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本編第一章

継母の実家にお邪魔します1

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 カイルハート殿下へのお土産を選んだ後。

 両親の買い物が終わり、お昼の時間に差し掛かったこともあり、私たちはハムレット商会を後にした。ポテト料理に興味津々のハムレット家の双子たちは「もっと話をしたい!」とものすごい勢いで詰め寄ってきたが、後日またお邪魔することを約束して一旦お別れすることとなった。私も彼らの話を聞いてみたかったし、王立騎士団のバレーリ団長やロイド副団長へのポテト料理のプレゼンについてや、ルシアンのポテトお料理教室の今後の展開について相談したいと思っていた。それにキャロルのお店、ハムレット・マニアには面白い品がたくさんあるから、ぜひまた立ち寄りたい。年が明けてから時間を見つけてまた訪ねようと思っている。

 そうして日が明けた、王宮での社交シーズン開幕パーティの前日。

 私は両親とともに、継母の実家にご挨拶に伺うことになった。

 復習すると、継母の家はダスティン領のすぐ隣に領地を構えるウォーレス子爵家の家系だが、子爵家は継母の伯父が継ぎ、現在は継母の従姉妹にあたる女性が継いでいる。

 そして継母の父は王立学院卒業後、王立芸術院に進み、ピアノを専攻した人だ。医者の家系ながらひとり芸術畑を歩んだ彼は、芸術院卒業後、王都で伴奏などを請け負う商業ピアニストとして活躍する傍ら、古巣の芸術院でピアノ講師も務めた。教授となってからは学院の仕事をメインに、後進の育成に従事したそうだ。

 そんな継母の父、グスト・ウォーレス元教授は、現在も芸術院内の職員向けの一軒家で暮らしている。

 10年近く前に定年退職したそうだが、長年の芸術院への功績が認められ、職を辞した今も芸術院の敷地内で暮らすことが許可されている。王立学院に入学した13歳の頃から王都で暮らし、故郷のウォーレス領に戻ることも稀になった教授にとっては、退職後にかつての領土に戻るより、親しみも馴染みもある王都での生活の方が性に合っていたのだろう。

「おかげさまで、私も住み慣れた実家にこうして年に一度戻ることができるのよ」

 継母はその借家で育ち、王立学院に在籍していた期間を除いて、父と結婚するまでをそこで過ごした。思い入れはあるはずだ。仕事が忙しくて滅多に王都に戻ってこられないケビン伯父の分も、継母が年に一度、社交シーズンに合わせて実家に戻ってきてくれることを、教授夫妻は楽しみにしているらしい。毎年、王都にくると両親揃って挨拶に出向くのが恒例となっているそうだ。

 そんな両親に混ざって、今年は私もお邪魔することになったわけなのだが……ただ、私の胸には一抹の不安があった。継母の両親にあたる教授夫妻は、当たり前だが私とは血の繋がりがない。加えて私は父の愛人の娘、すなわち彼らからすれば実の娘と敵対していた女性の子どもになる。さらに私はダスティン家の跡取りだ。彼らの血を引く者でなく、彼らからすれば赤の他人が娘の婚家の跡を継ぐわけで。そんな微妙な関係性の子どもを、果たして歓待してくれるものか。

 さらに懸念事項もある。教授夫妻はルビィの元雇い主だ。継母やケビン伯父の家庭教師としてこの家に迎え入れられ、絶大な信頼を置かれ、家庭教師が必要なくなった後も教授の秘書兼教授夫人のよき話し相手として雇われ続けたルビィ。その彼女が罪を犯してウォーレス領の精神病院に収容されていることは、継母が手紙で知らせたから、彼らも知っている。その根幹には私の存在があったことも、当然知れていることだろう。

 そんな複雑な事情の子どもに対して、彼らがどういう態度をとるのか。両親の態度はいつもと変わらない。教授宅にお邪魔するからといって、かしこまったり私に何か言いつけたりもしない。継母に至っては「あなたのおじいさまとおばあさまになるのよ」と実に嬉しそうだ。2人の態度から察するに、厳しい方々ではないのだと思う。それでも、ルビィのように、両親にバレないように何かをしてくる輩も世の中にはいるわけで……。私を連れて行くことを了承してくれているとはいえ、どういった反応があるかは、会ってみるまでわからない。


 今日も今日とてシンシア様に貸していただいた馬車に揺られながら、たとえ陰で何かを言われたとしても、私は両親を悲しませないよう振る舞おう、そう強く手を握りしめる。私の指先に触れたのはハート型のペンダントトップ。スノウが手作りしてくれた、お披露目パーティ記念の品だ。赤い革紐はフローラが選んでくれた。

 彼らは正真正銘、教授夫妻の血の繋がった孫。そんな彼らの力を借りたくて、今日はこれを身につけてきた(ちなみにお出かけ前にはパトリシア様とメイド軍と、今日は家にいたナタリー&エメリアお姉さまたちにやっぱりもみくちゃにされた)。

(どうか今日の対面が穏便に終わりますように……)

 愛されたい、大事にされたいとまでは思わない。状況が状況だから。でも、せめて両親が、とりわけ継母が悲しむような事態にはなりませんようにーーーそればかりを願っていた。



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