獣人の子育ては経験がありません

三国華子

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第一章

6 おかあたま?

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「何てことおっしゃるんですかー。奥様!!」

「奥様じゃない『クリス様』だ。あっ、これ食べていいの?」

用意された食事は意外とマトモだった。骨付き肉をローストした物や、穀物を加工したパンもどき……。付け合せの野菜も色み的に何とか食べられそうだ。ナントカ映えのレインボーカラーの食べ物よりは、美味しそう。
実際に食べてみると、香辛料の使い方が絶妙で、どれも美味しく頂ける。
言葉もなぜか通じるし、そんなに悪い世界ではないのかもしれない。

…………ガインを除けば。

「クリス様、重たくありませんか?」
俺がサミアンを膝に乗せたまま食事をしているのが、気になるのだろう。
「大丈夫だよ、見た目より軽いし」
フワフワの被毛に包まれて大きく見えるが、想像よりも軽かった。
「ねぇ、サミアンは何歳?」
ノイによるとサミアンは一歳で、もうすぐ二歳になるという。年齢もヒロシを引き取った時と重なる。ヒロシはもうすぐ成人で、俺も父親という大役を終える筈だった。
また振り出しに戻った気分だ……

腹が膨れたので、サミアンを抱いたまま庭を散歩した。外から眺めた建物は想像以上に大きく、バロック調の様な華やかな装飾が施されていて、イタリアにでも旅行に来たような気分になった。一瞬気分が浮上しかけたが、ふとガインの持ち物だと思い出し、奴の力を誇示しているようでイラついた。

初めて見る異世界の花木を眺めながら歩いていると、腕の中のサミアンが、ポヤンと薄目を開けた。

「ふふっ、お目覚め?」

驚いて毛を逆立てたサミアンは、俺の腕にカプリと噛みついた。
「うっ!」
痛みで拘束が緩むが、サミアンを落とさない様になんとか持ちこたえる。
すると、寝惚けて噛んだ事を申し訳なく思ったのか「キュ」っと鼻を鳴らし、キレイなライトブルーの瞳で俺を見つめてきた。

かっ可愛いー!

「クリス様、大丈夫ですか?」
ノイも心配そうに覗き込むが、俺は反対の手でキズを隠した。
「大丈夫だよ……痛くない。ビックリさせちゃってごめんね」
「キュン」
サミアンは『こちらこそ』とでも言うように、傷を隠す方の手をペロッと舐めた。
「クリス様、一応傷の手当てをしますので館にお戻り下さい」
まだ外を歩きたかったが、世話を言い渡されたノイの立場もあるだろう。傷は手当てしてもらったほうがよさそうだ。

部屋に戻り手当てを終えると「サミアン様をお迎えに上がりました」と言って、空の乳母車を押した女が入ってきた。
(乳母車でいいんだよな?荷物運ぶカートみたいな形だけど……)
聞けば、サミアンの乳母らしいが、抱き上げることもままならず、移動は獣型用の乳母車を使っているらしい。

「ねぇノイ、サミアンはこれから俺の部屋に置いては駄目かな?」
「何を仰います!狼の子は皆、一歳を過ぎたら、両親と別の部屋で寝起きするものです」

『皆』って何だよ? サミアンは両親失くしたばかりだろう? ここの人たち馬鹿なの? 両親失くしたばかりのサミアンを一人ぼっちにしていたの?
叔父であるガインがキチンとケアしなきゃいけないのに、やはりあいつには血も涙もないのか?

「決めた!サミアンは今日からこの部屋で俺と一緒に暮らす!文句あるなら二人でこの家、出て行くから!」

「クリスさま~!困ります~!」
ノイは両手をパタパタさせて訴える。困った時の癖らしい……分かりやすい男だ。

「クゥン」
傷の手当ての為、下に降ろしていたサミアンが心配そうに見上げている。
「ふふっ、大丈夫、ガインが文句言ってきても、俺が守ってやるからな!」
サミアンの顎の下を両手で包み、わしゃわしゃと撫でると、白い大きなしっぽが左右に揺れた。この姿も可愛いけれど、早く人型も見てみたい。

サミアンが何か言おうとして口をパクパクさせた。そう言えば狼ヘッドのガインも普通に喋っていたし、サミアンも喋れるのかな?
「なぁに?ゆっくりで大丈夫だよ」
焦らないよう促すと、ゆっくり口を開いた……
「お、おか、……おかあたま」

………『お母様』かな? 俺、父親のつもりだったんだけど……

サミアンの母親は、オメガの男の人だったと聞き、折角心を開いてくれたのに否定するのも可哀想に思えた。でも、やはり自分が母親というのは違和感を感じる。

「お父様だよ?サミアン」
「…………おかあたま」

ん? まだこれしか喋れないのかな?
一歳だもんね。

「いい子だね、サミアン。ゆっくり覚えようね……」

サミアンは納得がいかないのか、耳としっぽがシュンとしてしまった……

「おかあたま……」
「……………」

どうしても『お母様』と呼びたいらしい。二度目の子育ては、父親ではなく母親なの……?

俺は、笑いを堪えるノイをギロリと睨んだ。

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