獣人の子育ては経験がありません

三国華子

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第一章

32 無用心

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「サミアン! しっかり掴まってろ!!」
左脚にしがみつくサミアンを右脚で挟み、なんとか手の届く高さまで持ち上げると、胸まで一気に引き上げた。肩に鉤爪がくい込んで、腕が痺れるが、大事なサミアンを落とすわけにいかない。腕がプルプルしても我慢だっ!

「おかあたまぁぁ」
「まだ泣いちゃ駄目だ! 俺の首に手を巻き付けて!」

片手でサミアンを支えながら、腰にグルグル巻き付けられたサッシュベルトを緩め、サミアンと自分の体をキツく縛り付ける。
それでも不十分で、ずり下がるサミアンを必死に腕で支えるが、長くは持ちそうにない。

「サミアン、獣化できる?」
「……こわいでちゅ」

獣型だと、しがみつく事ができなくなる……でも重さは半分以下だ。
どういう仕組みか分からないけど、サミアンの場合、獣型の方がだいぶ小さい。ガインは逆に獣型の方が重そうだが、大人と子供の違いだろうか?
ただ今は、少しでも軽い方がいい。

「サミアン、絶対支えるから! 頑張って!」
「うぅぅ……がんばりまちゅ」

サミアンの体がじんわり温かくなり、獣化していく……
サッシュベルトの布を袋状に広げ、サミアンを脱げた服ごと包み込み、きつく縛り直した。

「ふう……」

これで万が一腕が離れても、サミアンだけ落ちることは無いだろう。
「おかあたま……」
袋状になっていて安心感があるのか、サミアンはだいぶ落ち着いたようだ。
俺もだいぶ楽になった。
改めて下を覗くと、地上は遥か遠く、ジオラマでも眺めているかの様な風景が広がっていた。
鉤爪四本で宙吊りと云う心許なさが恐怖でしかない。


その状態で一日中飛んでいた。
思ったより長旅だった……
飛行機だったらアメリカ本土まで行ける……
鉤爪の痛みと寒さで、気が遠くなりそうになった。
サミアンを抱いて居なかったら凍死したかもしれない。

外が暗くなり「今頃ガインは館に戻ったかなぁ? 俺たち居なくてビックリだろうなぁ?」なんて思っていたら、ドラゴンが急に降下を始めた
(うわっ、すごい!)
一帯は無数の光で照らされていて、大きな街だと分かる。大外の外壁の内側には、更に街の様な賑やかな場所が広がり、幾つかの壁を隔てた中心に、デカイ白壁の城があった。

ドラゴンは、城の敷地内の広大な庭園で高度を下げ、地上から五メートル付近で突然、拘束を緩めた。

(待って!? 結構高いよ!)
「うっぎゃぁぁぁ!!!」

足から落下し宙吊りで感覚を失っていた両足に、激痛が走る。そのままゴロゴロ転がり停止すると、頭を強打したようでクラクラした。

「ほう? 意識があるのか?」

頭上で誰かの声が響き、何とか薄目を開けて確認すると、つま先が上を向いた、変な形の靴が見えた…… 

顔を上げ確認すると、そこに居たのはだった……
茶色い長い癖毛に、長い髭……
一言で言うと「イエス風」の男だ。

「これは…美しい……これならば神子でなくとも、王太子殿下もお気に召すだろう…… 名をなんと申す?」

(『神子』? うーわ、完全にルーシアじゃん? どうするのが正解? アホみたいに名乗ったら駄目だ。俺でもそれくらいは分かる……)

「動揺しているのか? まあそうだろう。突然ドラゴンに運ばれたのだからな。あの黒いドラゴンは、百キロ先の人間でも見つけ出す……人間の波動を見分けるのだ。それより懐のそれは何だ? さっきから、もぞもぞ動いているが?」

サッシュベルトで作った袋の中で、サミアンが暴れている……
袋の上から抱き締めて、宥めるが、サミアンは、ピョコっと顔を出してしまった。

「おかあたま?」

(無用心~!!! お子様だから仕方ないけど、警戒心が無さすぎるよ!)

「獣人の子か? ………犬の?」

サミアンは、袋から飛び出し人化した。
「おおかみでちゅー!!」
(あーっ!!)

目の前の可愛いお尻を眺めながら、「マズイ」と思った。サミアンの正体を知られて引き離される訳にはいかない!
なのに……

「名を名乗れ!」

「タミアンでちゅ!!」

(アホみたいに名乗ってるー!?)

サミアンは俺を振り返りドヤ顔をした。誉めてもらえると思っているんだよね…… うん、バカな子ほど可愛いよ……

俺は痛む体を無理矢理起こし、サミアンに服を着させた。こんな可愛い裸は、こんなイエスもどきに長々と見せてやるには惜しい。

「ありがとうございまちゅ、おかあたま」

俺はサミアンを抱き締め、耳元で囁いた。
「サミアン、喋っちゃ駄目だよ。狼族の総長の子だとバレたら俺と一緒にいられなくなっちゃうよ」

サミアンは、ハッとしてしょんぼりと耳をへたらせた。
「ごめんなちゃい……」
「大丈夫、俺が絶対守るからね」

本当は確証なんてない。
だけどサミアンを動揺させておいては、助かるものも助からない気がした。

「何を勝手なことをしておる?『タミアン』とやらは、其方の子か?」

「はい、は私の子です。タミアンに何かあれば、この場で命を絶つ覚悟です。どうかご慈悲を……」

「まあよい……この者達を、他の人間どもの元へ連れて行け、追って取り調べを行う」

ホッと胸を撫で下ろす……
今すぐサミアンと引き離されることだけは回避できたみたいだ。



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