめまして、ケビン伯父様。アンジェリカ・コーンウィル・ダスティンと申します」
おぼえたてのカーテシーで挨拶すると伯父は目を丸くした。
「いやいや、すっかり貴族のお嬢さんだね。私はマナーなんてもう忘れてしまったよ」
「アンジェリカはとても物覚えがいいの。ルビィの教えも一度聞けばすぐに憶えてしまうのよ」
それは中身がアラサーなのと、ちょっとでも間違えたときのルビィの形相が最悪だからだ。叱るというより、鬼の首をとったみたいな、ほれみたことかといった鼻で笑う感じが大変いけすかない。それも継母に見えないようにやるからタチが悪い。私の中身が図太いからやっていられるものの、本物の5歳児だったらとっくに根をあげているだろう。
「ほら、スノウ。新しいいとこだよ。フローラもご挨拶できるかい?」
伯父に促され、男の子が一歩前に押し出される。だがその表情は堅い。
私はまず自分から名乗ることにした。傍流とはいえ相手は子爵家。こちらから名乗っておいても悪くないだろう。
「はじめまして。どうぞアンジェリカとお呼びください。スノウ様」
私の発言に、伯父と継母が同時に吹き出した。
「スノウ“様”だなんて!!」
「おいおいおい、どこのおぼっちゃまだ?」
げらげら笑う伯父は貴族というより、ごく普通の庶民のようだった。確か継母が以前説明してくれた話では家具職人として生計をたてているとか。だからこその気さくな振る舞いに、私としても親しみを感じてはいたが、いかんせん、アンジェリカの身分は次期男爵だ。お許しが出るまでは貴族面を貫いておかなくてはいけないだろうと、いろいろ取り繕ったのに笑われている。
まぁいいや、どうせ5歳児。何しても許されるだろう。気を取り直していると、目の前の同じく5歳児が顔を真っ赤にして叫んだ。
「うるさいっ! おまえなんか俺のいとこじゃない! おまえはおばさまの本当の子どもじゃないじゃないか!」
「スノウっ!」
少年の叫びに伯父と継母が鋭く制した。しかし少年はきつい表情のままこちらを睨み付けていた。
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