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第二章

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学園長室から遠くても分かる強い気配は、間違いなく暗黒のものだったわ。

『ここで間違いないわ』

『そうだな、あいつの気配がかなり強い。蒼、お前はここで待機だ。人が来ないように見張ってろ』

首を振って断わる蒼にパパが仕方なさそうな顔をしながら指を向けると、蒼の体は石のように固まったの。

『何の修業もしていない奴に来られても邪魔なだけだ。お前はここで俺達の目になれ。人が来たら分かるようにな』

パパの言う通りだから、私は何も言えなかった。
蒼を守りながら戦うなんて状況的に難しいのは分かりきってるし、蒼を死なせるわけにはいかないの。
恵比寿天の為にも、あの国から次の守護者をなくさない為にも。

『蒼、ごめんね。絶対に戻るから』

不安を顔に出さないように、私は明るく笑って蒼に声をかけて学園長室へと向かったの。

『パパ、お義父様達が見つかったから屋敷に転移したわ』

『そうか。桜純、本当にいいのか?お前が戦う事になるぞ』

『ええ、パパと暗黒はお互いに手出しできないものね』

『分かっているならいい。頼んだぞ、馬鹿娘』

『頼まれたわ!』

それを合図に学園長室のドアを吹き飛ばす。
そこにいたのは、エステルさんと学園長の椅子に座る暗黒だけ。

私とパパは中へと足を踏み入れて口を開く。

「初めまして。陰とエステルさん」

「久しぶりだな、暗黒」

黒く長い髪に黒い瞳、肌は白く唇には殆ど色がないけれど、とても美しい女性が妖艶に微笑む。

「あら、陽。久しぶりね。そちらの綺麗なお嬢さんは・・・あなたは、あなた様は!」

椅子から立ち上がった暗黒の後ろに隠れようとするエステルさんを吹き飛ばした暗黒は、私達を見てとても嬉しそうに笑ったの。

「あはは、あははははは!創造主、あなた様が直接お出ましになるなんて・・・私を殺してくれるのかしら?」

最後の言葉は背中がゾクリとするもので、暗黒の絶望が伝わってきたの。

「暗黒、あなたは何も分かっていないわ。パパは、いえ陽はあなたを見捨てたのではないのよ」

「知ってるわよ!それでも私は陽といたかったのよ。私はただでさえ忌み嫌われる存在なのに、陽にまで捨てられたらどうすればいいか分からない!でも、人間が進化して今の姿になった時に学んだのよ。闇に乗じて悪をなす者達にね」

「だから悪神となり、人を唆して次々と詰みを犯すようにしたの?」

「私が手を出したのは自らそれを望んだ者達よ。この女のようにね」

暗黒の視線の先にいたのはエステルさん。

ああ、あなたは巻き込まれたのではなく、暗黒をここに呼び込んだのね。
それなら遠慮はいらないかしら?
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