獣人の子育ては経験がありません

三国華子

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第一章

33 ササキ

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俺達は、後宮の一画に連れてこられた。
ルーシアはあの黒いドラゴンを使い、周辺諸国から年若い人間の女とオメガのみを攫っているらしく、ここに集められた人間は、望まずしてここを訪れた者ばかりだ。

「タミアンちゃんは何歳?」
「にたいでちゅ」
「きゃー可愛いー!!」

拉致被害者は悲壮感に溢れているかと思いきや、意外な程明るくて、サミアンは彼女達のアイドルとなった。

「ねぇ、あの人達、攫われて来たのに、なんであんなに危機感ないの?」

「ここは食べ物美味しいし、王太子の側室になれるかもしれないんだよ! 番でも居ないかぎり帰りたいとは思わないよ」

俺の周りにはオメガの男達が集まってきた。オメガは男女問わず黒い革の首輪を付けられているのですぐに分かる。俺もここに来る途中で装着されたけど、お揃い好きのサミアンが、自分も欲しそうにしていたので、元からしていたスカーフで隠した。

自分以外のオメガを初めて見たけど、男も女もみんな小柄で可愛い。
俺も転生した時、オメガになったから、小柄になったのかもしれない。

だけど連れ去られた人が酷い扱いを受けていないことが分かって、ちょっと安心した。
何も知らない家族は心配していると思うから、こんな強引なやり方を認めるわけにはいかないけど……

「僕はラケル、君の名前は?」
「えっ、あっ、クリ……リン?」

(やっばっ、フレンドリーだから普通に答えそうになっちゃった!)

「クリリン? 変な名前だね……」
(咄嗟だったとはいえ、俺もどうかと思うよ……)

「変な名前と言えば、あそこにいる『ササキ』は、ここに来てからずっと青い顔してるんだ」

あそこと言われた方を見ると、顔色の悪い男が一人で膝を抱えていた。
(『ササキ』って……もしかして日本人?)
俺はお姉さん達からサミアンを回収して、ササキの元に向かった。

「こんにちは、ササキさん」
「……………どうも」
(愛想わるっ!!)
ササキは茶色の髪と瞳の綺麗な男だった。
「俺、昨日拉致されて来た『クリリンです』」
男は不審者を見るような目で俺を見上げ、ボソッと呟いた。
「………けっ、ドラゴン○ールかよ?」
小声だったが、聞き逃さなかった。間違いない!この人日本人だっ!!

「ササキさんはいつからここに?」
「お前、なにモン? もしかしてスパイとか? 俺、本当に神子の行方なんて知らねぇよ」

何か、とても嫌な事あったみたいで、ササキは完全に人間不信になっているようだった。

「ササキさん異世界人でしょ?」

ササキは目を見開き驚きを露にした。
「なっ、なぜ知っている!!?」

ササキは愛想悪いし、信用できる人かどうかは分からない。俺は自分の身の上は隠して話を進める事にした。

「話に聞いたことがあるから……異世界人は変わった名前だって…… で、いつからこの世界に?」

ササキは俺を疑っているようだったが、他に相談相手もいないのか、ポツリポツリと話し始めた。

ササキは俺と同じ五か月程前に、この王宮に転生したようだった。
最初は『神子』と呼ばれ、持て囃されたが、ドラゴンと話が出来ないと分かると、徐々に扱いが悪くなった。
ササキを召喚した魔術師が調べ直したところ、ササキ以外にもう一人、同時に転生していることが分かり、そこから毎日、犯罪者のように尋問されたようだ。

―――話を聞いて更に「神子、俺だよ」と言いづらくなった。

「タタキタン、かわいとうでちゅ」

一緒に話を聞いていたサミアンが目を潤ませると、ササキは急に優しい顔になった。

「……ふっ、誰が『タタキタン』だよ…… 俺は巻き込まれてこの世界に来ちゃったけど、自業自得って云うか…… むこうの世界では、俺が巻き込んで、相手殺しちゃったみたいだから……」

………こいつっ!あの暴走トラックの運転手かっ!!

ひとこと言ってやりたいけど、俺の転生に巻き込まれているわけだしなぁ。死ぬのは一瞬だったけど、この人はこの世界で、ずっと生きて行かなきゃならないんだもんなぁ。
そう考えると逆に申し訳なくなった。ここにいる間は食うには困らないだろうけど……

「そういえば、神子じゃないと分かって、なんでここに居られるの?」

「肝心の神子が見つからないし、可能性がゼロってわけじゃないからな…… みんな定期的にドラゴンの前に連れていかれるんだ。ここの奴ら神子探しに必死でさぁ、特に王の側近のグリードって云う髭面のおっさん! あいつには気を付けろよ!」

髭面のおっさんには覚えがある。きっと昨晩会ったイエスもどきだろう。ササキは、意外といい人みたいで、サミアンと楽しそうに話し始めた。

「子供、好きなの?」
「ん?……ああ、まあな。……それに、俺が殺しちゃった奴に『もし子供でもいたら?』って思うとな……」

(いたよ……もう大きいけど……)

ササキは本当にいい人なのかもしれない……

「……ササキさん。もし、俺に何かあったらここにいるタミアンを頼めるかな? きっと狼が迎えに来ると思うから……」

「何か……あるというのか?」

「もしも……だよ。それにきっとササキさんの事もきっと何とかしてくれる。だから俺を信じて何かあった時はタミアンをお願い」

「……分かった」

ササキは真剣な眼差しで頷いてくれた。
俺は不安そうなサミアンを撫でながら、ササキに微笑みかけた……

その時一人の宦官が、俺を呼ぶ声が聞こえた。
「昨晩、黒竜により連れてこられた者はおるか? 王太子殿下がお呼びである。速やかに前に出よ!」

「おかあたま……」

サミアンは、一緒に行く気満々で、俺の手を握った。
取り敢えず味方もできたし、他の女性もサミアンに好意的だった。
サミアンはここにいた方が安全だろう……
それに神子だとしても嫁候補なら後宮に戻るしかないだろう。

「タミアンはここで待ってて、大丈夫、必ず戻って来るからね!」


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