獣人の子育ては経験がありません

三国華子

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第二章

45 ステキ大作戦

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「おいカート。この法案が現行法に触れないかチェックしてくれ。問題があれば、改正せねばならん。見落としの無いようにな」

「はーい任せて。俺、最新の通達まで全て頭に入っているから」

カートがガインの執務室を出ていくと、難しい顔で眺めていたグランドルが口を開いた。

「狼は一夫一妻じゃなかったのか? なんだあいつは?」

「俺にはクリスしかいない。何を言っているんだ?」

何事もなかった様に仕事を続けるガインを眺めながら、グランドルは、頭を抱えた。
カートは法律に精通している。
自国のみならず、他国の法律にも詳しく、法改正を進める今、一番必要な人材だと云うことは分かる……
だが……

「お前の為じゃなくクリスの為に言わせてもらうが、もし俺のハーレムにカートが入ったら、間違いなく、ひと悶着起きるぜ」

「オメガは皆、あんなもんだろう? 少なくとも俺の周りはそうだった。いちいち、目くじらを立てていてはキリがない」

「正気か? まさかクリスの前でもあんなにイチャイチャしているのか?」

冗談のつもりで言ったグランドルだったが、ガインは目を見開き、仕事の手を止めた。

「……イチャイチャしているように見えるのか?」

「マジか!? クリスは何も言わないのか!? 落ち込んだり……」

「………いや、むしろ元気だ」



その頃クリスは……

「おかあたまー、今日もつやつやでちゅねー」
「ふふっ、ありがとうサミアン」

ふっふっふっ。俺の艶々はエッチのおかげじゃないんだぜ!
モデル仕込みのフェイスケアで、隈も無くなって完全復活だ!

ついでに伸びっぱなしの髪は、揃えてひっつめて、地味顔を全開にしてみたよ!

「おかあたま!タミアンもおとろいにちてくだたい」

獣人の髪は、個人によって一定の長さが保たれるので、切る必要はない。
獣化する時邪魔になるから、ノイみたいに滅多に獣化しない人以外は、伸ばしっぱなしなのだ。
サミアンは、ずっとふんわりボブだから、お揃いにしてあげたいけど長さが足りない……

「サミアンは、その髪型が一番可愛いいよ。その代わりリボンでお揃いのコサージュ作ったよ。一緒に付けようね」

「ふぁぁ、可愛いでちゅー!」

俺流、服のアレンジは狼族で流行ったけど、城には色んな種族が居るから、国中に広められる筈だ。
名付けて「狼ステキ大作戦」
まずは、民衆の心を掴むのだ!


「よし!サミアン。大きい庭に行こう!」
「はい!おかあたまっ!」

大きい庭と云うのは、俺たちが暮らす旧後宮の庭ではなく、城に隣接する庭だ。城で働く人々に解放されているので、昼時は、サラリーマンが集う日比谷公園のように、色々な種族が集まるのだ。


「クリス様、サミアン様お散歩ですか?」
「ダグラスさんこんにちは! 今日は天気が良くて気持ちいいね」

いつも散歩していたら、みんなと仲良しになっちゃった。
サミアンとノインの可愛さで、仲の悪かったヒグマ族の人も、気さくに話し掛けてくれるようになったし、先輩ママの貴重な話も聞ける。

「ステキ大作戦」の一環として始めた散歩だけど、思わぬ収穫がたくさんあった。サミアンとノインにとっても、小さい頃から他の種族と交流を持つのはいい事だと思う。
ガレニアは一つの国なのだから……



ガインとグランドルは、その様子を執務室の窓から眺めていた。

「おいおい……クリス達、ヒグマと話してるけど、大丈夫なのか?」
「ああ……いつも楽しそうに話している。お陰で、ヒグマ達の俺に対する態度も軟化した……」
「……クリスは、こんな朴念仁には勿体ないな……」
「……もっともだ。俺達も庭にでてみるか?」


二人が庭に出ると、クリス達の周りには人だかりが出来ていた。全ての種族が笑顔で楽しそうに話している……
狼族の時も驚かされたが、クリスの人を惹き付ける魅力は、種族間の壁を越える。
その美しさで魅了するだけでなく、気が付いたら心を開かれてしまうような、不思議な力を持っているのだ。

「ガイン!外出るなら僕も誘ってよー」
しかし、間が悪くカートがやって来てガインの腕に絡み付いたところで、クリス達もこちらに気が付き顔を上げた……
美しい微笑みを浮かべるクリスだが、その前に一瞬だけ悲しそうな顔をしたのを、ガインは見逃さなかった。

 ~~~~~


「ガイン達もお散歩?」

(カートも一緒に?)
ガインに悪意が無いのは分かってるけど、やっぱりベタベタされるのは見たくない……
でもそれより許せないのは「ガインの伴侶、大したことない」って思われる事だ!!

「カートもお疲れ様、お仕事大変だね」

だから敢えて余裕たっぷりに振る舞ってやる!
モデル歴20年の人心掌握術をなめんなよ!
しかし意気込む俺は、思わぬ肩すかしをくらった。

「えっ?クリス? この前と全然違う! 超キレイ!」

(えっ?)

カートは、ガインの腕をポイッと放して、俺の腕に絡み付いた。
「そのコサージュも可愛いね!どこで買ったの?」
「おかあたまの手作りでちゅ」
「どうやって作るの?後で教えて!」

「……うん。いいけど……」
(「ステキ大作戦」こんな奴にまで効果を発揮??)

「ありがとう、クリス!」
カートは俺の頬にチュッとキスをした。

「なっ!?」
ガインの顔色が変わり、思わず声が出た。
(隣のグランドルは、めっちゃ笑ってるし……)

慌てて俺に駆け寄ったガインは、俺に絡み付くカートを押し退けると、俺をギュッと抱き締めた。

「……俺は、またお前に嫌な思いをさせていたか?」
「……ちょっとね。でもガインを信じているから」
「お前は辛い顔を見せないのだったな……何でもプラスに換えてしまう…… だがそれで俺の態度が許されるとは思っていない。すまなかった。お前だけを愛しているぞ、クリス」

ガインは抱擁を少し緩めると、俺の唇にチュッと口づけた。


「クリス様、ラブラブだな!」
ヒグマ族のダグラスさんから声が上がり、周りからもヒューヒューと冷やかされる。
(うわっ! 恥ずっ!!)
でも庭にいるみんなが、笑顔で俺達を見守っていた……

目の前でラブラブぶりを見せられて、ムスッとしたカート以外は……

みんな、今まで遠巻きに見るだけだった新元首ガインにも、親近感が湧いたようだ。


「狼ステキ大作戦」は予想外の大成功を収めた。
狼族の好感度は城で働く人達から徐々に上がっていき、ガインを支持する声も増えていった……

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