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第一章

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私が行ったのは、七福神の言う通りにそれぞれの家族との思い出を植え付けただけで、個人が私をどう思うかは個人に任せたのよね。

なのに、この状況はなんなのかしら。

「桜純、まだ帰らないのか?」

「鷹司君」

「またその呼び方か。いつも通り蒼に戻せよ」

呆れたように言う鷹司君・・・蒼は、祖父の恵比寿天曰く私の事がお気に入りだそう。
竜宮桜純の話もよくしていたそうだから、御剣桜純として12再会歳から知っていればこうなっても仕方ないわよね・・・。

「蒼は部活?」

「今日は顧問が出張で部活休み。明日は土曜だしたまには遊んで帰るか?」

「もうすぐ試験なのに、学年1位の人は余裕ね」

「同率1位の奴に言われたくないな」

私達が並んで歩くと、皆が「またね」「バイバイ」と笑顔で手を振ってくれる。
私は中等部からこの学園に入学した事になっているから友人も多くいるのだけど、百合とは疎遠になった。
百合達の記憶操作も個人がどう思うかは自由にしていたけど、まさか嫌われるとは思わなかったわ。

心を読めば理由は分かるけど、そこまではしたくないのよね。

「そうだ、母さんが桜純に会いたいってうるさいんだよ。暇だったら明日辺りにうちに来てくれないか?」

「そうね。私もお会いしたいから行こうかしら。予定はなかったと思うけど」

「じゃー、俺とデートしない?」

そう言って後ろから抱きついてきたのは宮ノ森君。
蒼と仲良いのも、百合と付き合ってるのも同じなんだけど、私への距離がすごく近くて困ってるの。

「おい、やめろよチカ!」

「こいつだって。サーヤちゃん、蒼生と付き合ってんの?」

「昔から仲良いだけよ。ね、蒼」

「・・・桜純、お前鈍すぎ。というかチカ、竜宮さんはどうしたんだよ。一緒に帰るって言ってなかったか?」

「あーなんか具合が悪いとか言って帰った」

「お前、片思い長かった割にあっさりだな。9月はウザい位にベタベタしてただろ」

「夢から醒めたんだよー慰めようぜ?喋る事が自慢と悪口ばっかでさぁ、話聞かないと殴るんだぜ?無理無理無理ー!」

「それは僕も無理だ」

「先に帰るね」

百合がまだいるかもしれないと思って下駄箱まで走ったのだけど、そこにいた百合は私の靴をナイフで切り刻んでる最中だった。

「竜宮さん、それ桜純のだよな?器物破損で訴えるよ」

「最悪・・・もうやめた。お前とは別れる」

追いかけてきた蒼と宮ノ森君が百合を責め始めたけど、私は何も言う事ができずにただ立ち尽くしていたの。私を見た百合はニタリと笑ったの。

ああ、百合は・・・闇に呑まれてる。

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