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本編第一章
新しい商売のアイデア大募集です5
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「それはまた……奇抜なアイデアだな」
ミシェルが感心したように呟けば、キャロルも相槌を打った。
「通常は比率性で、“売り上げの◯割を納める”っていうのが常套ですけれど……」
「大方の店はそうかもな。税金も同じように比率性だし。だけどアンジェリカはそこまで売り上げに拘らないって言ったから、それでもいいかって思ったんだ」
確かに、頑張れば自分たちの売り上げが増えるというのは店員にとってもありがたい話だろう。上納金さえ納めてしまえば、あとは自分たちの自由にできる。それでルシアンが少しでも楽になるなら嬉しいし、うちはうちで定期収入ができるから問題ない話だ。
「うん、面白いアイデアだと思うわ。売り上げの分配に関してはライトの意見も参考にして検討してみるわ」
「ライト、売り上げの件はそれでいいとしても、アンジェリカが言っていた、第2第3のお店を増やしたいっていうのはどうするんだい?」
私も気になっていたことをミシェルが代わりに聞いてくれた。ライトはこちらも思うところがあるようで、碧の瞳をきらりと閃かせた。
「つまり、“ポテト料理の店舗経営”を売りに出せばいいんだよ。“ダスティン家と契約すればポテト料理を出す食堂を運営できる、一定額のお金さえ納めれば残りの売り上げは自分たちの懐に入る”という条件でな。普通の食堂なら誰も振り向かないだろうが、今現在ほとんど知られていないポテト料理なら十分可能だ。もちろん、まったく知られていない状態だと苦戦するから、ある程度は知名度を上げてからでないと難しいかもしれないが」
「そこは宣伝次第ですわね。“今王都で流行の~”というような謳い文句があれば、可能性はあるわ」
キャロルも深く肯く。ライトネルは「だろう?」と顎をしゃくって話を続けた。
「それにこの方法は、すでに食堂を運営している人たちに売れるんだ。食堂をやっているけれど売り上げがいまいちとか、近隣のライバル店と差をつけたいとか、そんな経営者を取り込めば初期投資もかけなくてすむ」
ライトネルの説明を聞きながら、私は口をぽかんと開けてしまった。この運営方法はものすごく覚えがある。そう前世で言うところのーーー。
「フランチャイズ方式……」
思わずこぼれ出た言葉に、全員がはてなマークを浮かべた。それはこの世界では馴染みのない言葉だったから無理もない。だがこれは前世では特定の分野で一般的な経営方法だった。たとえばコンビニ、有名ラーメン店の暖簾分け制度、などなど。
こぼれ出た言葉をごまかすように、私は思いついたことをぽろぽろと口にした。
「たとえば、加盟してくれたお店には上納金のお礼に新しいメニューを提供するとか……季節ごとの新作とか、地域の特色を生かした郷土料理とか……」
春には季節野菜を取り入れた一品、夏には涼が取れるような冷製のメニュー、実りの秋には果物を用いたもの、冬は寒い地方の郷土料理などなど。新しいレシピを開発して、それを加盟店に提供すれば、売り上げに大きく貢献することになるだろう。店側としても旨味を感じるし、仮にもしポテト料理を供する店がほかにできたとしても、差別化をはかれる。
「お、それ面白いんじゃないか!? 行くたびに新しいメニューがあるとなれば既存の客は喜ぶし、新規の顧客開拓にもなる」
「アンジェリカ様、素敵です! 新メニューが欲しければきちんと上納金を納めるでしょうから、踏み倒しの心配もなくなりますわ」
双子の感想は的確で、私もそうねと頷いた。新メニューはどんな世界でも新しい切り札になる。それにダスティン家から何かを仕入れて店を運営するわけではないから、確かに上納金が踏み倒される恐れもあった。だが、フランチャイズ方式で統括すれば、その可能性も防げる。
何より一番のネックだった我が家の資金不足と人員不足がこれで見事に解決する。どちらもうちで用意する必要がないのだ。
私の目の前で双子たちは、自分たちの新しい商売について相談するような熱意で、新しいポテト料理のお店について議論を続けていた。私は放心した状態で彼らを見つめていた。特に赤毛の綺麗な男の子のことを。
キャロルの開いたお店は、彼女の商才とセンスが光るとても素晴らしいものだ。一方でライトネルの才能はまた違う。彼はすでにこの世界にもある食堂や商売の概念をベースに、そのアイデアでもって新しい方法を思いついた。それがどれだけ理にかなったものか、前世を知る私にはわかる。
(この子、やっぱりすごい……)
前世の知識がある私ですら思いつかなかったことに、8歳の男の子が予備知識もなしにあっという間にたどり着いた。その柔軟さはどれほどの才能なのか。
不意にハムレット・マニアの副店長、ショーンさんが言った言葉を思い出した。彼はライトネルのことをこう評したのだ。“もっと大きなことが為せる器なのかもしれません”、と。
今ならその言葉の意味がよくわかる。熱い議論を繰り広げる赤毛の男の子のことを見つめながら、私は胸が熱くなるのを感じた。
ミシェルが感心したように呟けば、キャロルも相槌を打った。
「通常は比率性で、“売り上げの◯割を納める”っていうのが常套ですけれど……」
「大方の店はそうかもな。税金も同じように比率性だし。だけどアンジェリカはそこまで売り上げに拘らないって言ったから、それでもいいかって思ったんだ」
確かに、頑張れば自分たちの売り上げが増えるというのは店員にとってもありがたい話だろう。上納金さえ納めてしまえば、あとは自分たちの自由にできる。それでルシアンが少しでも楽になるなら嬉しいし、うちはうちで定期収入ができるから問題ない話だ。
「うん、面白いアイデアだと思うわ。売り上げの分配に関してはライトの意見も参考にして検討してみるわ」
「ライト、売り上げの件はそれでいいとしても、アンジェリカが言っていた、第2第3のお店を増やしたいっていうのはどうするんだい?」
私も気になっていたことをミシェルが代わりに聞いてくれた。ライトはこちらも思うところがあるようで、碧の瞳をきらりと閃かせた。
「つまり、“ポテト料理の店舗経営”を売りに出せばいいんだよ。“ダスティン家と契約すればポテト料理を出す食堂を運営できる、一定額のお金さえ納めれば残りの売り上げは自分たちの懐に入る”という条件でな。普通の食堂なら誰も振り向かないだろうが、今現在ほとんど知られていないポテト料理なら十分可能だ。もちろん、まったく知られていない状態だと苦戦するから、ある程度は知名度を上げてからでないと難しいかもしれないが」
「そこは宣伝次第ですわね。“今王都で流行の~”というような謳い文句があれば、可能性はあるわ」
キャロルも深く肯く。ライトネルは「だろう?」と顎をしゃくって話を続けた。
「それにこの方法は、すでに食堂を運営している人たちに売れるんだ。食堂をやっているけれど売り上げがいまいちとか、近隣のライバル店と差をつけたいとか、そんな経営者を取り込めば初期投資もかけなくてすむ」
ライトネルの説明を聞きながら、私は口をぽかんと開けてしまった。この運営方法はものすごく覚えがある。そう前世で言うところのーーー。
「フランチャイズ方式……」
思わずこぼれ出た言葉に、全員がはてなマークを浮かべた。それはこの世界では馴染みのない言葉だったから無理もない。だがこれは前世では特定の分野で一般的な経営方法だった。たとえばコンビニ、有名ラーメン店の暖簾分け制度、などなど。
こぼれ出た言葉をごまかすように、私は思いついたことをぽろぽろと口にした。
「たとえば、加盟してくれたお店には上納金のお礼に新しいメニューを提供するとか……季節ごとの新作とか、地域の特色を生かした郷土料理とか……」
春には季節野菜を取り入れた一品、夏には涼が取れるような冷製のメニュー、実りの秋には果物を用いたもの、冬は寒い地方の郷土料理などなど。新しいレシピを開発して、それを加盟店に提供すれば、売り上げに大きく貢献することになるだろう。店側としても旨味を感じるし、仮にもしポテト料理を供する店がほかにできたとしても、差別化をはかれる。
「お、それ面白いんじゃないか!? 行くたびに新しいメニューがあるとなれば既存の客は喜ぶし、新規の顧客開拓にもなる」
「アンジェリカ様、素敵です! 新メニューが欲しければきちんと上納金を納めるでしょうから、踏み倒しの心配もなくなりますわ」
双子の感想は的確で、私もそうねと頷いた。新メニューはどんな世界でも新しい切り札になる。それにダスティン家から何かを仕入れて店を運営するわけではないから、確かに上納金が踏み倒される恐れもあった。だが、フランチャイズ方式で統括すれば、その可能性も防げる。
何より一番のネックだった我が家の資金不足と人員不足がこれで見事に解決する。どちらもうちで用意する必要がないのだ。
私の目の前で双子たちは、自分たちの新しい商売について相談するような熱意で、新しいポテト料理のお店について議論を続けていた。私は放心した状態で彼らを見つめていた。特に赤毛の綺麗な男の子のことを。
キャロルの開いたお店は、彼女の商才とセンスが光るとても素晴らしいものだ。一方でライトネルの才能はまた違う。彼はすでにこの世界にもある食堂や商売の概念をベースに、そのアイデアでもって新しい方法を思いついた。それがどれだけ理にかなったものか、前世を知る私にはわかる。
(この子、やっぱりすごい……)
前世の知識がある私ですら思いつかなかったことに、8歳の男の子が予備知識もなしにあっという間にたどり着いた。その柔軟さはどれほどの才能なのか。
不意にハムレット・マニアの副店長、ショーンさんが言った言葉を思い出した。彼はライトネルのことをこう評したのだ。“もっと大きなことが為せる器なのかもしれません”、と。
今ならその言葉の意味がよくわかる。熱い議論を繰り広げる赤毛の男の子のことを見つめながら、私は胸が熱くなるのを感じた。
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