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第二章

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私達の視線に気付いたエステルさんは「助けて」と言いながら床を這って逃げようとしたけれど、私が許す筈がないでしょう?

「エステルさん、神罰って知ってますか?」

「な、何よ。神なんかいないわよ」

「あら、あなたが呼び寄せたのは何だと思ってるの?」

「悪魔でしょ!あたしはこの学園に集めた奴らを生贄にしてもっとモテるのよ!邪魔しないでよねヴッ、ぐぐぐぁああ」

悪魔と呼ばれた暗黒は怒り、エステルさんを釣りあけたの。

「誰が悪魔だと?私は魔物ではないわ!」

「ご、ごめうぅぅぅぐるじい・・・」

首を掴まれたエステルさんは体中から液体を流しながら苦しんでいる。直接手を下させる事は避けたいから、私は暗黒を止めたの。

「暗黒、やめなさい。その者には私が神罰を与えるわ」

「くっ・・・私を操るな!創るだけ創って放置したくせに!」

「暗黒、お前は間違ってる。桜純は報知していないぞ。俺にもお前にも桜純の眷属がついていたんだ」

「どういう事よ」

私は手を広げて白銀と黒銀を呼び寄せた。
2人を見た暗黒は、黒銀を指さして笑い始めたの。

「こいつを私に?黒いもの同士いいわね」

「ちげーよ!お前についとったんは俺や!主さんが相反するからこそ癒せる言うて、あんたらがしんどい時に癒せ言われとったんや!」

「そうです。強すぎる光も濃すぎる闇も疲れると仰って、あなた方の調整を私達に命じたのです」

「せやけどな、あんたがは俺を拒んだんや。全部の光は消えてまえ言うて、俺の癒しまで闇に変えくさったんや!」

そのせいで白銀は消えかけ、私は人として産まれる事を決意したの。
でも、ずっと孤独だった私は人の世界と人に魅了されて自分の気持ちを優先して、暗黒をここまでにしてしまったから、その責任はとらなければならないわね。

「暗黒、あなたに新しい名前をあげましょう。その身に黒を背負いながらも美しく羽ばたく蝶の名を。そしてあなたは蝶となり、この世の素晴らしさを見てまわりなさい。悲しい記憶は消して新しいあなたとして陽の光の中を飛びなさい。揚羽」

その瞬間、揚羽は蝶となり私の周囲を舞うように飛んで、割れた窓から出て行った。

「お前、そういう事もできるのか。戦いを見ないといけないと思ってた俺の葛藤を返せよ!蒼にもかっこいい事言っちまっただろうが!」

「あら、物理的に戦うとは言ってないわよ?私は誰にも負けないけれど、唯一自分の心には負けるの。揚羽を消す事ができるかどうかは、私が自分の心に勝つことが大切だったの。揚羽の孤独を私も知っているから。だから、揚羽には彼女を眷属としてつけましょう」

チラリとエステルさんを見ると、ビクッと体を跳ねさせて嫌がったわ。
でもね、これがあなたへの神罰だから諦めて。

「さあ、あなたはジャノメチョウとなり揚羽に寄り添い、守り続けなさい。この約束は永遠に違える事はできませんし、逆らう事もできないわ。揚羽の為に何度でも死に、蘇りなさい」
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