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第六十二話 前世と現世の時空間の神隠しと女神

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「坊や、其方の前世に着いた・・・・・・」

女神は、そう告げると夢乃神姫ゆめのしんき[ヒメ]の傍から消えていた。



 ヒメは、途方に暮れながら周囲を見渡す。
ヒメの記憶に残る神社の風景が目の前にあった。

 安甲晴明の子孫の神社とヒメは聞いていたが、よく分かっていない。



 神社の巫女がヒメの前に現れて尋ねた。

「どこの者じゃ。
ーー 見慣れない姿をしておる」

 巫女は、ヒメにそう言って、社務所の中に消えて行った。
しばらくして、先程の巫女と神社の神主らしき人が、ヒメの前に現れ言った。

「その格好は、この時代の者に見えぬのだが、何か事情がありそうじゃな」

「神主さんですか」

「わしは、この神社の安甲晴明あきのせいめいと言う陰陽師おんみょうじじゃ。
ーー 良かったら、わしに話してくれんか?」

「はい、僕は、女神に誘われるままに、自分の前世にやって来ました。
ーー 向こうの世界には、こちらの世界から消えた三日月姫がいます。
ーー そして、僕は帝の側室の三人の子のうちの一人の生まれ変わりと聞いています」

「どうも、厄介な事情じゃが、一部は真実のようじゃ。
ーー 三日月姫、姫の妹、未来、未来の妹が神隠しにあっている」

「はい、その人たちと、向こうの世界でお会いしています。
ーー 零さんも、未来さんも、三日月姉妹もお元気です」

「そうだったのじゃな。
ーー 消えた意味が飲み込めたが、分からぬことがあるのじゃが」

「なんでしょうか」

「なぜに、側室のお子の生まれ変わりと分かったのじゃ」

「最初、三日月姫の妹さんと未来さんに言われました。
ーー そして精霊さんも」

 安甲神主は、腕組みしながら考えると巫女の耳元で囁いた。
巫女は、一礼して神社の境内から出て行く。



 ヒメは、分からぬままに安甲神主を見ていた。

「今、巫女が、宮廷の者に連絡に行っているのじゃ。
ーー しばらく、ここで待っているのじゃよ」

「神主さん、宮廷は近いのですか」

「この神社の裏手だから、すぐじゃよ」

 ヒメは、裏手と聞いて、神聖学園の場所が脳裡のうりで重なる。

「宮廷って、別邸のことですか」

「そうじゃな、帝は、いくつもの別邸を持っているのじゃが、
ーー この辺りが気に入っているらしく
ーー 裏手の別邸におることが多い」

 ヒメは、思った。
季節は、夏の終わり、時刻は午後くらいかと・・・・・・。
ただ、ヒメが女神と遭遇した時刻とは、少し違う感じがしていた。

 しばらくして、巫女が、帝の側室を連れて来た。

「ああ、なんということ・・・・・・」

 側室は、ヒメを見るなり驚きの声を上げた。

「神姫じゃな。母の式子じゃ。
ーー 来世から母に会いに来たと聞いて、
ーー 母は嬉しくて、神姫に会いに来たのじゃ」

 式子は、紫色の着物を身に纏い、紺色の着物の従者を二人従えていた。
ヒメは、前世の母に返す言葉も無く、母と同じく驚いている。

 神主で陰陽師の安甲晴明が言った。
「どうじゃしばらく、ここで前世の母に甘えてみるのも良いのじゃが」

「神主さん、僕には、戻る術もなく・・・・・・」

「そうじゃったな、今夜は、安甲神社で過ごされ」

「神主さん、この子は、宮廷に連れ帰ります」

「そうなれば、あなたの今のお子と遭遇することになるのじゃが」

 式子は、しばらく考えて従者に告げた。
従者の一人が、足早に宮廷への小道に入る。



「神主さん、帝に聞いてみることにしたのじゃが」

「そうじゃな、帝から見てもお子じゃから良いじゃろ」

 神社の境内に夏の夕日が差し込むころ、宮廷から使者が神社に到着した。

「帝からの伝言がござります。
ーー 明日の朝、帝が神社を訪問するまで待てとの連絡でござります」

 式子は帝の伝言を聞くと、前世の息子の手を取り、神主と一緒に社務所に向かった。



 夢乃神姫[ヒメ]消えた翌日、現世の安甲神社の座敷には、酒田昇、昼間夕子、星乃紫、日向黒子、白石陽子、三日月姫、姫の妹、未来、零が座卓を囲んで待機していた。
 遅れて、安甲次郎神主と兄の一郎が、巫女の花園舞と一緒にやって来た。

 零が驚いた声を上げて、奥座敷のイラストを指で指す。
イラストから、紫色に輝く渦が見えていたからだ。

 神主は、酒田に女神降臨を至急するようにお願いした。



 正午、酒田の女神降臨の詠唱えいしょうが始まる。
金色の光に包まれた女神が空間に現れた。

「わらわに、また、なんの用じゃ」

「側室のお子の生まれ変わりが消えてしまいました」

「その子なら、うちの女神が前世に連れて行った」

「どういうことでしょうか?」

「今ごろは、其方の祖先の陰陽師といるじゃろ。
ーー 帝も側室もおるから杞憂じゃ」

「妹の真夏や白石陽子も側室のお子の生まれ変わりと聞いていますが」

「あの男の子だけに用があったのじゃろう。
ーー わらわに用事とはなんじゃ」

「現世に戻して頂けませんか」

「そういうことは、出来ぬのじゃ」

「なんででしょうか」

「時空は、個人の都合では動かぬのじゃが、
ーー わらわも、分からぬ。
ーー あとで精霊が現れて皆に告げるじゃろ」

 女神は、酒田に告げると金色の光を残して消えた。


「酒田さん、上手く行った」

「昼間先生も、聞いていたでしょう。
ーー 精霊が告げるそうです」

「そうか、あの精霊は、女神の使いだったのね」

「女神が、心配ないと言っているから大丈夫のような」

「酒田、それじゃ、今日、大勢で集まった意味がないわよ。
ーー でも、この神社の祖先とか言ってたわよね。
ーー 安甲神主、祖先って誰ですか?」

「昼間先生、私たち兄弟の祖先は、陰陽師のです」

「じゃあ、晴明さん次第じゃないですか」

「昼間先生、晴明さんの陰陽師は、
ーー 伝説級ですから奇跡があるかも知れませんよ」



 昼間夕子は、夢乃真夏の肩を引き寄せて言った。

「お兄さん、きっと大丈夫よ・・・・・・」

「先生・・・・・・」
真夏は、夕子を見て微笑んでいた。
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