【全59話完結】転生騎士見習いの生活

酒本 アズサ

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28.帰寮、そして日常へ

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 昨夜はベッドの上にタイブしてから記憶がないが、朝起きたらきちんと布団の中に身体が収まっていた。
 どうやら誰かが寝かせて布団を掛けてくれたらしい。


 そんな事をベッドの上でぼんやり考えているとノックが聞こえ、メイドが朝食の準備が出来たと報せに来た。
自室のクローゼットはブリジット姉様の趣味で八割ヒラヒラしているが、残りの二割の中から選んで着替えて食堂に向かった。


「おはようございます、お待たせしました」


 食堂には三人共揃っており、挨拶を返してくれる。
 兄様達はおはようのキスを待っている様だったが、昨日子供扱いしない様に言ったばかりなので気付かない振りをした。


 料理長は俺の好みを熟知しているので軽く火を通したベーコンと塩胡椒で味付けした半熟目玉焼きを厚切りトーストの上に乗せてある。
 ナイフを入れてトロリとした黄身を溢れさせてからサクリと噛り付く、ちょっと行儀が悪いから外では出来ない家だけの贅沢だ。
 外では目玉焼きはナイフとフォークで食べないといけないから久々で嬉しい。


 この世界は西洋文化に近いので口内調味という概念が無い、現在の俺の行動範囲には和食の面影すら見えないので正規の騎士になったら遠征先で色々探してみたいとは思っている。
 記憶が戻ってから発作的に味噌汁が飲みたくなったりおにぎりが食べたくなったりして困る。
パエリアっぽい食べ物は見た事あるけど、細長い米だったのでおにぎりには向かないだろう。


 いつかその米で炒飯なら作れると思ってはいるが、その為には中華鍋とそれを振るう筋力と体格が必要なのだ。


 皿に付いてしまった黄身をロールパンをちぎって拭う様に付けて食べる、これがまた良いんだよね~!
 今日の果物は葡萄、半分にカットしてあって専用スプーンですくって食べられる様にしてくれてある。


「美味しかった~、ご馳走様でした」


 満足してはふぅ、と息を吐くと皆の微笑ましいモノを見る目が俺に集まっていた。


「その言葉も久しぶりに聞けたな、それだけ満足そうな顔してもらえたら料理長も嬉しいだろうね」


 アドルフ兄様がクスクス笑いながら角に控えていた料理長をチラリと見やる。


「はい、クラウス様もカール様もお好みが変わってなくて良かったです。 料理人にとっての最高の褒め言葉も頂けましたし」


 振り返るとにこにこと嬉しそうに微笑む料理長が居た。


「俺が独立したら引き抜いて連れて行きたいくらいだけど、それだとアドルフ兄様達が困るから、料理長の味を再現できる弟子を育てておいてね! まだ数年先だから、それまでによろしく頼むよ」


 イヒヒ、と冗談めかして笑って頼むと、いい笑顔で了承してもらえた。
 これで将来の食生活は保証された。


「そろそろ行こうか、騎士団寮まで一緒に馬車に乗って行けばいい、私もそのまま登城するからね」


 エミーリア義姉様にお礼とまた遊びに来る約束をして、兄様達と馬車に乗り込む。


 大人が六人乗れる伯爵家の馬車は身体の大きなカール兄様が乗っても余裕で、行きに乗った辻馬車とは乗り心地が全然違う。
 サスペンションとかはないけど、綿を惜しげもなく使ったクッションがお尻を守ってくれる。
 

 そういや産後用に円座とか姉様達にプレゼントした方がいいのかな…、というか円座って見た事ないけどあるんだろうか?
 ライナーなら知ってるかな、今度聞いてみよう。


 ぼんやり考えていたら兄様達が心配そうに聞いてきた。


「どうした、クラウス? 寮に戻りたくないのか? 家に戻りたくなったのならいつでも言うんだよ?」


「何か困った事があればいつでも俺の所に来るんだぞ? 俺はいつでもお前の味方だからな!」


 おおぅ、安定の溺愛ぶりですね兄様達。


「違いますよ、姉様達に出産祝いを贈るなら何がいいかな~って考えていただけです。 俺より小さい血縁者って初めてなので、今から楽しみなんです」


 新生児の小ささも、ちょっと育ってぷにぷにしてくる頃も、凄く可愛いから早く抱っこして可愛いがりたい。


 あ、もし円座贈るならデスクワークのアドルフ兄様の分も買った方がいいかな?


 ニヨニヨくすくす笑いながら考えていたら寮に着いた。
 すると御者の隣に座っていた執事が包みをカール兄様と俺に手渡した。


「料理長からの差し入れです、朝食の時間がいつもより早かったでしょうから休憩時間に軽く摘める物を、との事です。 昨日お預かりしたケーキは王城でのお茶の時間に旦那様に召し上がって頂きますね」


 さすがヘルトリング家の料理長、気が効くなぁ。
 執事に礼を言い、アドルフ兄様にまた遊びに行く約束をして王城へ向かう馬車を見送った。


 敷地内に入ると目の前には第二騎士団寮がある、そこで左右に別れて自分達の寮へ戻るのだが、カール兄様が名残惜しそうにしていた。


「会おうと思えばいつでも会える距離なんですから、そんな顔しないで下さい。 また休みが一緒の時にお出掛けしましょうね? コレ、昨日マジックバックに入れっぱなしだったので明日以降食べて下さいね」


 マジックバックからパウンドケーキを一本取り出してカール兄様に渡してハグをした。


 カール兄様もギュッと抱きしめ返して俺のつむじにチュッとキスを落とした。


「じゃあ、またね! カール兄様」


「ああ、またな」


 手を振ってから第三寮へ駆け出した、カール兄様のことだから俺の姿が見えなくなるまで見守ってるだろう、角を曲がる時に振り返るとやっぱりこちらを笑顔で見ていた。
 もう一度手を振ると、手を振り返してくれたのでそのまま帰寮した。


 ちょうど騎士達の朝食が終わる時間帯で、部屋に戻るとサミュエル先輩が学校の制服に着替えていた。


「おはようございます、ただいま帰りました」


「おはよう、おかえり。 実家で寛いで来たか?」


「はい、久しぶりに皆に会えましたし、冬と春に甥か姪が産まれるそうです。 俺、叔父さんになるんですよ!」


 俺の笑顔全開っぷりにちょっと引いたのか、一瞬ネクタイを締める手が止まる。


「そ、そうか、それはおめでとう。 じゃあオレは食堂に行ってくるが、もう朝食は食べたのか?」


「はい、家で食べてきました。 時間がいつもより早いからって軽食付きです」


 じゃーん! と脳内効果音を鳴らしてさっき受け取った包みを掲げる。


「ククッ、大事にされてるなぁ。 じゃ、行ってくる」


 ちょっとはしゃぎ過ぎたのだろうか、笑われてしまった。
 包みを開けると小さめにカットされたサンドイッチが入っていた。
 休憩中に食べようと思ったらアルフレートやライナーにも食べられちゃうよな…、今は本来の朝食時間だし…。


 誘惑に負けて全て食べました。
 

 だってまだ時期が早いのに俺の好きな胡瓜とハムのサンドイッチが!!
 料理長が俺の為に探して使ってくれたなら新鮮な内に食べるのが礼儀って思うよね!?
 

 サミュエル先輩が部屋に戻ってきた時に部屋の匂いをスンスン嗅いでたから食べたのバレたかもしれない。
 なんかジッと見られた気がしたけど、見送る時以外目を合わせられなかった。


 今日は俺が洗浄係だったはず、最近は他期生の人達の洗濯物も新品みたいに綺麗になってるから俺が教えたやり方の清浄魔法がゲルト先輩のお陰で広まってきたのかもしれない。


 
 今日も中庭でストレッチとランニング、既にランニングの時間は一時間にまで伸びている。
 最近体力もついてきたと実感できる時がある、ランニングの後の素振りで息が上がるまでの時間も伸びてきたし。


 目標カール兄様級の体格!
 今日からはまたいつもの訓練が始まる、でも夕食後にサミュエル先輩とパウンドケーキ食べちゃうもんね。
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