獣人の子育ては経験がありません

三国華子

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第一章

31 幸せを壊すもの

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昨晩クリスは俺の子供を産む覚悟をすると言っていた……
自分がオメガだと分かったばかりのクリスにとって「覚悟をする」だけでも、大きな決断だっただろう…… 

クリスは不思議な男だ……
他人から見たクリスは、美しい見た目に反して、なぜだろう……「色気が無い」ようだ。
俺はどんなクリスも可愛く思っているが、ノイやミゲルに言わせると「色気が無い」らしいのだ。
確かに色っぽいムードの時にペラペラ喋り出したり、口淫された後に仔犬のように顔を舐めてきたりと不思議な行動も多いので、ミゲル達の言っている事も何となく理解できる。
だがクリスには、肝心なところで俺のツボを突いて来る破壊力のある色気があるのだ。それが、異常に感じやすい身体と相まって発動されると、俺も呆気なく果ててしまう。
誰にも教えてやるつもりは無い。

俺しか知らないクリスの秘密だ……

クリスとサミアンとまだ見ぬ我が子との未来を思い、とても安らかな気分になった。数か月前には想像も出来なかった幸せな未来だ……

総長として狼族の安泰を願ってきたつもりだが、家族を持つ身となって、その責任の重さを改めて実感する。
争いのない平和な時間が、少しでも長く続くようにと願った……



 ~~~~~~~~~~


朝食の為テラスにいると、乳母に連れられてサミアンがやって来た。

「おかあたまー!!」

目を潤ませて駆けて来るサミアンのテンションが、たった一晩離れていた人のものではなかった。

衝撃に備え腰を低くして身構えるが、サミアンの勢いが勝る!
「ぐふぅっ!!」
今日は鳩尾に頭突きをくらった。

「あいたかったでちゅ!おかあたま」
「俺も逢いたかったよ、サミアン」
痛いけど、こんなに尻尾を振られると、可愛くて仕方がない。
俺の顔を見て、甘えモードに戻ってしまったようだけど、サミアンは卵と共に、無事に朝を迎えたようだった。

「テレチュティオも、うれちとうにピカピカちてまちた」
「テレチュティオ?」
「ちがいまちゅ!『テレチュティオ』でちゅ!」

――――違いがワカラン。

試しに「タ行」を「サ行」に変換して聞いてみる。
「………『セレスティオ』?」
「とうでちゅ!」

どうやら卵に名前を付けたらしいけど、よりにもよって「サ行」が多い……
ノイの話だと、童話に出てくるドラゴンの名前らしい。ルーシアの黄金竜をモチーフにした物語で、世界中の子供に読まれているらしい。
(俺も文字の勉強がてら、読んでみようかな……)
言葉は通じるのに文字が読めないと気が付いたのは、寝室でガインが本を読んでいる時だった。こちらの文字は、強いて言うならアラビア文字に似ていて、俺にはサッパリわからない。せめてサミアンに、絵本の読み聞かせくらい出来るようになりたい。

「おかあたま、きょうもつやつやでちゅね」

(やっぱり?)

俺はエッチな事をすると、幸せオーラを隠せない体質らしい……
余程艶々だったのか、今朝はガインが中々離してくれなかった。
なぜか頭をナデナデされ、顔中にキス……それを愛おしそうに何度も何度も……。恥ずかしくなって「止めて」って言ったら、分かりやすくケモ耳が下を向いた。

「おとうたまは、まだでちゅか?」
サミアンが、キョロキョロとガインの姿を探す。
「フフッ、忘れちゃったの? ガインは元首に呼ばれて首都のラピヤに行くって前から言ってたでしょ? 朝から夕方まで移動しても往復で三日かかるからって、もう出かけちゃったよ」

サミアンは驚きで、一瞬毛を逆立てるが、言われた事を思い出したのか、耳と尻尾をぺしゃんと垂らした。
「わちゅれてまちた……」
「明後日の夜には戻って来るよ、それまで俺と、いい子にお留守番しようね」
「はい……おかあたま……」

ルーシアの人間狩りの件もある。ガインは自分が不在の間「決して館の敷地から外に出るな」と言って、出かけていった。


 ~~~~~~~~~~


ノイに文字を教わりながら、サミアンと絵本を読んだりして楽しく過ごし、三日目の朝を迎えた。

何事も問題なく、ガインを迎えられる筈だった……

朝食を済ませ、庭でサミアンと遊んでいると、突然上空にドラゴンが現れた。
それ自体は珍しい事じゃない。レパーダが卵を産んでから、館の上空でもよく見かける。

だから何も不思議に思わなかった。
―――降下してくる迄は……

それは、禍々しいオーラを身に纏った黒いドラゴンで、一般的なドラゴンよりは大きくレパーダよりは小さい中型のドラゴンだった。

レパーダや他のドラゴンと違い、目の荒い鱗に包まれ、頭から背中にかけて、ツノの様な突起が生えている。

―――直感で「これは俺達の幸せを壊すモノだ」と感じた……

慌ててサミアンの上に覆い被さると、背中にドンッと大きな衝撃を受け両肩の付け根と、腰骨辺りに強い痛みが走った。そのまま後ろに引っ張られるような強い力を感じると、俺は宙に浮いていた。
慌ててサミアンを手離す。
しかし、サミアンは俺を助けようと、脚にしがみついた。

「離してっ!! サミアン!!」

「おかあたまっ!!」

一瞬の出来事だった……
あっという間に高度が上がり、落ちたら怪我どころの高さではなくなってしまった……

「サミアン!! 絶対に手を離すなっ!! 下も見るなっ!!」

「ふぇぇぇ……おかあたまぁ……」

どうやら俺は背後からドラゴンの鉤爪に掴まれているようだ。
肩にくい込む爪は、肌を突き破るほど鋭くないけど、ゴルフボールくらいの先端に、全体重を吊られている感じで強い痛みを感じる。

どこにつれて行かれるのか分からない……
だけど、とにかくサミアンの安全を確保しなければならない……


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