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第四章 二人の聖女(アラン視点 前半)
公爵家の提案
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「どう思う。」
「時間を置いたらまたすぐに本来の姿を、惜しげもなく見せてくれますよ。」
「そうだな。それからでも遅くはないか。」
あれだけ問題の多かった聖女がたった数日で改心するなどあり得ない。すぐに本性を表す筈だと静観したものの、その後アリサの態度はすっかり変わってしまった。
ユミとも仲良く話していたり、マナーも少しずつではあるが、身についてきている。何より男性との距離感が適切になった。それまでは馴れ馴れしく近づいてきたのが、今では淑女として恥ずかしくない距離でしか近づいてこない。
やればできるのではないか、と思うと同時に、アリサ本人が言った「あの時はどうかしていた」説に信憑性が出てきた。
マナー講師は、今までとは別の講師だが、前の講師の教え方が悪かったのではないか?と噂されたりしている。
アリサは時折、後ろに控えている男に話しかけては、屈託のない笑顔をみせていて、その様子に今度こそどちらかの聖女との結婚話が持ち上がる。
「だから、私はアンネリーゼと言う婚約者がいるのだと、言っているだろう。」
ついつい大きい声になってしまう私に、異論を唱えたのは、次期リーフ公爵の、グレイ・リーフ。アンネリーゼの兄だ。
「お言葉ですが、殿下。私の妹はあの日、召喚魔法により、消えてしまい、未だに帰りません。彼女の身の安全の保証もない今、リーフ公爵家との婚約は、解消していただきたいのです。」
今まで、アンネリーゼの無事をずっと祈り続け、王家を批判してきたリーフ公爵家からの申し出に、言葉を無くす。
「解消していただけるのでしたら、その上で、どちらかの聖女の後ろ盾となることをお約束致します。」
「ご結婚に必要な物も、全てこちらで揃えましょう。」
王家に対してずっと、聖女との婚姻を反対していた筆頭公爵家からの提案に、陛下も、そこに居合せた大臣達も、驚きを隠せていない。
アンネリーゼとの婚約は、政略だが、自分としては、唯一無二の相手として、一緒に歩んでいく筈だった。
恋愛感情は少なくとも、自分にはあったのに、彼女を守れなかった。守れなかった自分が言うべきことではないのだが、どうしても諦めきれない。
「少し考えさせてください。」
このままでは、アンネリーゼとの婚約は、解消されてしまうだろう。
それでも、最後まで考えたいのは、自己満足でしかない。アンネリーゼがいつか戻った時に、自分は最後まで抵抗したと言う言い訳が欲しいだけだ。
「このままだと、聖女に選ばれるのはどちらになる?」
「聖女召喚の儀で、来られたのは、ユミ様ですが、あの方の証言がありますからね。何か決定的な出来事があればいいのですが。」
そうは言ったものの、何も思い浮かばず、頭を抱えていた。
部屋を出て歩きながら、何かないか、考えていると、怪しい男が目に入る。
あれは、アリサの側にいつもいる、従者だ。
よく見て観察していると、やはりどこかで見たことがあるように思う。
ふと、彼に話しかける人がいる。アリサかと思っていると、それは、ユミだった。
そこで、私はハッキリと思い出した。どうして忘れていたのだろう。
あれは、あの男だ。あの夜会の時にユミを泣かせた、ユミの兄に似てる、従者だ。
何故、こんなところに?姿まで、隠して。
王子は未だに混乱した状態のまま、男の後姿を尾けてみた。
「時間を置いたらまたすぐに本来の姿を、惜しげもなく見せてくれますよ。」
「そうだな。それからでも遅くはないか。」
あれだけ問題の多かった聖女がたった数日で改心するなどあり得ない。すぐに本性を表す筈だと静観したものの、その後アリサの態度はすっかり変わってしまった。
ユミとも仲良く話していたり、マナーも少しずつではあるが、身についてきている。何より男性との距離感が適切になった。それまでは馴れ馴れしく近づいてきたのが、今では淑女として恥ずかしくない距離でしか近づいてこない。
やればできるのではないか、と思うと同時に、アリサ本人が言った「あの時はどうかしていた」説に信憑性が出てきた。
マナー講師は、今までとは別の講師だが、前の講師の教え方が悪かったのではないか?と噂されたりしている。
アリサは時折、後ろに控えている男に話しかけては、屈託のない笑顔をみせていて、その様子に今度こそどちらかの聖女との結婚話が持ち上がる。
「だから、私はアンネリーゼと言う婚約者がいるのだと、言っているだろう。」
ついつい大きい声になってしまう私に、異論を唱えたのは、次期リーフ公爵の、グレイ・リーフ。アンネリーゼの兄だ。
「お言葉ですが、殿下。私の妹はあの日、召喚魔法により、消えてしまい、未だに帰りません。彼女の身の安全の保証もない今、リーフ公爵家との婚約は、解消していただきたいのです。」
今まで、アンネリーゼの無事をずっと祈り続け、王家を批判してきたリーフ公爵家からの申し出に、言葉を無くす。
「解消していただけるのでしたら、その上で、どちらかの聖女の後ろ盾となることをお約束致します。」
「ご結婚に必要な物も、全てこちらで揃えましょう。」
王家に対してずっと、聖女との婚姻を反対していた筆頭公爵家からの提案に、陛下も、そこに居合せた大臣達も、驚きを隠せていない。
アンネリーゼとの婚約は、政略だが、自分としては、唯一無二の相手として、一緒に歩んでいく筈だった。
恋愛感情は少なくとも、自分にはあったのに、彼女を守れなかった。守れなかった自分が言うべきことではないのだが、どうしても諦めきれない。
「少し考えさせてください。」
このままでは、アンネリーゼとの婚約は、解消されてしまうだろう。
それでも、最後まで考えたいのは、自己満足でしかない。アンネリーゼがいつか戻った時に、自分は最後まで抵抗したと言う言い訳が欲しいだけだ。
「このままだと、聖女に選ばれるのはどちらになる?」
「聖女召喚の儀で、来られたのは、ユミ様ですが、あの方の証言がありますからね。何か決定的な出来事があればいいのですが。」
そうは言ったものの、何も思い浮かばず、頭を抱えていた。
部屋を出て歩きながら、何かないか、考えていると、怪しい男が目に入る。
あれは、アリサの側にいつもいる、従者だ。
よく見て観察していると、やはりどこかで見たことがあるように思う。
ふと、彼に話しかける人がいる。アリサかと思っていると、それは、ユミだった。
そこで、私はハッキリと思い出した。どうして忘れていたのだろう。
あれは、あの男だ。あの夜会の時にユミを泣かせた、ユミの兄に似てる、従者だ。
何故、こんなところに?姿まで、隠して。
王子は未だに混乱した状態のまま、男の後姿を尾けてみた。
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