黄金と新星〜一般人系ギルドマスターのなるべく働きたくない日々〜

暮々多小鳥

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第二章『冒険者新人研修会』

三十四話「外区と赤竜」①

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 商店と工房が立ち並ぶ北区の大通りを途中寄り道もしながら通り抜け、シュウとゆかいな仲間達は外区へと立ち入った。

 きょろ、とさっきまで元気いっぱいだった〈春風〉のリーダーちゃんが不安そうにあたりを見回す。

「ここが外区なんだけど……実は私達、外区もあんまり来たことないの」

「西区と北区以外は、ほとんど行かないんだよな。あと、外区は近寄りがたいっていうか……」

 シーフの男の子も腕を組みながらそんなことを口にする。

 確かに、冒険者なら西区を中心に買い物や装備の点検でちょっと北区に行くくらいで、行動範囲は狭くても何の支障もない。
 それに加えて外区にあまり来ないというのは、やはり治安の問題だろう。

 外区は元々、帝都郊外にできたスラムだった。それが治安の改善や管理のために区として帝都の一部になったのだが、その経緯は少し複雑らしく今でも外区は他の区とは異なる部分が多い。治安も他の区と比べると悪い方だと言われている。

 どうやら〈春風〉達は外区には詳しくないようだ。ここは私が案内を変わろうかね……

「……じゃあ、ここからの案内は私に任せてよ。外区は確かに怖いところもあるけど、便利なお店とかもいっぱいあるからさ」

「え?マスター、外区はよく行くのですか?てっきりこういったアンダーグラウンドには近寄らないタイプかと」

「あー、まぁその通りなんだけど……」

 治安が悪いと、それだけ攫われる確率も上がるってことだからね。ただ、外区に関してはそのリスクを大幅に上回るほどの魅力があるのだ。
 それに、外区は治安がとてつもなく悪い訳ではない。

「冒険者にとっては良いお店がいっぱいあるんだよ。それに知り合いが多くてね」

「知り合い……?」

「とりあえず、行きつけのお店を紹介するよ」

 今日はあのお店開いてるかなぁ。不定休だからなぁ。ま、開いてなかったら「事務所」の方を紹介すればいっか。

 私を先頭にして、細い路地を道に広がらないよう進んでいく。

 外区の細く入り組んだ通りは見通しが悪く、人もまばらにしか見かけられない。時折目が合う通行人は、武器を持った冒険者のような男か、オドオドと周囲に目を配りながら小さく体を縮こませている浮浪者がほとんどだ。
 建物や道路は不自然なほどきれいだが、それに反して人気がない。

「もう少し向こうの方に行けば、露店とかがたくさん出てて賑やかだよ。こっちはちょっと、静かめなんだけど……一風変わった穴場っぽいお店とか結構あるんだ」

「あの……さ、先程から、いずこからの視線を感じるのですが……」

 ミーニャがきゅっと体を縮こませながら小声で話しかけてきた。
 私は視線なんて分からないけど、たぶんアレだ。

「あぁ、それはね、大丈夫だと思うよ。でもあんまり離れて歩かないで…………」

「――――ぐえっ!?」

「えっ」

 急にドサッと重たい音を立てて、後方からシュウくんが飛んできた。何事?

「シュウくん、大丈夫?どしたの?」

「だ、大丈夫……急にあの、投げ飛ばされて……」

 痛そうにお尻をさすっているけど、頭は打っていないみたいだ。
 飛んできた後方を見てみれば、そこには仁王立ちのメルと腰が引け気味の見知らぬおじさんが相対している。

「え誰?どしたの、メルちゃん」

「あのねぇ、クリアちゃん。コレがねぇ、その剣盗もうとしてたの。メルが引っ張らなかったらぁ、盗まれてたよぉ?」

「あー、スリかぁ」

 スリなんて外区じゃなくてもよくあることだ。流石に大きな武器を盗もうとするのは珍しいけど。
 というか、なんでスリだからってシュウくん投げたの?

「ちっ」

「あ、逃げた!」

「追跡ましょうか、マイマスター」

「……いや、たぶんすぐ来るよ」

 反射的に杖を取り出し構えたミーニャを制止する。
 スリ未遂犯のおじさんは軽い身のこなしで路地を折れて姿を消した。

 と、その直後。

「…………っう、ぐ」

 道の奥から呻き声と鈍い音が響く。

 そして、一人の男性がさっきのおじさんを引きずりながら路地から姿を現した。
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