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27話 酔剣
しおりを挟むいくら顔を見ていなかったとはいえ、なんで今まで思い出せなかったんだろう。
カリンは昨日酒場でナンパされていた子じゃないか。
カリンの酔っ払いながら酒場で暴れる姿と、今回剣を酔いながら振り回す姿を見て完全に一致した。
そりゃあ『悪餓鬼』の連中もカリンの事を執拗に追いかけるよ。
自分達をボコボコにした張本人なんだもん。
まさか今度は10人がかりで攻めて返り討ちに合うとは思ってなかっただろうけどね。
「ふぅー……ノロワ、エマ、お待たへぇー」
カリンは千鳥足で僕たちの元に戻ってくる。
実際の戦闘時間はものの数分だったし、僕もエマもカリンの戦いぶりに呆然としてただけだから待っていたって実感はそんなにない。
むしろカリンの変貌っぷりにさっきから驚きっぱなしだ。
「カリン、大丈夫だった?」
「あっはっはっ、よゆーよゆー」
「驚いたわよ。まさかカリンがあんなに強かっただなんて。ゴブリン戦の時は手を抜いてたの?」
「あー、それはねー……」
途端にカリンの動きがピタッと止まる。
どうしたんだろう?
……まさかダメージを負っていたのか!?
戦闘中、攻撃を受けてはいなかったとは思うけど、もしかしたら『悪餓鬼』の中に、僕の『呪い』のように相手に気づかれずに遠距離攻撃を使える奴がいたのかもしれない。
「……っ!? カリン、大丈夫!?」
僕は咄嗟にカリンの元へ駆け出す。
僕もエマも回復魔法は使えない。
持ってきたポーションで回復できる代物ならいいんだけど……。
「ごめ……吐く……」
「……え?」
「おっ……えええええぇぇぇぇぇ」
カリンの口から、まるで噴水みたいに嘔吐物が曲線を描いて放たれる。
エマが以前吐いた時も思ったけど、美少女が吐いても決していい匂いなんてしないし、どんな美少女でも体の中身は同じ人間なんだなーって実感しました。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「ううううう……申し訳ない……」
「そんなに謝らなくてもいいから。ほら、水飲みなよ」
「……すまない、助かる」
カリンは盛大に嘔吐した後、その場に酔い潰れてしまった。
仕方ないので、エマと一緒にカリンの嘔吐物の処理と介抱、そして『悪餓鬼』達の応急処置と拘束を終えると、カリンは目を覚まし、その後僕たちに深々と謝罪をする。
嘔吐後に少し寝た事でアルコールが多少は抜けたのか、カリンの呂律や話し方は元に戻ったようだけど、まだ僅かに酒臭さは残っている。
……どれだけ強い酒を飲んだんだよ……。
「んぐっ……んぐっ……」
僕が水の入ったボトルを渡すと、凄い勢いでカリンが飲み干す。
「……ふう、ありがとう。大分落ち着いてきたよ」
「本当に大丈夫? 酔いに効くポーションは持ってきてないから、無理だけはしないでね」
「ああ、この状態は慣れているから心配しないでくれ」
……二日酔い状態は慣れてるんですね……。
まあ、まだ気持ち悪さは残っているだろうけど、普通に会話できるまで回復してくれてよかった。
「それでさっきまでのあの剣技はなんだったのよ? それに『悪餓鬼』……だっけ? なんでそんなパーティーにカリンが狙われるの?」
エマが矢継ぎ早にカリンに質問する。
『悪餓鬼』に狙われた理由は僕は知ってるけど、エマは分からないもんね。
それに、あの剣技については僕も気になる。
あんなに泥酔した状態であんなに剣を振るえるものなんだろうか?
「アイツらは……多分昨日揉めた連中だ。酔った私にのされたから、数を揃えて報復に来たんだと思う」
昨日のカリンの暴れっぷりは凄かったからなぁ……。
僕は勿論、店内にいたほとんどの人を巻き込んでの大暴れ。
店の中はほとんど崩壊してたくらいだし。
「剣技については……私の剣の流派のせいなんだ。私の使う剣技は『バッカス流剣術』……、別名『酔剣』とも呼ばれている」
「すいけん?」
「象形剣の一種で、まるで酒に酔っ払ったような独特な動きで相手を翻弄する剣術だ」
象形剣ってのは、確か生き物の動きを真似る剣術の総称だったはず。
……なるほど、つまり『酔剣』は酔っ払いの動きを真似て繰り出す剣術ってことか。
でも……。
「カリンの剣は酔っ払いを真似るというより、酔っ払いそのものだったよね?」
「うぐっ!?」
僕の質問に、カリンは核心を突かれたような表情をする。
……何かまずい事聞いちゃったかな?
「その……何というか私は実際に酒に酔わないと『バッカス流』の剣術を使えないんだ」
「えぇっ!?」
そんな事あるんだろうか?
でもカリンの言う通り、酔っ払っていない時の戦闘ではあんなに俊敏に動けてはいなかった。
それに昨日の酒場であれだけ大暴れできたのは酒に酔っ払っていたからか。
つまりカリンの言うことは本当ってことだね……。
「我ながら情けないとは思うが本当の事なんだ。しかも、以前のパーティーで強い敵と戦うたびに酒を飲んでいたら段々と耐性がついてしまったようで、今では酔うために強い酒を一気飲みしないといけなくなってしまったんだ……」
ふ、不憫すぎる……。
「ふっ、ふふふ、笑いたければ笑えばいいさ。しかも、そのせいで毎回戦闘が終わるたびに酔い潰れている私を介護なんてしていられないって事で、私は前のパーティーを追放されているからな。私もノロワと同様に追放された冒険者ってことさ」
勢いでサラッと衝撃の事実を言ったよ、この子!?
……そうか、カリンも僕たちと同じ追放者だったのか。
だから、僕が追放者って知った時にカリンは自分に笑う資格がないなんて言っていたのか。
確かに、戦闘の度に酔っ払いの介護なんてしていたら冒険はできないだろうけど……、それでもカリンの境遇を考えたら笑うことなんて僕には出来ない。
そもそも、酒に酔えなきゃ高ランクの敵と戦えずパーティーの足を引っ張る。
『バッカス流』の剣術を使えれば戦闘中は文字通り最強になれるけど、戦闘後に動けなくなってしまい、結果的にパーティーの足手まといになってしまう。
あっちを立てればこっちが立たずという、完全なデッドロック状態なわけだ。
……可哀想すぎるでしょ……。
「こんな面倒な女、この先どこのパーティーも受け入れてくれる事はないんだろうな……。ノロワ達も私のこの話を聞いて引いただろう? 一時加入の件は今回で解消してくれて構わないぞ……」
カリンが段々と落ち込んでいってる!?
「そんな事……」
「そんな事する訳ないじゃない!!」
慰めようと声をかけようとしたら、横からエマが大声で遮る。
「アタシも何回も追放されたから追放されたカリンの辛さはよく分かる。……安心しなさい、『灰狼』はカリンを受け入れるわよ!」
「っ……! こ、こんな出来損ないで欠点だらけの私でもいいのか?」
「当たり前よっ!」
「エマっ!」
「カリン!」
エマとカリンが熱い抱擁を交わす。
……完全にエマがカリンに感情移入してますね。
最初はカリンの一時加入にすらあまり乗り気じゃなかったエマも今やカリンに完全に仲間意識を持っているようだ。
まあ、エマも追放された過去があるからカリンに共感できる部分も多いんだろう。
「ねえ、カリン。一時加入じゃなくて正式に『灰狼』に入らない? ノロワも良いわよね?」
「勿論。むしろこちらからお願いしたいくらいだよ」
前衛職は大歓迎だ。
それに僕たち『灰狼』はまだDランク……『バッカス流』を使えない素面のカリンでも十分に通用するレベルのクエストにしか行けないから酔い潰れる心配もない。
……それに、カリンの話を聞いてちょっと試してみたいことができたしね。
「エマ……ノロワ……、あ、りがとう……。こちらこそ宜しく頼む」
こうして僕たちのパーティー『灰狼』に3人目の仲間ができました!
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