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麗しの女学生はいずこに
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その彼女探しの初日が今日、五月十五日なのである。
慎吾は、さっそく一限目の終了後に行動を開始した。まず、真っ先に向かったのは、理数科クラスの21Rだった。21Rの次は22R、その次は23R……と成績上位クラスから順に探すつもりでいた。
理数科クラスは、校内でも一目置かれる存在だった。入試での偏差値が普通科クラスより五ポイントも高かったこともあるが、彼らが普通クラスに入れば五十名全員が百位以内の上位を独占すると思われたからだ。
実際、各中学校で成績トップクラスだった者の多くが理数科クラスに進学していた。将来、医者を志している者が多かったせいもあってか、女子生徒は数えるほどしかいなかった。
慎吾は、あれほど美しい後姿であれば、きっと学力も優秀に違いないと、これもまた勝手に信じ込んでいた。成績上位クラスから探索を始める理由である。
他にもう一つ理由があった。
「なにか用か、慎吾」
教室の中を窺っていた慎吾に声を掛ける者がいた。
坂崎遼平である。中学当時から彼の成績は抜群で、三年間トップの座を他の者に譲ることは一度もなかった。慎吾の耳には、彼の入学試験の成績は理数科クラスでも三番だったという噂も入ってきており、気は早いが、三年次にこの位置にいれば東京大学に合格することは確実だった。
入試試験の成績云々の真偽はともかく、先に実施された実力テストで、彼が五番だったことは事実であり、普通クラスで二百番台の慎吾とは大きな開きがあった。
彼は学業だけでなく、中学三年生の時には、テニスの県大会で優勝した実績も持っていた。
まさしく、湘北高校のモットーである『文武両道』を地で行く模範学生なのだ。
「いやあ、ちょっと。お前に教えて欲しいことがあって……」
慎吾は、前もって用意していた数学の問題を彼に訊ねた。慎吾は、彼の説明を聞いている振りをしながら、横目で彼女を探した。立っていれば背の高い女性を、座っていれば髪の長い女性を探したが、それらしい女性は見当たらなかった。
二限目の休憩時間は22Rを探索した。
さて、ここからは難題である。知っている友人が一人もいないのだ。正確には三人いるが、いずれも女子生徒であり、気軽に話し掛けることなどできはしなかった。
突然の闖入者に皆が訝しげな眼差しを向けたが、慎吾は微塵も怯まなかった。彼女への恋心は、それほど慎吾の面の皮を厚くしていた。
だが、22Rにも彼女はいなかった。次の休憩時間は23R、その次は24Rと探しに行ったが、結果は同じだった。
――彼女は一年生ではないのかもしれない。
途中から慎吾の脳裏にはその思いが巡っていた。
バスの窓越しに見た彼女の後姿には、大人びた雰囲気というか一種の気品が漂っていた。それは中学校を卒業したばかりの、つまりまだ小便臭さが残る女子生徒が纏えるようなオーラではなかった。
もちろん、一年生の女子生徒を漏れなく探したという自信はないが、何となく同級生ではないような気がしてならなかった。
慎吾の予感は的中した。全クラスを探索したが、一年生棟で彼女を見つけ出すことはできなかったのである。
仮に彼女が上級生だとすると、ますます厄介なことになった。
年上の女性という、慎吾自身の戸惑いもあるが、それより何より湘北高校は各学年で教室のある棟そのものが別れているという現実があった。しかも男子生徒は襟に、女子生徒は胸に学年を示すバッチを付けていたため、下級生が上級生の棟をうろついていれば、すぐにわかってしまうのだ。
同級生ならば、好奇なあるいは怪訝な目を無視することもできるが、上級生に対してそのような態度は取れない。如何に名門の進学校といえども、それなりに不良グループもあるのだ。もし、彼らに絡まれたらどのような災難に合うとも限らない。
慎吾は、恋心と想像できる危難とを天秤に掛け、悩んだ。
慎吾は他に無難な方法はないかと思案したが、良いアイデアは浮かばなかった。挫けそうになる慎吾だったが、その度に彼女の後姿、とくにあの艶かしい脹脛を目に浮かべ自身を鼓舞した。
慎吾の心を後押しする一つの事実もあった。
試練となるのは二年生棟だけで、三年生棟は対象から外しても差し支えなかったからだ。
湘北高校は、大変な進学校だったため、三年生はそれまでの一限目から七限目の授業に加え、早出の0限授業と八限授業、そして放課後学習と称して、自主学習の九限目まで追加された。つまり彼女が三年生ならば、早出授業受けなければならないため、あの時間に登校するはずがないのだ。
もう少し湘北高校の実情を述べると、三年間の教科書は三年次の一学期で終了し、二学期からは徹底して、過去の入試問題の傾向に沿った問題集を解くことになった。
夏休みもほとんど有名無実で、一年次と二年次は半分に削られ、三年次ともなると、お盆を挟んだ一週間以外は、全てが補習授業に充てられていた。
ちなみに、修学旅行は実施されなかったが、その分体育祭や文化祭は盛大に行われていた。
慎吾は、さっそく一限目の終了後に行動を開始した。まず、真っ先に向かったのは、理数科クラスの21Rだった。21Rの次は22R、その次は23R……と成績上位クラスから順に探すつもりでいた。
理数科クラスは、校内でも一目置かれる存在だった。入試での偏差値が普通科クラスより五ポイントも高かったこともあるが、彼らが普通クラスに入れば五十名全員が百位以内の上位を独占すると思われたからだ。
実際、各中学校で成績トップクラスだった者の多くが理数科クラスに進学していた。将来、医者を志している者が多かったせいもあってか、女子生徒は数えるほどしかいなかった。
慎吾は、あれほど美しい後姿であれば、きっと学力も優秀に違いないと、これもまた勝手に信じ込んでいた。成績上位クラスから探索を始める理由である。
他にもう一つ理由があった。
「なにか用か、慎吾」
教室の中を窺っていた慎吾に声を掛ける者がいた。
坂崎遼平である。中学当時から彼の成績は抜群で、三年間トップの座を他の者に譲ることは一度もなかった。慎吾の耳には、彼の入学試験の成績は理数科クラスでも三番だったという噂も入ってきており、気は早いが、三年次にこの位置にいれば東京大学に合格することは確実だった。
入試試験の成績云々の真偽はともかく、先に実施された実力テストで、彼が五番だったことは事実であり、普通クラスで二百番台の慎吾とは大きな開きがあった。
彼は学業だけでなく、中学三年生の時には、テニスの県大会で優勝した実績も持っていた。
まさしく、湘北高校のモットーである『文武両道』を地で行く模範学生なのだ。
「いやあ、ちょっと。お前に教えて欲しいことがあって……」
慎吾は、前もって用意していた数学の問題を彼に訊ねた。慎吾は、彼の説明を聞いている振りをしながら、横目で彼女を探した。立っていれば背の高い女性を、座っていれば髪の長い女性を探したが、それらしい女性は見当たらなかった。
二限目の休憩時間は22Rを探索した。
さて、ここからは難題である。知っている友人が一人もいないのだ。正確には三人いるが、いずれも女子生徒であり、気軽に話し掛けることなどできはしなかった。
突然の闖入者に皆が訝しげな眼差しを向けたが、慎吾は微塵も怯まなかった。彼女への恋心は、それほど慎吾の面の皮を厚くしていた。
だが、22Rにも彼女はいなかった。次の休憩時間は23R、その次は24Rと探しに行ったが、結果は同じだった。
――彼女は一年生ではないのかもしれない。
途中から慎吾の脳裏にはその思いが巡っていた。
バスの窓越しに見た彼女の後姿には、大人びた雰囲気というか一種の気品が漂っていた。それは中学校を卒業したばかりの、つまりまだ小便臭さが残る女子生徒が纏えるようなオーラではなかった。
もちろん、一年生の女子生徒を漏れなく探したという自信はないが、何となく同級生ではないような気がしてならなかった。
慎吾の予感は的中した。全クラスを探索したが、一年生棟で彼女を見つけ出すことはできなかったのである。
仮に彼女が上級生だとすると、ますます厄介なことになった。
年上の女性という、慎吾自身の戸惑いもあるが、それより何より湘北高校は各学年で教室のある棟そのものが別れているという現実があった。しかも男子生徒は襟に、女子生徒は胸に学年を示すバッチを付けていたため、下級生が上級生の棟をうろついていれば、すぐにわかってしまうのだ。
同級生ならば、好奇なあるいは怪訝な目を無視することもできるが、上級生に対してそのような態度は取れない。如何に名門の進学校といえども、それなりに不良グループもあるのだ。もし、彼らに絡まれたらどのような災難に合うとも限らない。
慎吾は、恋心と想像できる危難とを天秤に掛け、悩んだ。
慎吾は他に無難な方法はないかと思案したが、良いアイデアは浮かばなかった。挫けそうになる慎吾だったが、その度に彼女の後姿、とくにあの艶かしい脹脛を目に浮かべ自身を鼓舞した。
慎吾の心を後押しする一つの事実もあった。
試練となるのは二年生棟だけで、三年生棟は対象から外しても差し支えなかったからだ。
湘北高校は、大変な進学校だったため、三年生はそれまでの一限目から七限目の授業に加え、早出の0限授業と八限授業、そして放課後学習と称して、自主学習の九限目まで追加された。つまり彼女が三年生ならば、早出授業受けなければならないため、あの時間に登校するはずがないのだ。
もう少し湘北高校の実情を述べると、三年間の教科書は三年次の一学期で終了し、二学期からは徹底して、過去の入試問題の傾向に沿った問題集を解くことになった。
夏休みもほとんど有名無実で、一年次と二年次は半分に削られ、三年次ともなると、お盆を挟んだ一週間以外は、全てが補習授業に充てられていた。
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