獣人の子育ては経験がありません

三国華子

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第一章

16 ありがとう

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頭の中にお花が咲いている……

ガインの事を考えただけで、傍にいなくてもドキドキフワフワ、地に足が付かない感じがする。

「おぉかぁぁたぁまぁぁ?」

「あぁ!!ごめんサミアン!ぬいぐるみじゃないのにブンブン振っちゃった!」

こんな感じで、とにかく落ち着かない……
恋だと自覚した途端、体の細胞が全て生まれ変わって、別世界に来たような気分になった。
――まあ実際、異世界で肉体改造されてるわけだけど……

この間「大嫌い」って言ったばかりなのに、こんなにあからさまにデレデレしてたら、ガインも変だと思うよね?
自分でも36歳のおじさんって、我にかえると気持ち悪いし……
「はぁぁぁぁぁ」
今までの、己の所業を思い出すと、ため息しか出てこない………

「朝から盛大なため息ですねー? クリス様? サミアン様が潰れてしまいますよー」

ノイに指摘されて、ビクッとなった。
動揺すると、無意識に癒しを求めてしまうようだ。
でも、俺に抱き締められたサミアンは、尻尾振って喜んでいる…………可愛すぎかよ!

「今日は、ライヒア様達がルーシアにお帰りになるんだから、しっかりして下さいねー!」

そうだった…… ライヒアとレパーダが国へ帰っちゃうんだ……
毎日、荷馬車でレパーダに逢いに行っていたので、二人とは仲良くなった。口数の少ないガインより、会話した時間は長いだろう。



今日も荷馬車に乗って、丘まで行った。12時間飛び続けるらしく、今日の食糧は栄養満点だ。レパーダのような大型のドラゴンはルーシアでも珍しいらしく、個人所有は難しい。ドラゴンの方も所有者を選ぶらしく、気に入らない者には決して服従しないようだ。
「クリス、レパーダに何か注文があるか聞いてくれー」
長時間飛行してもらうので、ライヒアはレパーダの不満を聞いておきたいようだ。

「ふん、ふんふん。ははっ、酷いな」
「なんだよクリス!何て言っているんだ?」
「『私の背中にお酒を溢さないで』だってさ。来るとき三回も溢したんだって?」
「あー、すまん。する事なくて呑み過ぎた……」

そうこうしている間に、丘の下に騎乗したガインとミゲルの姿が見えた……
――――お別れの時間だ。

「逢えて嬉しかったよ、この世界に来てから初めての友達なんだ。色々ありがとう」
(ええ、狼さんとは仲直りできたみたいね)
「レパーダのおかげだよ」
(他に聞きたいことはない?)
「えーっと、サミアンはどうやったら人型に戻れるか分かる?」
(そうね、坊やのご両親はとても仲が良かったみたいね…… 似たような環境になれば自然に戻るわ)

それって、ガインと俺が仲良くすればって事だよね?
想像したら、顔が熱くなるのが分かった。
(ふふっ、きっと上手くいくわ)
「元気でね!また遊びに来てね!」
(ええ、勿論。困った時は強く念じてくれればいいわ)
「届くの!?」
(ええ、一度通じた相手なら)
「心強いね。道中も気を付けてね」
(ふふっ、ありがとう)

これだけは、きちんと声に出して伝えたい。
「こちらこそ、いっぱいありがとう」
俺はレパーダの鼻先に、チュッとキスをした。

あれ? ガインが口あけて、顔をひきつらせてる? 
ミゲル達も頭抱えてるし、どうしたのだろう?
この世界、挨拶でキスをしないのかもしれないな……マズった。

ライヒア達が背中に乗って、俺達が安全な場所まで移動すると、レパーダは白い大きな翼を広げた。助走もなく大きく羽ばたくと、突風が吹き、巨体がフワッと浮かび上がった。羽ばたく度にぐんぐん高度を上げて行き、そのままルーシアの方角に向け、飛び去って行った……

「寂しくなるな……」とガインが呟く。
「うん……」
俺は姿が見えなくなる迄、空を眺めていた……

館に戻る為、荷馬車に乗り込もうとしていた俺に、ガインが声を掛けてきた。

「クリス、サミアンとともに、俺の馬に乗れ!」
えっ? 荷馬車あるのに乗せて貰えるの?
でも密着するし、恥ずかしいなぁ…… 口から心臓が飛び出るかも!?

うだうだしていたら、ヒョイと片腕に抱き上げられ、そのまま騎乗させられる。
――どんな腕力してるんだ!?

今回はきちんと前向きに乗せられ、腹に片腕を回された。サミアンを抱いているから支えてくれるみたいだ……

背中とお腹にガインの温もりを感じて、心臓は破裂しそうなくらいバクバクいっているのに、不思議な安心感に包まれる。
「番」だからだろうか?
でももう、そんなことはどうでもいい気がした。俺は今、ガインの温もりを感じて幸せに思っている。それだけでいい……

館に到着すると、先にガインが馬を降りた。
下から手を差しのべられたので、先にサミアンを渡すと、待っていたノイにサミアンを預けた。
そしてガインは俺に向かい、再び手を差しのべた。

ヤバい……ドキドキする!!

何とか手を借りて馬を降りるが、動揺し過ぎてどうやって降りたのかわからなかった。

「ありがとう……ガイン」

ガインは、俺の手を握ったまま離さない……
…………え?離さない? 
手を引いてみるが、離してくれない?

するとミゲルが、ニヤニヤ笑いながら冗談を言った。
「ガインは、クリスのいた世界での「感謝の挨拶」をしてほしいんだろ?」

(俺の世界での挨拶??? まっまさか、アレ!?
ガインがそんなこと望んでいるわけないと思うけど……)

ガインは顔色一つ変えず、俺を見ている。だけどやっぱり、手は離してくれない……
俺はドキドキしながら爪先立ちで、背の高いガインの頬にキスをした。

――やっぱり違うよね……

そう思った瞬間、ガインの腕が俺の体に回り込み、胸の中に抱き込まれた。

「どういたしまして、クリス」

声に反応して上を向くと、チュッという音とともに、唇に柔らかい感触を感じた……

ガインがそのまま馬を引いて馬屋に行ってしまったので、真っ赤になって心臓バクバクさせてる俺だけがその場に残された。

――ガインという男は、俺の心臓に悪すぎる。


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