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第一章

34 ショボくてウザい

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宦官からイエスもどきのグリードに身柄を引き渡され、城に向かった。
白壁の城の内部は、色とりどりのタイルで飾られ、中東辺りの城を彷彿とさせた。
案内されたのは室内ではなく、城の上部にある、大きなバルコニーだった。
そこには二段程高くなった台座があり、台座の上に設えられた豪華な椅子には二十歳前後の若い男が着座していた。

「何をしておる!王太子殿下の御前であるぞ、頭を下げぬか!」

頭を下げる……どうやって?
片膝で怒られても困るので、両膝を付き三つ指を付いた。

「……面白い奴だな? どこの出だ?」

…………参勤交代スタイルは不正解だったようだ。
俺は改めて片膝を付き、頭を下げた。
(どうしよう……地名なんてわからないよ)
嘘をついても、つっこまれたら困ると思い、ここだけはリアリティを優先させることにした。

「ガレニアから参りました『クリリン』でございます」

――だが名前がふざけている事は否めない……

「ガレニア? 狼の子供を連れていると聞いたが、狼族の者か?」
「……いえ、ハグレでございます」
「うむ、面を上げよ」

顔を上げると王太子の顔がハッキリ見えた。
(……この人アルファだよね?……イケメン……風?)
なんだろう? ガインやグランドルと比べると見劣りする……
一応、威圧的なオーラは感じるものの、ひとことで言うと……『ショボイ』。
そんな俺の思惑など、知らない王太子は「どうだ、俺様はイケてるだろ?」って空気出してきてウザい。

「美しいな……グリードが大袈裟に言っているだけかと思ったが、これならば神子でなくとも私の妃に相応しい……」

それは困る。ガインという素晴らしい伴侶が居るのに、ショボくてウザい男の妃などなりたくない。

「恐れながら、私には既に伴侶がおりますゆえ、殿下の妃には相応しくありません」

「なに、番契約の解消など、私の手に掛かれば容易いことだ。クリリンは何も心配せずともよい。それに狼の子がお前の子でないことは分かっている。黒竜には、出産経験のある者は除外するよう申し付けているのでな」

改めてその名で呼ばれると、咄嗟にその名を名乗ったことが悔やまれる……
(他に無かったのか? 俺! それにサミアンが実の子じゃないのもバレてるし!)
そういえばグランドルが、ルーシアの魔術師は、番を解消させる魔術を使うと言っていた……
冗談じゃない! 俺とガインの契約を解消なんかさせない!!

「契約の解消は、後程正式に儀式を行うとして、その前に確認することがある、ニーノをこれへ」

王太子の言葉を受けて、従者の一人が角笛を鳴らすと、遥か遠くの丘から薄いピンク色のドラゴンが飛んできた。黒竜と同じくらいの中型のドラゴンだが、レパーダの様にツルッとした見た目をしている。
ドラゴンは羽をいっぱいに広げ空中に停止し、驚くほど静かにバルコニーに着地した。

「こんにちは、私はニーノよ」

頭の中に話しかけて来るが、ここで答えたら神子だとバレてしまう……
ドラゴンに罪は無いが、俺は聞こえないフリをした。

「どうだ? クリリンよ……ドラゴンの言葉は聞こえるか?」
「ドラゴンの言葉とは……?」

「ふふっ、聞こえているクセに!」
(ニーノちゃんはちょっと黙っててっ!!)

あっ、頭の中で会話してしまった!! っていうか、頭の中で嘘つくのは無理だよ!
俺はニーノちゃんを見つめた。
(レパーダと同じ真っ赤な目だ……)
「お母様を知っているの?」
(お母様? 君、レパーダの子供なの?)
「ええ、お母様のお気に入りがこんなところに居るなんて、何か事情があるのね? いいわ、今日はあなたが神子だと云うことは黙っていてあげるわ」

そう言うとニーノちゃんはフワッと浮上し、帰って行ってしまった。

「うむ、行ってしまったか……神子では無いようだな。お前が神子なら間違いなく正妃として迎えたものを……」

ニーノちゃんありがとう……
俺はニーノちゃんに心の底から感謝した。だって王太子ショボイし……
後宮の女性達も、ガインやグランドルを見たら考え直すよ、きっと。

とりあえず神子チェックも終わったし、今日はこれで後宮に帰れると思ったその時、身体に異変を感じた。
……なんでっ!! こんなところで来なくてもいいじゃんっ!?

「はぁ……はぁ……」
「ん? どうしたクリリンよ……」

そういえば、そろそろヒートが来るから子供を作る気がなければ、抑制剤を飲むように言われていた。
ここに無理矢理連れてこられて結局薬を飲めていないんだった!!

「あっ……うぅぅ……薬を……」

「ヒートか? 本当に番が居るのだな。……気に入らぬ、折角のフェロモンを感じぬではないか……」
そういえば、番契約をしたら相手以外はフェロモンを感じ取れなくなるんだったな……

よかった……俺、ガインのもので……

でもこのままじゃ、サミアンの元には戻れない。嫌だけどお願いするしかなさそうだ。

「はぁ……薬を……下さい……」

俺は立っていることもままならず、その場に崩れ落ちた。
そんな俺を王太子は、いやらしい目で見下している。
「欲情したお前は、これほどまでに美しいのか……? フェロモンなどなくとも掻き立てられる……」

(なにを掻き立ててるんだよっ!! しかも人前で!!)

床に座り込む俺の背中に手を回した王太子は、俺の顎を掴み、無理矢理唇を奪った。
(うっっ……気持ち悪ぅっ!!)
それは、尋常ではない不快感だった……
力の入らない両腕で押し退けようと必死に抵抗するが、調子に乗った王太子は、俺の口内に自分の舌を差し込んだ。
(だめっ! もう無理っ!!)
一瞬に力を集中させ王太子を突き飛ばす。
なんとか唇は離れたが、背中に腕が回されたままだ。
もうだめだ、間に合わない……

「うっ、うぇぇぇぇぇぇ」

「ヒィィィィッ!!!」

やっべぇ、王太子にかけちゃった。



でも、………ざまぁ。


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