獣人の子育ては経験がありません

三国華子

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【外伝】

ライガーと麗しの剣士 7 ※

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「チッ、うるせぇ!」

普段のドレンだったら副大統領であるグランドルに対し、こんな失礼な態度はとらない。

――理性を失っているんだ。

だが、シンはグランドルにはもう頼らないと決めていた。今この部屋にグランドルが入ってきたら、シンのヒートに反応してしまうだろう。
愛する者の為にハーレムを解散したグランドルに、これ以上ヒートの相手はさせられない。
――誰か他の奴が騒ぎに気づいてくれればいいのだが……

シンが声をあげずにいると、ガチャリと音を立ててアッサリとドアが開いた。

――鍵、開いてんのかーい!

グランドルは部屋に入るなり、寝台の二人を見て目を見瞠った。
部屋にはドレンのフェロモンが充満している上に、どうにも言い逃れできない態勢だ。
自分以外のアルファのフェロモンは不快なのか、グランドルは顔をしかめ、鼻を塞いだ。

「熊くせぇ……」

「邪魔をするな、誰であろうとシンは渡さん!」

興奮したドレンのペニスからググッと圧がかかり、ヒヤヒヤするシンが視線をそちらに動かすと、つられてグランドルの視線も二人の股間へと移動した。
最悪な事にヒートの熱が覚めやらずシンのペニスは上を向き、ドレンのペニスは蕾に押し当てられたままだ。

「邪魔をしたか?」

いつもの軽い口調に少しホッとしてグランドルの顔を見ると、金色の瞳を光らせ、これでもかと云う程、眉間にシワを寄せていた。

――めちゃくちゃ怒ってる?

シンは「なんかヤバイ」と思ったが、理性を失い気が大きくなっているドレンは、空気を読まず息巻いた。

「邪魔だ!早く出ていけ。それともこのまま見学うっ……」

ドレンの言葉を遮るように、ビシッと空気が張りつめた。

グランドルが『威嚇』を放ったのだ。

「熊、お前には訊いていない。シン、お前に尋ねているんだ。なぜ黙っている?」

――こんな威嚇を放たれたら口唇ひとつ動かせねぇよ!

だがお陰でドレンのペニスは勢いを失くしたようだ。
身動き取れない状況で、そこだけが萎んでいくというシュールな姿に、男として同情せずにはいられないが、最大の危機を脱した事に、ホッと胸を撫で下ろした。

「……く、薬を……」
威嚇によって身動きのとれないシンは、床に転がる注射器に視線を向け、かろうじて意思を伝えた。
――今回は取り敢えず過剰摂取してでもこのヒートを抑えるしかない!

「ドレン、部屋を出て行くのはお前だ。尤もそのフニャフニャのイチモツではもう何もできんと思うが……」

「くそっ、あ、いや……すいません口が過ぎました」

グランドルの威嚇で理性を取り戻したのか、ただ格の違いを見せつけられて正気に戻ったのかは分からないが、ドレンは頭を抱えてフラフラと部屋を出ていった。

――ちゃんとチンコしまえよ……

ドレンが自分と関わったせいで、グランドルに目をつけられた上、変質者扱いされたらあまりにも憐れだ。

――それより、早く注射を打たなければ手遅れになってしまう。

ドレンが部屋を出る前に威嚇は解かれた。シンは身体を引き摺るように注射器に手を伸ばした。

だが、グランドルは何を思ったのかダンッと大きな音をたて、床の注射器を踏み潰してしまった。金属製の外筒がひしゃげ、中の薬液がカーペットを濡らす……

「何をするっ!?あぁ、薬が」
「どういうつもりだっ!なぜ奴を部屋に入れた?」
「そんなのどうでもいいだろ?注射器それしかないのにっ!」

シンの言葉にグランドルが眉を吊り上げる。

「どうでもいいだと? いつも通り俺に抱かれればいいだろう? 熊野郎には抱かせるのに、俺とは命を縮めて薬を使う程、嫌なのか?」

――どうしてそうなる!?大体「俺に抱かれればいい」ってなんだよ!

グランドルはシンの首筋に鼻を突っ込みクンクンと匂いを嗅ぐと、上目遣いでシンを睨んだ。

「気に入らねぇ。お前の匂いに混じって熊の匂いがする」

「うっ……」

グランドルはドレンの匂いを掻き消すように、自らのフェロモンを放った。
ドレンへの嫌悪感とグランドルの威嚇で、シンのフェロモンは下火になっていた。だが、グランドルの匂いに呼応して一気に体温が高まり、自分で自覚できる程大量のフェロモンを放出してしまう……

「あ……そんな……」

フェロモンが部屋を満たし、混ざり合う……

――ああ、この匂いだ……俺が欲しかったのは……

ヒートの熱に侵され、理性がどんどん薄れていく……

散々世話になったグランドルには愛した人と幸せになって欲しい。
――ハーレムを解散しても、俺が世話になっている限り、相手には誠意が伝わらないかもしれない……

シンは、最後の理性を振り絞って、グランドルを押し退けた。


「……嫌だ。ヤりたくない」

「なんだと!?この期に及んで俺を拒絶するのか?」

――違う、そうじゃない。俺はお前の為に……

朦朧としてくる意識に、否定の言葉は声にすることなく飲み込まれた。無言のシンに逆上したグランドルは、シンの後頭部を乱暴に引き寄せ、口を塞いだ。

「んんっ……ふっ」

それだけでシンの身体は、電気を流されたかのように大きく跳ねた。
いつのまにかペニスが腹に付きそうな程反り返り、先端からトプトプと蜜を溢れさせている……

グランドルはそのままシンを押し倒すと、間髪いれずにシンの身体を貫いた。

「ふぁぁっ!!」

「狭いな……熊のペニスじゃ満足できなかったんじゃないか?」

――なんで……?

金色の瞳に一筋の瞳孔が光った。獣化していないので冷静さを欠いていないかと思われたグランドルは、人の姿を保っているだけの獣のようだった。

――いや……今獣化したら噛み殺しそうだから、必死で人型を保っているのか?

パンパンと大きな音を立て、グランドルの腰が、打ち付けられる……
その衝撃の大きさに、シンは今まで如何に手加減されていたのかを思い知った。

「……あぁっ、はぁうっ」

後退るシンの身体を逃がすまいと、グランドルはシンの両腕を掴み離さない。

暴力的で酷いセックスだというのに、シンの身体は快感のみを拾う……
不本意ながらもイきっぱなしになり、真っ赤に充血したペニスからは白濁した蜜を撒き散らした。

「随分良さそうだな? お前は乱暴にされるのが好きなのか?」

「……ちが……」

グランドルは質問に答える間も与えず、中の感じるしこりに狙いを定めて角度を変えた。

「ひぃっ……ぁ」

すでに絶頂の中にあるシンに、脳天を貫くような凄まじい絶頂が訪れる……
白濁を出し尽くしたシンのペニスは、大量に透明のサラサラした液体を噴き上げた。

――マジ?……俺が潮吹くとか!

自分でも信じられない光景に、一瞬だけ素に戻ったシンは、圧倒的な力で無理矢理メスにされたようで、グランドルに怒りを感じた。
しかしグランドルのペニスが更に硬度を増し、中に熱い飛沫を打ち付けられると、諦めに似た虚しさだけがシンの心を襲った。
中に出されたのは、初めてのヒート以来だった。子供が出来ないとはいっても、後始末やら何やらで負担も大きく、グランドルはずっと気遣って外に出していた……
今は、その優しさも感じられない。

――馬鹿野郎、なんか勘違いして突っ走りやがって……大体他に本命がいるのはお前の方だろ!?

あまりの理不尽さにグランドルをキッと睨み付けたシンだったが、その表情を見た途端、ビクッと身体を震わせた。

――なんで!?

グランドルの顔には怒りなど微塵も感じられなかった。
そこにあったのは、シン以上に絶望を味わったかのような、悲壮感に満ちた男の顔だった。

「……くっ」

グランドルはズルズルと大きなペニスを引き抜くと、それを浄める事もそこそこに、服を身につけて部屋を出ていった。

――どうしてお前がそんな顔するんだよ!

シンは理解不能なグランドルに腹を立て、出ていった扉めがけて枕を投げつけた。



それから、毎日のように顔を合わせていたグランドルは、シンの前に姿を見せなくなった……


 * * *


「シン、お茶の用意して」

何やら調理場で、白い粉と格闘していたクリスは、顔を粉だらけにしたままテラスにやって来た。

「もうそんな時間か?よし、サミアン、ノイン手ぇ洗ってこい」

子供たちと稽古をしていたシンは、調理場へお茶の準備に向かった。

「ノイご苦労様だね」
「シン~、クリス様のお菓子造り何とかしてよ。完成品は美味しそうだけど途中経過が……」

クリスは最近お菓子造りにハマっている。だが何故か造り終わった後の調理場は、いつも竜巻が通過したのかと疑いたくなる惨状だ。

――出来上がったお菓子が普通に旨いのが、更に謎……

「片付けは後にしたら?ノイの分もお茶入れておくし」

「うん、ちょっと片付いたらすぐ行くよ~」

シンはお茶セットをワゴンに載せ、テラスに向かった。
テーブルの中央にはバターの香りの焼菓子が、相撲部屋の食事の様に山盛りになっていた。
――獣人の量だと仕方ないのかもしれんが、上品な焼菓子が安っぽく見える……
最近特にノインはよく食べる。止めなければ、ここにある量なら一人で食べきるだろう。

「これ何?」
「今日は、なんとフィナンシェです!」
クリスはどうやらアーモンドに似た植物を見つけたらしい。味覚が優れているのか、色や形が違っても、同じ味の食物を見つける事に長けている。お陰でシンは、慣れ親しんだ味を口にすることができて、とても助かっていた。

「フィナンシェ好き?」
「ああ、結構好きだ」

「…………食べないの?」
「……ん」

シンは美味しそうなお菓子を前にしているのに、なぜか手が出なかった。

「最近、食欲なくてな。昨日の夜も戻しちゃったし……」
「えっ!?何で早く言わないの?稽古なんか休んでゆっくりしていればいいのに!」

シンはここ一週間程、原因不明のダルさを感じていた。微熱が続き、吐き気が酷い。寝れば治るかと思い、夜は早めに床につくようにしているが、少しも良くなる気配がなかった。

「シン、前のヒートはいつだった?」

どこから話を聞いていたのか、いつの間にかやって来たノイが、フィナンシェを頬張りながら話し掛けてきた。

「ヒート?二週間程前だ。薬も飲んでるし、次のヒートはまだだいぶ先だぞ」

「その時、誰かとセックスした?」

「ブッ」

こっちの世界はヒートがあるせいか、この手の話はオープンに話す。子供の成長が早いので、自然と受け入れられるようになのか、子供の前でもお構い無しだ。
クリスの性生活について当たり前に話す事には慣れたが、自分の事となると話は違う。
シンは思わずお茶を吹いた。

「……シン?」

挙動不審のシンをクリス達が覗き込む……
子供達にまで澄んだ瞳で見つめられ、いつもクリスの話を訊いているのに自分が嘘をつくのは気が引けた。
シンは仕方なく苦い顔でボソッと呟いた。

「……した」

「えー!シンは抑制剤でヒート抑えているんじゃないの?」

シンの事をバリタチ認定していたクリスは、真っ黒で大きな瞳をパチパチさせて驚いている。

「薬の効きが悪い時だけチョットな」

「チョットって何だよ」と心の中で自分につっこむ。
――出来ればあまり知られたくなかった……
クリスもシンに、どう声をかけたらいいのか分からない様子で、変な空気になった。

だがここで、空気を読めないノイが両手をパチンと打って更なる爆弾を投下したせいで、変な空気はそのまま凍りついた。

「妊娠ですね~。おめでとうございます!」

シンとクリスは言葉を失い固まった。
サミアンとノインは何を期待しているのか、目をキラキラさせて尻尾を出している。
だがシンは冷静に思い返し、その可能性は無いと思った。

ドレンは入れる前だったし、グランドルは子供がつくれない体質だ……

「……その可能性はないと思うが」

「そんなの分かんないよ!避妊したって百パー安全とは限らないんだよ!」

何も知らないクリスはそう言って目くじらを立てるが、理由を話すのは相手のプライバシーにも関わるので憚られる。
黙り込んでいると、クリスはシンの腕を掴んで立ち上がらせ、強引に医師のところに引き摺って行った。


医師が違うと言えばクリスも納得するだろうと大人しく診察を受けたシンだが、医師の言葉に再び凍りつくことになった。

「おめでとうございます。ご懐妊です」

「はっ!? 何かの間違いじゃないのか?」

「間違えようもありません。僅かですがもう心音も聞こえますよ」

――なんだって!?

「おめでとう!!シン!!」

後ろからクリスに抱きつかれるが、シンは固まったまま動けない。

――馬鹿な!あいつ種無しじゃなかったのか!? それとも俺が気づかぬ間にドレンは、俺の中に射精したのか?

なにがなんだか分からない……
――もしグランドルの子だとしたら、本人が信じるのか……?

「クリス……誰にも言わないでくれ」

「はっ!?何言ってんの?おめでたい事なのに!!」

「……父親がわからん」

「えっ!?……はいっ!? どういう事?」

クリスが戸惑うのも無理は無い。
だが、当の本人が一番戸惑っている。
――父親が分からない上に、本当に男の俺に産めるのか……?

現実を受け止めきれず途方に暮れていると、見かねたクリスがシンにつめよった。

「シン、説明してもらうよ。獣人は妊娠期間も短いし子供が出来にくいから、堕胎という選択肢はない。ノインを見たら分かると思うけど、人間と獣人の子は、まんま獣人だよ。生まれれば誰の子かは大体検討がつく」

ドレンはヒグマ族の中でも珍しい白熊だし、グランドルに至っては唯一無二のライガーだ。

――どっちにしても生まれれば分かる。

シンは何かを確認するように下腹を擦りながら、静かに口を開いた。

「なあ、クリス……男なのに子供を産むってどういう感じだ?」

「ふふっ、男だからなんて関係ないよ。とっても素敵な事だ。まあ、腹を痛めようと痛めまいと自分の子供は可愛いけどね」

「……そうだな」

シンにとってもサミアンとノインは掛け替えのない存在だ。
この世界で生きる上で、掛け替えのない存在がまた一人増えるだけの事だ。

シンは腹の子が誰の子であろうと、自分が愛し、育てる事を決めた。


「クリス、俺は一人で産んで育てるぞ。ガインとお前には迷惑をかけることになるから、事情をちゃんと説明したい」

「……うん」

クリスは優しく微笑んで、シンの手を強く握った。
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