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第二章

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エステルさんも蝶に変わり、慌てて揚羽を追いかけて行ったわ。パパは呆れたように私を見ているけれど、何か悪い事をしたかしら?

「桜純、相当怒ってたんだな。あんな見た目と色の蝶に変えるのに心は怒らなかったか?」

「大賛成よ?彼女に与えたのは罰だもの」

ええ、すごく怒っていたわ。
彼女は前世で揚羽を利用して周囲の人達に罪を犯させ、今世も揚羽を呼び寄せて自分に魅了を使えるようにさせて、自分に都合の悪い人達を始末させたのが見えたの。
それをパパに伝える気はないわ。
これ以上、気に病ませる事はできないものね。

「パパ、お願いがあるの」

「あいつの事だろ」

パパはハァ・・・と大袈裟な溜息をついて、蒼がいる方向を見た。

「ええ、蒼の髪と瞳の色を変えてから向こうに送ってほしいの」

「桜純はどうするんだ?」

「私は自分の作り出した全ての管理者だから戻るわ。でも、パパのおかけでどこへでも産まれる事ができるようになったの。パパがお母さんを愛してくれなかったら、私は産まれる事ができないままだったもの」

「それはどうも?」

「だから、パパにご褒美をあげます!」

私が掌から出したのは、小さな小さなお母さん。
まだ眠っているけれど、200年後にはパパと釣り合う大きさになって目覚めるの。

「目覚めるのはまだまだ先だから、それまでしっかり守ってね。200年位はすぐでしょ?」

「だが、俺の梨杏ではないだろう」

「いいえ?お母さんの記憶のある豊穣の神よ。パパと永遠に愛し合っていけるね。あ、でも名前だけはパパがつけてね。人と同じではダメだもの」

パパは涙を浮かべて、ソッと私からお母さんを受け取ったの。愛おしそうにその手に包み込んでから私を見たわ。

「実桜だ」

「え?」

「俺とお前の色にこいつも混ぜてやろう。実ったのは桜純、お前の事だ。どこにいても、どんな世界に産まれても俺達の娘として産まれてくれた事は忘れないからな」

「パパ、ありがとう!」

パパに抱き着いて思いっきり力をこめる。
私にはこの思い出があれば、どこにいても大丈夫。

「桜純の記憶はどうするんだ?」

「私がいなくなれば自然に消えるわ。完全な神は無理だけど半神は大丈夫。あ、神様達が遊びに来れるようにしておくわね!こちらで色々学んだから大丈夫よ」

「それは助かる。でも本当にいいのか?あいつらは記憶が消えてもどこかで覚えてると思うぞ」

「それでも、私は帰るわ。私が自由に出歩いても大丈夫なように改良しなくっちゃ。それにね、前世の記憶を持ったままで転生する人間は少なからずいるわ。闇に囚われ、人を傷つける転生者を罰しないと!」

またねと言って私は空へと還った。

あの2人にはまた会う気がするけど、その日が来たら叱られてあげるから許してね。



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