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序章

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一週間後、ご機嫌な様子で帰宅したお父様は私を抱き上げてこう言ったの。

「王太子と第二王子の婚約者は決まらなかったよ。候補に上がった令嬢達が「あの馬鹿達に嫁ぐなら自害します」と言ってね。アリスが何か言い含めたんだろう?」

「王妃様のお考えをプリシラが吹聴しただけで、私は何もしていませんわよ?」

「その考えはアリスのものだと評判だよ。おかげで不幸な婚約をさせずに済んだと皆から感謝されてね。私も鼻が高いよ」

あら、バレていたのね。
事実だから誰も怒らないし、言いつける貴族もいないのはいいわよね。
この国は長く平穏が続いているからか、ほとんどの貴族や平民は気性が穏やかで、悩みの種は王族だけという感じだから必要悪と言えない事もないわね。

「あなた、そろそろアリスティアを下ろしてあげてくださいな。もう12歳なのですよ?あなたもいいお年なのですから、腰にはお気をつけあそばさないといけませんしね」

優美な笑顔のままで怒りのオーラを発しているのは、私の大好きなお母様。
名をシェリルと言い、社交界の薔薇と呼ばれるお母様をお父様がどうやって射止めたのかは誰も教えてもらえないの。

「アリスちゃんはお義母様にそっくりで可愛らしいのですもの。お義父様もその頃の面影を見て余計に可愛くなるのですわ」

お母様の隣で淑やかに話すのは、アーネスト兄様の奥様であるナタリア義姉様。
この方は社交界の白百合と呼ばれているの。

綺麗な薔薇には棘があり、綺麗な百合は毒を持つのよ・・・猫を飼ってる人は気を付けてほしいわ。

結婚する気のなかったアーネスト兄様をどうやって口説き落としたのかは気になるけれど、これもまた秘密らしくて教えてくれないけれど、ナタリア義姉様は晩餐会でこう言ったの。

「アリスちゃんの義姉になりたかったからアーネスト様と結婚しましたのよ」

隣国の王女の結婚理由が義妹なんて冗談としか思えなかったけれど、お母様と2人で私を着せ替え人形にしたりお茶会に連れ回されたりして喜んでいるから、冗談じゃないかもと思う時もあるのよ。
身の危険を感じるから、見てみぬフリをしているのだけどね。

お父様似のイケメンより、お母様似の義妹に傾倒する義姉なんて怖いもの!

「それもそうね。アリス、私達と明日のお茶会の準備をしましょう。私の子供の頃はいつもオシャレしていたのよ。セバスチャン、後は頼んだわよ」

当主なのに放っておかれるお父様と、構われ過ぎて泣きそうな私とどっちの方が不幸かしらと、お母様とお義姉様に引きずられながら考えたけれど、恐怖の着せ替え人形に私の心は折れたわ。
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